7
戦いの最中。
何度か鍔迫り合いになることで、俺の鎖をシンラは投げ出した。
戦いに夢中になってるのだろう。
俺は岩に座りながら、お茶を啜っていた。
「ふぅ……。お茶って美味いな」
近くでは未だにやりあってるシンラとヨイチ。二人とも額に汗を浮かべながらも、気持ち良さそうだ。
「まだまだ行くよ!」
「俺だってまだまだ行けるッ!」
もうさ、俺、鎖解いたし意味なくね?
夕方まで、シンラとヨイチの戦いは続いた。やがて、どちらからともなく仰向けに倒れ、シンラとヨイチは夕焼けを見ながら、息を切らす。
「はぁ、はぁ……にいさん、やるね……」
「はぁ、はぁ……き、キミこそ、やるじゃないか……」
熱く戦った二人。勝敗は決さなかった。だが、二人には友情が芽生えたのだ。そんなところだろうか。側から見ていた俺からしたら、ほんといつまでやってるんだろうって感じだった。
途中、ヨイチの攻撃が外れ、シンラのチャンスかと思いきや、シンラも転んでヨイチのチャンス到来。そこからは無限ループだった。
何が言いたいかというと、本人達は全力だったんだろうけど、俺からしたら完全に同じ番組を延々と見させられているかのような気分だったわけだ。
クッソつまらない。
「じゃあさ、シンラ。キミも俺達と一緒に旅をしないか?」
ゆっくりとヨイチが起き上がり、シンラに提案をした。俺様は巨乳好きとして名を馳せているから、貧乳のシンラと共に旅をするのは複雑なんだがな。
シンラは起き上がり、首を横に振った。
「……ううん、アタシやらなきゃいけないことがあるから……」
「やらなきゃいけないこと?」
「うん……実はね。アタシの故郷ってさ、元々貧しかったんだけど、国宝があったの。その国宝さえ取り戻せたら、もう少しだけ改善されるかもって思って、今、世界中に散らばった国宝を集めてるんだ」
「国宝? 元々貧しかったんだろ? それなら別のもの探せばいいじゃねーか」
俺はシンラに近寄って、ありのままを言い放つ。だが、シンラは首を横に再び振った。
「違うよ、国宝がないと機能が再生されないんだよ。それで、この近くにある盗賊のアジトに国宝があるらしくて……。だから、ごめんね! クマ太郎!」
「俺はクマ太郎じゃねぇーよ」
「また、どっかで逢えるといいね!」
シンラは起き上がって、そのまま走って消えてしまう。
その後ろ姿を見ながら、ヨイチが呟く。
「ここら辺の盗賊って、確か城下町の裏組織とも繋がりがあるっていうホーククロウ団じゃないかな……」
「あ? なんだそりゃ」
ヨイチは暗い表情をして答えた。
「ホーククロウ団って、元々は城下町の上にいる貴族がやたらと平民をバカにするから仕返ししようと企んで、貴族を困らせたのが最初なんだ」
「じゃあ、案外いい奴じゃねーか。それなら、別に国宝返してくださいって言えば返してくれるんじゃねーか?」
「それがそうでもないよ。最近ランク争いがあったらしくて、当時リーダーを務めていた人が降ろされて、ホーククロウ団全体の方針が変わったんだよ。今や、街歩く人を脅し、金目のものを盗む。女の子なら無理矢理……なんてこともよく耳にするよ」
「詳しいな」
「やることがなかったからね。全部新聞の知識だけど」
シンラを心配しているのか。ヨイチの表情から、考えが読み取れた。だけど、俺にももちろん、ヨイチにも一盗賊団と戦う力はない。
ここはシンラの無事を祈るだけの方が得策だろう。
そこで、俺は枯れ葉を踏む音を耳にした。
「誰だッ!」
「クマキチ? どうしたの?」
「ヨイチ、離れてろ」
俺は片手で制し、ヨイチを下がらせる。
草陰から、タンクトップ姿の男が現れた。他にも、バンダナをした男。さらにはペットだろうか。ライオンみたいにドデカイ奴まで引き連れている。
