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久しぶりの投稿です。
ちょっと暗めなのでご注意を。
しゃがみ込んで二人を両腕に抱きかかえながらポツリポツリ話し始める。
「……イヤとかそ言うのじゃないの。怖い、こわいよ。私は私なのに……。他の何者でもない、だたの女でただの柏木ゆりのでしかないのに……っ」
気がついたら涙が出ていた。
いきなり異世界に飛ばされて何も分からず、優しい人達が助けてくれたから泣いては駄目だと堪えて。どうしてなんでも言わないように笑顔でいよう、明るくいようって必死に過ごしてきた。
こっちの世界に来て泣きそうになった事はあったけれど泣いた事はなかったから、涙が溢れて止まらない。
「っ……ふ、……」
「ユーノ……貴女を悲しませたい訳では無い……。此処は冷える。家へ戻ろう」
下を向いて泣いていると私の周りが影で暗くなった。そして、ルーの声が聞こえたかと思うと、両腕に居る二人ごと私を抱き上げてそのまま歩き出してしまう。
「ル、ルー!?」
あまりにも突然の事でビックリして涙も止まってしまう。
「お、重いからっ。自分で歩けるし降ろしてっ」
「……貴女は軽い。重くなど無い」
「っ、ルーっ」
「イーシャちからもち、ゆーのあんしんして」
「イーシャ、いちばんつよい。あんしんして、おとめ」
と、私の腕の中ですっかり寛いでいる金と黒の二人はそう言った。そんな問題じゃないのっ。
「ルーってば!」
「……暴れないでくれ」
困ったように微笑まれて降ろしてくれる気がないのだと分かり、仕方なく身体をルーに寄せた。
ゆらゆら揺れる振動と腕に居る二人の温もりに、今までの出来事で張り詰めていた気持ちが緩んでいくと、急速に眠気が襲ってきて微睡んでしまう。
「……おやすみ、ユーノ」
「ゆーのおやすみ」
「おやすみ、なさい、おとめ」
頭のてっぺんと左右の頬に何かが押し付けられる感触がした。
***********
『ーーあなただけでも逃げなさい、ゆりの』
『……早く!』
いっぱい血を流した人が私に向かってそう叫んで、泣きじゃくる私を突き放した手にはあかくヌルつく血がべっとり付いていて、私の小さな手をあかくあかく染めていく。
『父さんと、母さんの分まで……立派に育て。ゆりのが何処に居ても見守っているから』
『ゆりの、愛しているわ』
男の人のあたたかい声と女の人の優しい声が、再度早く行きなさいと私を促し二人とは反対の方向に向かって走り出した。
少しも走らないうちに爆発音がして、その数秒後には大きな土煙りを上げながら迫ってきた爆風に私はなす術もなく巻き込まれて転がった。
さっきまで握っていた手はもうない。
「……パパ、ママ……ど、こ……?」
「ーーーっ、はぁ、はぁ……夢……」
目を開けると、私の部屋のベッドの上だった。ドクドク少し速い心臓が落ち着くまで深呼吸をする。
「……私、あのまま寝ちゃったんだ。後でルーに謝らなきゃ」
額に張り付いた髪の毛を拭い、外を伺うと月が輝いていたのが見えて少し涼もうと庭へ向かう事にした。
私がルーにお願いして造ってもらった、庭の泉の畔りに腰を降ろして足を水の中に浸した。少しだけひんやりとして冷たすぎなくて心地いい。
「……この時間じゃルーも寝てるだろうし、汗も流したいから水浴びしちゃおうかな?」
そんな誘惑に勝てずに一度タオルを取りに家の中に戻り、泉の畔りで着ている服を思い切って脱いで生まれたままの姿で泉に浸かる。
「……きもちいい」
あんな夢を見たからだろうか。彩おばあちゃんの好きだった歌が自然と口をついて出てきた。何処かの異国のキレイな旋律の歌。寂しくなるとよく彩おばあちゃんと一緒に歌っていた曲。
ーオトメ?ーーー
「おとめ、おきたのですか」
ーオトメガウタッテルーーー
しばらくそうして歌っていると、闇の子と小さな光の球体が幾つか集まってきた。一瞬ビクってなったけど、妖精達なら大丈夫。
泉から出てタオルを体に巻きつけ、また畔りに座って足でパシャパシャと水面を蹴る。
「……うん、起きちゃったから水浴びしてたんだ」
ーミズアビキモチイイ? オトメーーー
ーイイ?ーーー
「うん、気持ちいいよっ。キミ達も入る?」
ーボクハイイヤーーー
「えー? 気持ち良いのに?」
ーヒノハミズニヨワイヨ、オトメ?ーーー
「あ、そうだよね。ごめんね?」
クスクス笑いながら小さい妖精と話していると、闇の子がじっとこっちを見ている。
「どうしたの?」
「……かなうなら、あなたになを、あたえて、ほしいのです」
「え?」
「ひかりの、がうれしそうだから。わたしも、しりたい」
真剣な表情でそう言って頭を下げた。
「……うん、分かったよ」
そうは言っても私がちゃんとつけられるか分からないけれど、頭を抱えながらも考えた。
「……あなたは優しい子だから闇に捕らわれない、白夜のハクね?」
「はく……や」
すると、闇の子が淡い光に包まれ眩しくて目を閉じる。しばらくすると、誰かに手を取られて目を開けた。
目の前には、16歳くらいに成長した闇の子が出逢った時のように片膝をつき、手の甲にキスを落とした。
「っっ!」
「ありがとうございます、乙女。凄く嬉しい」
柔らかく微笑むと小さい時の面影があって、闇の子が大きくなっただけだと思えた。……妖精の子は皆、顔立ちが整っている気がする。男の人に慣れていない私にはすごく心臓に悪い。
* * *
今度はハクも一緒に泉に足を浸けて涼んだ。誰かと一緒に居ると荒んでいた心が少し落ち着いて和いでいき、再び歌を口遊む。
「どうしたのですか?」
「え?」
「泣きそうな顔をしています」
ハクが眉をハの字に下げて私を覗き込んでくる。笑えていると、思っていたんだけどな。やっぱり夢に引き摺られているんだろうか……。
「そんな事、な……」
「ユーノ」
「っ!?」
あっと思った時には、私に向かって声を掛けてきた主の腕の中に居た。
「ちょ、ちょっと離してっ。ルー!」
「……嫌だ」
「濡れちゃうよ」
「構わない」
タオル一枚でギュウギュウに後ろから抱き締められてルーの体温を直に感じてしまい、恥ずかしくって困り果てる。
「独りで泣くな。……何故か貴女の涙を見ると此処が苦しくなる」
「ルー……?」
腕が緩みルーの方を向くと、そう言いながらルーは自分の心臓の辺りを指でさして苦しそうな顔をしていた。
次回は、ルー視点が入ります。
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