第13話
本日2話目です。
ご注意ください。
あれから5時間。
見敵必殺の構えでゴブリンパーティーを狩りまくり、討伐数は100を越えた。
あ、たった今五月ちゃんが止めを差したヤツで108匹目だな。
経験値もそれなりに溜まり、あと20%程でレベル4になる。
ホラビィなんかよりも断然早いな。
だが、今日はこれでケトル村に帰る事になる。
こっからだと30分掛かるし、佐々木さんも待たせる事になるしな。
それに、もうすぐゲーム内では日が暮れる。
夜は危険過ぎてオレらにはまだ早い。
帰りは草刈りをしなくても良い分だけ早く進む事が出来た。
なるべく駆け足で進み、オレの『気配察知』で避けられる戦闘は避けて進んだのも大きいだろーな。
20分程で村まで帰り着いた頃には、西の山に日が沈んでいた。
オレらは急いで冒険者ギルドに向かい、リームさんに討伐終了の報告をして精算を済ませてみると、何と銀貨36枚になった。
これで悟志のブロンズブレストに続いて空牙も同じのを買える事になった。
小切手を受け取ってすぐさま宿屋へ直行してログアウト。
癒しの巨乳を待たせる訳にはいかねーからな!
午後のティータイムを優雅に過ごし、1時間の休憩を挟んだオレら。
今回は制限時間一杯の3時間のログインになる予定だ。
終わる頃には19時になってるはずだから、そのまま解散・帰宅となる。
ちなみに、ティータイムでは当然のように佐々木さんの胸のグランドキャニオンに包まれた。
「あら、申し訳ありません」
とか言いながらわざとらしくオレの後ろから倒れるように抱き着いてきたり。
挙げ句には膝枕しようと誘ってきたり。
折角のお誘いなんで膝枕されてみた。
美也子の膝枕とは違う感じがしたのは気のせいなんかね?
見上げた景色と額に当たる感触は最高だったけど、なーんかしっくりこねーんだよな。
……顔はにやけてますけど? うひひ。
まぁ、多分なんだが、佐々木さんは美也子達の反応が面白くて、オレでからかってるんだと思う。
友達居ないんかねー?
ログインしてすぐに村で唯一の武具店に向かおうとしたが、ゲーム内ではまだ真夜中だった。
武具店が開くのは朝6時、まだ5時間以上ある。
失敗したなー。
仕方ねーから夜の南の草叢を体験してみた。
ラットバットってゆーコウモリが現れたけど、コイツらは襲ってこなかった。
つっても、暗闇で黒いラットバットは見分けにくく、時々ぶつかっちまって戦闘になった。
てか、美也子がちょっとボーッとしてるよーな?
「大丈夫か?」っつったら「大丈夫」って答えるけど、んー。
あ、ラットバットの強さは大した事なかった。
そーやってラットバットを見付けては狩ってを繰り返して朝を迎えた。
経験値は1%しか増えてなかった。
……ホラビィ並か。
マズ過ぎるな。
村に戻ると朝6時を過ぎてたんで、すぐに武具店に向かった。
もちろん、空牙のブロンズブレストを買うためだ。
ちょっと大きめのドアを開けて店内に入ると、カウンターの前に1人のプレイヤーが居た。
しかも、この村では見た事もないような鋼鉄製の鎧に身を包み、背中には店の入り口のドアと同じくらい大きなバトルアックスが担がれていた。
恐らくはアックスベアラーの先にある二次クラスのソルジャーかリヴェンジャーのどちらかだろう。
装備だけ見るとスゲー格好いいんだが、残念ながら身長は五月ちゃんと変わらないくらい低かった。
これで可愛い女の子ってんならまだ救いはあったんだろうけど、オレらの入店に気付いて振り向いた顔は、どこからどう見てもムサいおっさんだった。
ずんぐりむっくりした体型はリアルドワーフそのものだ。
「お! 君達はニュービーか! 装備を買いに来たのか?」
リアルドワーフなおっさんが人の良さそうな笑顔で聞いてきた。
「あぁ。こっちのポールベアラーにブロンズブレストを着せようと思ってさ」
「なるほどなるほど。そっちのブロンズブレストを着たソードベアラーの兄ちゃんがメインタンクで、ポールベアラーの兄ちゃんがサブタンクって訳か」
「そーゆー事。おっちゃんはこんなとこで何してんだ?」
悟志、初対面のおっさんをおっちゃん呼ばわりか。
すげーな、コイツ。
「あー、俺はここの店主NPCとは結構な仲でよ、時々ここに来ちゃー装備のメンテ頼んだり世間話したりしに来る訳よ」
「えー? NPC相手に世間話ッテ……」
疑問顔の恵麻が言うと、ムサいおっさんも言い返す。
「おいおいお前さんら、このゲームのNPCをそんじょそこいらのNPCと一緒にすんなよ? こいつらにはちゃーんと感情パラメータが振ってあるし、データを蓄積してライブラリ化したうえでそれを応用出来るんだぞ? 殆ど俺達と変わらないんだ。……自由に出来る行動と歩き回れるスペースが狭いってだけでな」
「そうナノ?」
「まぁもうちょい待ってな」
おっさんの言う通り少し待ってると、店の奥から両手にそれぞれマグカップを持った店主NPCが現れた。
「おう、待たせたなグランツ。って、なんだ、ひよっ子共も来てたのか」
そう言ってムサいおっさんに左手のマグカップを差し出す店主NPC。
オレらはそれを見てびっくりした。
前回来た時も前々回来た時も、店主NPCはカウンターの中でテンプレ台詞と武具の受け渡ししかしてくれなかったんだが、今目の前に居る店主NPCはオレらが見た事もないような振る舞いをしているじゃないか。
正直、たかがNPCと侮ってた。
しかも、フリーズしたオレらを尻目に、ムサいおっさんと世間話まで始めた。
しかも1年前にムサいおっさんがこのゲームを始めた頃の思出話まで披露し始めた。
なんてこった……。
つまりアレか。
NPCだと思って無下な対応してると、オレらも同じように無下に扱われるって事か。
うーわー、早めに気付かせてもらって良かったぜー!
