第6話 苛立つダン
一方その頃、選別の間では後半の業務が粛々と進められていた。
「実績なしっ!」
「刻印なしっ!」
イノとマミヤの声が選別の間に響く。
その残音を掻き消すように、選別所の主であるダンの重く低い声がそれに続く。
「地鳴りヶ丘!」
戻魂の行き先を告げるダンの言葉は次の選別開始の合図でもある。
中央の階段から職員に伴われて姿を現した白い姿の戻魂が、所定の位置につく。
つい今しがた選別された戻魂は、職員に促されて右側の扉から出て行こうとした時には、次の選別は始まっていた。
「実績小!筋力特化!」
「刻印なしっ!」
「選別所!」
職員に左側の扉へと誘導される戻魂。
その姿が扉の先に消える前には、すでに始まろうとしている次の選別……選別の方法がこのような形になったのは、ダンが所長に就任してからである。
近年、戻魂が異常な速度で増え続けている。
あらゆる方法で選別の効率化を図ってはきたが、これほど簡素化しても選別を待つ戻魂は増える一方であり、その事実はダンをおおいに悩ませていた。
実際、これ以上の改革はダン自身も不可能だと感じている。
さらなる効率化を目指そうものなら、選別の質が低下するのは間違いない。
打つ手が見つからない自分の不甲斐なさが腹ただしく、消えることのない苛立ちだけが蓄積されていく日々。
そういう事情から、少しでも選別に遅れが出ることをダンはとにかく嫌がった。
良策が見つからない以上、今のやり方をロスなく完璧にこなしていくしかないではないか…。
そんな余裕のない自分自身が、職員達にストレスを与えているのも理解していた。
過度な緊張はリズムを狂わせ、考えられないような単純なミスを生む。
選別所全体が悪循環に陥っていた。
そしてこの日、ダンが何よりも嫌がる、選別を遅らせる事態が前触れもなく突然訪れる。
それがヴァルハラ倭国全土を狂騒させる序曲である事は、その時点で誰も気付いていない。
順調に進んでいた選別作業が突然中断したのは、午後の業務が始まって1時間ほど過ぎた時だった。
中央の階段から選別を受けるべき戻魂が現れず、場は一瞬で緊張に包まれる。
「何をしておるっ!」
ダンの怒りに観察者の二人は顔から血の気が早くも失せていた。
「何をしておると聞いているのだっ!!」
さらに凄味を増した怒声を放つダンの威圧に、イノとマミヤは意識を保つのが精一杯だった。
文字人でもある観察者の二人がこの状態である…階段にいる職員の数名はすでに倒れていた。
侵入者を連れてきたアツでさえ、報告を躊躇っている。
「なあ、行かないのか?」
何を呑気に言ってくれるんだと侵入者をジロッと睨むが、確かに時間をかけるのは得策ではない。
このままダンの怒りが高まり続けると、せっかくの手柄の価値がなかったものにされてしまう可能性が考えられる。
「君は呼ばれるまでそこで待っていなさい」
覚悟を決めて、アツは階段を一段ずつ上がって行った。
鬼の形相をしたダンが視界に入ってきた時には気を失いそうななったが、気力を振り絞り階段を上がりきると、大仰に跪いた。