まるでサーカスの面々だ。
「ちょっとさぁ、飛び跳ねてくんねーか?」
「あ? 飛び跳ねる? 古典的なカツアゲなんかしてんじゃねーぞ」
きっとヨイチに言ったつもりだったのだろう。またもや、ぬいぐるみの俺が喋ったという驚きのリアクションを三人の男は見せてくれた。
もう慣れたな。
「ちょ、クマキチ……。これが噂の……」
「わかってる。さっきは偶然蛇の魔物が出てきたから良かったが、ずっとこいつはヨイチ、お前をつけてたんだよ」
「喋るぬいぐるみか、高く売れそうだなぁッ!」
いきなりタンクトップ姿の男が突っ込んできた。
俺の視界に称号が表情される。
一撃必殺を授かりしぬいぐるみ。
拳に陽光のようなものが宿り、俺はタンクトップの男の腹部に打ち込んだ。
「ねんねしてな。昭和のヤンキー」
「ぐはっ!? わ、わけ……わか、ら……ん」
まず一人をうつ伏せに倒した。
ヨイチは目を見開いて、俺の姿を見届ける。
「ヨイチ。お前は武器ありきの戦いだ。流石に人間までは殺したくない筈。今試したが、俺の一撃必殺は人間相手であれば、死なないようだから、俺がやる」
「く、クマキチ? 戦えたの?」
「当然」
俺は親指を立ててグットラックポーズを取り、笑顔を見せた。
やがて、バンダナの男がボウガンを構え、俺に照準を合わせてくる。
「ぬいぐるみなんだろ? ならこれで死にな! 滅殺ッ!」
ボウガンの矢が飛んでくる。
俺は振り向きざまに紙一重で躱す。
避けられたことにより、若干の動揺が見えるバンダナ。
神から恵まれし超運。発動。
俺は再び一撃必殺の光を拳に灯し、バンダナに迫る。
「ウォォォラァッ!」
「ひ、ひぃっ!?」
バンダナ男は腰を抜かす。この男を庇うようにしてライオンみたいな黒い毛をした動物が間に入った。
俺の拳が減り込み、黒毛ライオンは吹き飛び意識を失ったようだ。
残るバンダナ男。
かなりの戦闘能力を誇る動く俺様を前に、泡を吹いて自分から気絶してしまった。
「ふぅ、終わったぜ」
「く、クマキチって一体何者なの……?」
恐る恐るヨイチが俺に問いかける。
俺は笑って答えた。
「ただのハーレム王を夢見るクマキチさ」
「あはははは、やっぱりいつものクマキチか!」
少し驚いたのか、だがヨイチはすぐにいつも通りに戻っていた。
立ち上がって二人の男を見下ろす。ペットは魔物じゃないのだろうか。一応無事だった。
称号はどうやら、俺の状況に自動的に合わせて発動されるシステムらしい。そして、このシステムはきっと世界で俺だけのものだろう。
「このままにしておくのも、魔物が食べちゃいそうで怖いよね」
「俺はこいつを食うほど空腹の魔物なんかいないと思うけどな」
「どうしようか……。あっ、さっきシンラが置いてった鎖を使おっか!」
「そうだな」
それから俺とヨイチは二人の男とペットを鎖で巻きつけて、俺達はテントを張って野宿することにした。
森は完全な夜を迎えた。テントの中でヨイチは疲れて眠り、俺は称号について考えている最中だ。
称号って今まで与えられてわけのわからないものから、結構大事な局面で発生するものまで様々。
ヨイチやヘリスは魔法をわざわざ詠唱をする。ヘリスは白魔法とかいう回復系の、まあま医者らしい魔法を使った。
反対にヨイチは持っている魔法をまだ使ってない。俺が拾ってきた魔剣とやらの能力をそのまま使ったのが魔法みたいな感じになった。
つまり、この世界で魔法を使うのなら詠唱が必要ということだ。
「いや、待てよ……。ヨイチは武器とか服を作るときに魔力が必要って言ってたな……。それってつまり……」
生活用品を作るのに魔法があるのか? それなら、もしかしたら魔法って作れるのか?