そーいや、冒険者ギルドの太っちょ職員とかも人間臭いリアクションしてたし、リームさんとも自然にコミュニケーション取れてたな。
もしかして……。
「普段何気なくすれ違ってた村人NPCとかも、挨拶したり話し掛けたりしてたら態度変わるのかな……」
オレが考えてた事を、五月ちゃんがぼそりと呟いた。
その呟きを聞いたおっさんがオレらに向かって言った。
「おう、その通りだ。まー中には忘れっぽいNPCも居るけどな。お、そーだミゴー。俺達が置いてった装備まだ残してあるか?」
「あん? あー、ありゃあ一部使い物にならない部位もあるが、一応まだあるぞ」
「そんじゃーよ、使える部位だけこのガキ共にくれてやってくれや」
「そうか、ちょっと待ってろ」
そう言うと店主NPCのミゴーさんは店の奥に引っ込んでった。
「いやいやいや! 何言ってんだよおっちゃん! そんなの要らねーって!」
「ガキが遠慮すんじゃねーよ。どうせ俺達にゃ無用の装備だ、お前さん達が使わねーんなら朽ちてくだけさ。遠慮せず貰っとけ」
「でもよー」
遠慮しよーとする悟志と、遠慮すんなと言うおっさん。
お互い平行線だ。
そこに店主NPCが大きなブロンズタワーシールドとブロンズソード、それにブロンズメイスとブロンズロッドを持って来た。
「防具類はさすがに傷みが激しくて使い物にならないが、武器とこのタワーシールドだけはまだまだイケるぞ。ほれ」
店主NPCがカウンターの上に並べたそれらは、壁に並べてある製品と比べると確かに消耗しているように見える。
多分それは、何度も修理したりリアル1年(ゲーム内で4年)以上倉庫に寝かされてた影響なんだろう。
所々に緑青が浮いてるしな。
そしてオレらが武器を見てる間にミゴーさんは防具の一部も持って来た。
ブロンズレガース(脛当て)が2組とブロンズグローブ(手甲)が2組だ。
「ブロンズブレストはサイズが合わん。そいつの体を見れば分かるだろ? 布製のは磨きに使っちまったし、革製のは腐ってグズグズだった」
「そうか。まぁこんだけありゃあ充分だろ」
確かに、これだけでも金貨2枚くらいの価値があるはず。
今のオレらでも30時間くらいゴブリンを狩り続ければ買えなくはない金額だけど、リアル換算で8時間だから来週末くらいにならねーと無理だ。
そう考えると結構な代物だな。
なのに、それを使わないからってだけでオレらにくれようとするムサいおっさん・グランツ。
……なんだろう。
見た目と違って無駄に格好いい名前だな。
装備やクラス的には有りなんだろうけどさ。
おっさんの顔や体型的には無しだよな。
「ほれほれ、遠慮すんなって。どうせ俺達にゃもう用がねえ代物なんだからよ。だったらミゴーんとこの倉庫で眠ってるより、若くて見所のありそーなお前さん達に使ってもらった方がコイツらも本望だろーよ」
グランツさんがそう言ってタワーシールドの表面をぺしぺしと叩く。
「でもよー……これ、ミゴーのおっちゃんにしたら営業妨害なんじゃねーの?」
悟志がミゴーさんをチラッと見ながら言うと、ミゴーさんがそれに答える。
「ま、確かにコイツらをタダでお前さん達に渡しちまったら店の売り上げにはなんねーな」
「だろー? だからよー」
「まぁ聞け。コイツらがうちの倉庫にあると邪魔なんだよ。それに、このまんまじゃ使えねーからちょっとした調整と修理、それに磨きもしなきゃなんねぇ。それにお前さん達、確かそっちのポールベアラーの兄さんのブロンズブレストを買うんだろ? だったらついでに銀貨をあと10枚足してくれりゃあ、コイツらの調整とか諸々込みで譲るって事でどうだ?」
なるほど。
どうやらこのおっさん2人は、どうあってもこの装備達をオレらに使わせたいみてーだな。
ま、ここまで言われちゃー後には引けねーが、うーん……。