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桃鬼争乱ーー桃源郷に棲む鬼ーー  作者: 日向あぶ
第1章  君に会いたかった
3/9

第3話 夢と現実の狭間で

人形みたいな白い物体だらけの空間でようやく話せる相手が見つかったと安心したのも束の間、アニメでしか見た事がないような現象を目の当たりにして、もう訳が分からなくなっていた。



そんな相手に何者だと聞かれ混乱はさらに深まる。



(何者という言葉ってどんな状況の時に使われるんだ?誰だって聞かれるならまだしも……)



「答えたくないなら黙っておけばいい。君を連行する」



(俺の事を知らないだけで何者なんて言葉使わ…な……えっ!?今、連行って聞こえたけど………何で……嘘だろ!?ちょっと待ってくれ!いったい俺が何をしたというんだ……)



吹き飛ばされたダメージ云々の前に、この短時間で受けた精神的ダメージは相当あるようで、座っているだけでも辛く感じる重くなった身体。



だが、言われるがまま流されるまま連行される訳にはいかず、力を振り絞り背筋を伸ばして目の前にいる男を睨みつける。



「君はいったい何者だってこっちが言いたいんだけど。それに何で俺があんたに吹き飛ばされなきゃならないんだよ。って言うかここどこ?それに……さっきいったい何したの?何であんな事出来るの?あんた誰?何で連行されるの?あの白い人形は何?あぁーーーっ、もう意味分からんしっ!!」



今思っている、嘘偽りない素直な気持ちが全部口から出た。



途中から悔しさと腹立たしさがこみ上げてきて泣けてきたのを隠そうと、まくし立てたと同時に俯いた。



(何してるんだよ、俺……)



幸か不幸か加速度を増して広がっていく惨めな気持ちを抑えてくれたのは、目の前に立つ男が間髪入れずに発した言葉だった。



「立ちなさい。一応言っておくが、逃げようとしても無駄だ。私は文字人だ。君が太刀打ち出来る相手ではないぞ」



喜怒哀楽…今の場合、喜と楽はこれっぽっちもないが、そういった気持ちが全部吹き飛んで……全身から力が抜ける。



(脱力ってこういう事なんだな…こいつ自分の事しか考えてないわ。君が太刀打ち出来る相手ではないって、そんなの聞いてもないっつーの。会話にすらならないんだから何にも出来ないって……無理だ。アウトだ。そもそもいったい何なんだろう、この状況は。夢でも見てるのかな…きっとそうだ…確か今日は試験だったよな…単位ギリギリなんだから、遅刻なんて出来ないんだから、だからこんな嫌な夢から早く目覚めろよ、俺!)



男は俺の背後に移動し、両腕を脇の下に入れ無理矢理立たせようとするが、糸の切れた操り人形のようになった身体に四苦八苦している。



(あれ!?何で自分が見えてるんだ?)



自分でも不思議だが、これは夢だと考えた瞬間から自分を周りから眺めているような感覚…意識だけが身体を離れて独立したような状態になっていた。



(夢の中で幽体離脱みたいな感じっておかしくないか?それにしても…何て顔してるんだ、俺は)



非日常な状況下で非日常的な体験。



夢だから何でもありなんだろうけど、それにしてもリアル感が半端ない。



「…この状況でよく笑ってられるな。さあ、早く立ちなさい!」



どうやらこの男には俺の表情が、笑っているように見えるらしい。



(違うだろ!どちらかと言えば困っている顔だろうが。普通の人間ってのは、切羽詰まるとこんな顔になるんだよっ!)



「ちょっとちょっと…大丈夫?勝手に侵入したのは君だろ?捕まっておかしくなるぐらいの覚悟なら最初からやめておけよ。ったく、君は私のささやかな幸せである平穏な一日を台無しにしたんだぞ。これ以上、私の邪魔をしないで大人しく手柄になりなさい」



持ち上げていた身体をいったん離した男は、再び座り込む形になった俺の顔の前に手を翳す。



(何を言ってるんだ?手柄なんて……あっ!こいつまたやるのか!?やばい、完全に無防備だっ!!)



「処方………快気」



全身がビクンと反応する。



と同時に俺はその場に戻っていた…まるで夢から覚めたかのように。



「これで大丈夫だろ?もう自分の世界に逃げないでよ」



男はそう言うと、再び立つように指示を出す。



また衝撃が襲ってくると思っただけに拍子抜けした格好だが、冷静に考えると今もおかしな事をした…間違いなく。



その証拠に、先ほどとは違って身体に力が入る…いや、力が入るどころか漲っていると言った方が正しいかもしれない。



(やっぱりこいつ普通じゃない。快気って言って手を翳して本当にそうなってる。確か夢は深層心理を映し出す鏡って感じの言葉があったはずだけど…俺の願望ってこんなんでいいのか?…そんな事は今はいいか…)



良いか悪いかは別として、ありえない状況に感覚がマヒしてきたのか、どうでもいい事を考える余裕が少し出てきて、ちょっとだけ気持ちが落ち着いた。

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