だとしたら、俺はまず実現させたい魔法がある。
自らおっぱいを揉んでくれと言うような誘惑魔法。それに服の一部だけを破る魔法。
夢が溢れてるなぁ……。
テントの外に出ると、鎖に縛られていた黒い毛のライオンらしきペットが目を覚ましていた。
「目を覚ましたか。お前だけじゃ、意味がないんだよなぁ……」
『あ、お前っ!』
またか。
ここに来て確信に変わったことがあった。
俺、というかクマキチ自体の能力なのか、テレパシー機能が備わっている。つまり、ヘルフレイム・ドラゴンとか色々魔物の声が俺には聞こえるんだ。
こいつも魔物の部類なのか? なら、なんで死ななかったのか疑問が浮上する。けど、今はそんなことどうでもいいか。
「おい黒毛ライオン」
俺は黒毛ライオンの毛を掴んで睨みつけた。
『ひぃっ!?』
「悪いけど、俺ぁホーククロウ団とかいうのを探してんだよ。居場所知らねーか? 相棒がよ、知りてーらしいんだよ」
『ば、場所なら、わ、わかるので、クマパンチだけは……』
クマパンチ? まさか俺様の超絶華麗な一撃必殺をそんな可愛い名前で片付けられるとは思ってなかったな。
「とりあえず、名前は?」
『ぼ、僕はブラックウルフのブルです……。この人達は僕の飼い主のタンガンとスナイデルです……』
どうやらタンクトップの方がタンガンで、バンダナの方がスナイデルらしい。 まぁ、俺を襲った罰としていい手駒にしてやるがな。
ブルと話していると、タンガンとスナイデルが目を覚ました。
「う、う…………」
「ここは……?」
「おう、目覚めか。俺様の華麗なパンチはどうだった?よ く眠れただろ?」
「ば、化け物クマッ! ……あがっ!?」
「もう一度変な名前で呼んでみろ。今度は天国まで吹き飛ばしてやる」
「す、すいません……」
俺様を化け物呼ばわりするタンガンの顎を軽く小突いてやった。
すると、この二人と一匹は俺に従順になった。どうやら、俺様は人の下よりも上に行く素質のある人間らしいな。あ、今ぬいぐるみか。
ちらっと俺はテントを見た。
さっき、テントには魔物隠れとかいう薬でヨイチ自ら巻いていた。つまり、一晩はヨイチの安全は保障されるわけだ。
シンラのことは気になっていた。とはいえ、ヨイチが一緒ではお守りをしながら戦わなければならない。それなら俺様一人で出向いた方がいいだろうと思ったのだ。
「おい、ダンカン、スナイデル。お前らさっさとアジトに案内しな」
「そ、それは」
俺はシャドーボクシングをしてみせた。
「あー最近、俺サンドバック欲しいと思ってたんだよなぁ。あ、いいところにサンドバックが!」
「か、かしこまりしたッ!」
スナイデルが、それはそれは見事な敬礼をしてみせる。それで良い。俺様には逆らわない方が身の為だぜ。
「ここからどれくらいだ?」
「歩いて三十分くらいです! クマの兄貴!」
「おぅ、じゃあブルに乗って飛ばしたら、少しで行けるじゃねーか。なぁ?」
『さ、三人はちょっと……』
「あー、俺ぁ今ちょうど狼の肉が食べてーな」
『かしこまりました! クマの兄貴ッ!』
これでシンラのことを助けに行ける。
足はブルがいるし、地図は子分二人。
充分だな。
ブルに俺達三人は跨り、出発する。
獲得称号
・無職のぬいぐるみ:効果不明
・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明
・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明
・神をオカズに抜く男:効果不明
・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。
・竜に挑みし者:効果不明
・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明
・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明
・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号
・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。
追記
人間や、そのペットでは気絶させる程度に弱まる。
上級魔物討伐達成
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