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森に入ってしばらく経つけれど、一向にお目当の野草が見つかる気配がない。
(あれ〜? おかしいな。この辺だった筈なんだけど……)
いつも通っている道を辿り、野草の群生地を探すが中々見つからなかった。
もう少しだけと、けもの道を進むうちに同じ所をグルグル回っているような感じがして、自分がどの方向から歩いてきたのか分からなくなってしまう。
「…………ま、迷子?」
あれだけダンさんに言われたのにっっ。それにずっと歩いていたから疲れてしまった。
(ダメだ、ちょっと休もう。……あの木が良いかな?)
息を吐きながら目的の木の根に腰を下ろして、迷子になった時の対処法を考えたけれど、全然何も浮かばない。困ったな。
暫くそうしていると近くの茂みがカサカサ音を立て揺らめく。
(獣? ……まさかクマ!? いや、こっちの世界にもクマっているのっ!!?)
さらに茂みがガサリと大きな音を立てて動くと、影が飛び出してきた!
「ひゃぁぁぁっぁぁぁぁ! やっぱりクマなのーーー!?」
「……っ……?!」
悲鳴にビックリした黒い影は肩を飛びあがらせて私の方を向くと、虹色の瞳?と呟き、黄色金剛石の瞳が零れ落ちそうなくらい目が見開いた。
影はクマではありませんでした。私の早とちりデス。
しかも、その人は綺麗な顔立ちの男の人で黒色の髪の毛が凄く長い。ふくらはぎ位まであるんじゃないかな? それに、やっぱり身長が大きい。近くに行って顔を見ようとすると、首が疲れるまで見上げるしかない。
ー……、……? ……ヨ……!ーーー
ー! ………ダ! イ……!ーーー
「……まさか……。あっ、貴女は……花かげの乙女なの……か?」
複数の囁きみたいなものが聞こえたような気がしたけれど、その人が話し始めると囁きはピタリと止んでしまう。私の空耳かな?
「え? らが……?」
「……っ……」
私がその人を見上げて首を傾げると、薄っすら顔を赤くして横を向いてしまう。
しばらくの間、沈黙が流れて焦れた私がもう一度話し掛けようとしたら、またポソポソと囁きが聞こえてきた。
ーイ……? ……シ……ノ?ーーー
ード…………?ーーー
ー……、…………ヨ?ーーー
空耳じゃないの? 何か居るのかな。と思うとまたピタリと囁きが止む。
(あれ、声に出てた?)
「…………妖精達の声が、聞こえるのか……?」
「ようせい?」
ーオトメ!ーーー
ーコエ、キコエルンダ!ーーー
ーオトメワカルノ? コエ、トドク……?ーーー
ーキコエル?ーーー
ーオトメ、オトメーーー
「きゃっ。な、何っ? ……きゃぁっ?!」
「!」
その人がゆっくり喋ると私の周りに何かが飛び交う気配が膨れ上った。
急に聞こえ始めた、たくさんの声にビックリした私は軽くパニックになって、後ろに逃げるように足を引くと地面から出ている木の根に足を取られてしまう。
後ろに倒れるってギュッと目を瞑るけれど、背中に触れた少し硬い感触の温もりが私を支えてくれた。不思議に思って、ゆっくり目を開けると端整な顔立ちが間近にあり、その腕に抱き留められていると理解した瞬間、心臓が大きく脈打つ。
時間が止まったかと思った。
ドキドキ激しく鼓動する心臓と、
頬を撫でる長い髪と、
背中にある逞しい腕の温もりが私の体温を上げていく。
「あああり、ありがとうっございますっ」
「いや……。っ、大丈夫か?」
ドキドキしてうるさい心臓を鎮めようと距離を取ろうとするけれど、私が動くより先に男の人が離れた。それこそ、シュバって音が聞こえそうなくらい素早く。はやっ!?
ーイーシャカオアカイ?ーーー
ーアカイ?ーーー
ーオトメダイジョウブ?ーーー
ーイーシャ?ーーー
ーアソボウ、イーシャーーー
「っ、煩いっ。お前達は静かにしてろ」
呆気にとられている私をそっちのけに、妖精達は好き勝手に喋りながら顔を赤くした男の人の周りをビュンビュン飛んでいる。
何だかその光景が可笑しくて笑ってしまった。
気が済むまで笑うと男の人に自己紹介をする事にする。
「私は柏木ゆりのです。皆にはユーノって呼ばれてます。貴方の名前は?」
「私は……」
ーイーシャハイーシャダヨ? オトメ?ーーー
ーオトメ、ユーノ?ーーー
ーユーノ! オトメハユーノ!ーーー
妖精達が一斉に話し出して、また笑ってしまった。
やっと出てきました☆
甘酸っぱい雰囲気なんて瞬殺デスヨ(笑)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます☆
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