表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

6

「腹減ったぁー」

「さっきからそればっかりだよクマキチ」

「っていうか、俺思ったんだけど、クマキチって名前どうなの!?」

「可愛いと思うし、見た目とマッチングしてるから良いと思うんだけどなぁ」

「もうちょっとカッコいい名前がいい! 改名したいぞ!」

「えークマキチはクマキチだからなぁ……」


 俺とヨイチは村から出て、ノウス魔洞北の森というのを進んでいた。真昼間で快晴の筈なんだけど、木々が凄いから意外と暗い。

 さっきから魔物は出ないが、嫌な雰囲気が漂ってるのは感じていた。それはヨイチも同じようで、変な空気が充満してるのに気づいている。

 だが、会話を交わすことによって、その不気味な何かから俺達は気を紛らわせていた。


「というか、なんで鍛冶屋しかやらなかったんだ?」

「そうだなぁ、やれと言われたからかな? それに実際面白いしね」

「ふぅん。俺はおっぱいの大きいお姉さんを枕にして寝る方がよっぽど楽しいけどな」

「それはクマキチが変態だからだよ……」


 鍛冶屋と一言では言えるが、ランクは様々だという。本当に優れた鍛冶屋は、村とかの集落で暮らすことはなく、一人で資材の取れる森とか山とかにいるようだ。

中にいる剣聖という五人衆がいるらしいが、それに遭うのもヨイチの目標らしい。

そんな中、草むらが揺れた。

 俺は一早く感づき、足を止める。


「一人……いや二人か」

「クマキチ? わかったの?」

「ああ、呼吸が聞こえる」


 俺は足元にある小石を拾って草むらに投げつけた。


「そこだ!」


 石ころが草むらに入る。

 すると、ガサガサと揺れて草むらから何かが飛び出てきた。

 緑色の蛇だ。


「ふっ、魔物か」

「カッコつけてる場合じゃないよ! しかもさっき人間がいるとか思ってたでしょっ!?」

「どうでもいいだろっ! 俺は俺なりに感じたんだよ」

「あてにならないなぁ……」


 溜息を吐きながら、ヨイチは予め用意してあった剣を抜こうとする。背中に手をやるも、そこには剣はない。


「なにやってんだよヨイチ」

「あれ? け、剣がないっ!」

「はぁ? あれほど準備しろって……あれ?」

「え? クマキチも?」

「ない、ないないないっ! なーなーないッ! 俺の、エロ本がぁぁぁぁぁぁっ!」

「最初から持ってないでしょ」

「そうでした、てへ」


 呑気に会話していると、蛇が怒ったのか。キシャァッと鳴き声をあげる。


「ちょ、クマキチがふざけるから、怒っちゃったじゃん!」

「俺のせいにするなよっ! ほら、来るぞっ!」

「ええええええ!?」


 蛇がグニャグニャと身体を曲げながら迫ってきた。

 俺が拳を構えると、視界に文字が浮かんだ。


 称号・竜殺しのぬいぐるみ

 称号・老人を気遣うぬいぐるみ

 達成・魔竜・ヘルフレイムドラゴンの討伐

 達成・魔竜・ポイズンドラゴンの討伐


 何やら、称号ではない文字。達成とか書いてある。これって昨日の奴のことだ。

 称号の文字が消え、達成の文字列二つが光った。


「なんだこれ?」


 やがて、俺の目の前にドスンと重い音をたてて何かが落ちる。


「クマキチ、どうしようッ!」

「焦るなヨイチ。これ使え」


 よく見ると、落ちた物は剣だった。真紅の剣と深緑の剣。二つ同時に持とうとしたが、どうも、モフモフした手では限界があるらしい。

 俺は一本を両手で持って、ヨイチに手渡した。


「こ、これ? どこから? 泥棒は良くないよ?」

「そんなこと言ってないで、早くしろっ!」

「う、うんッ!」


 ヨイチは真紅の剣を鞘から抜く。

 すると炎に包まれた刀身が現れた。


「こ、これは……」

「いいから早くっ!」

「わかった」


 ヨイチはすぐそこに迫っていた蛇に、剣を振るう。


「えりゃぁッ!」

「キシャァッッ!」


 重い剣を滑らせ、蛇の喉を真っ二つに斬り裂いた。

 炎に包まれた刀身は、まるで紙でも斬るかのように蛇を綺麗に倒したのだ。

 ヨイチはすぐに刀身を鞘に収める。


「間一髪かぁ……」

「何が間一髪かぁ……だよッ! これ、どうしたの!?」

「あ? これか? よくわからん。文字が浮かんで、なんか落ちてきた」

「意味がわからないよッ! これ、なんだか知らないの?」


 妙に興奮しているヨイチに、俺はめんどくさくなってきた。だが、気になるは気になるから俺もヨイチを無碍にできない。


「なんなんだ。それ」

「まず、世界のことについて話さないとね。この世界には七色の竜っていうのがいて、とっても強いんだけど、その手下で十四匹いるのが魔竜種なんだ! その魔竜種を倒すことでしか得られない武器がこれなんだよ!」

「へ、へぇ……。俺様あんまり興味ないからなぁ……」

「これは獄炎の魔剣で、こっちは死毒の魔剣だね。どっちもお宝だよ!?」

「へ、へぇ……いや、待てよ」


 俺様の脳内に電流が走った。

 今の話が本当ならば……。

 お宝→売却→お金持ち=おっぱい揉み放題!?

 俺はすぐに、ヨイチから剣を取り返した。


「ヨイチよ。これは俺の物だ。悪いが今後の生活資金に返させてもらう」

「え? 生活資金ならあるし、というかクマキチ凄いいやらしい目つきしてるよ……」

「そんなことはない」

「すんごい、ニヤけてるけど……」


 ヨイチは溜息を大きく吐いて、俺から剣を二本とも奪った。

 それ俺のだぞ!


「ちょっと待て――――」

「ダメだからね。こんな大切な物を売ろうとしたらバチがあたるよ」

「チッ」


 まぁいい。金なら適当に稼いでやるさ。今度魔竜とかいうのにあったら、ぶっ倒して武器をすぐに売りさばいてやる。


「とりあえず、ここらで休憩でもしようか」

「そうだな、腹減ったしな」


 近くの岩に腰を下ろす。


「それにしても魔物がもっといると思ったんだけどなぁ……」

「奴らはどうせ夜行性だろ」


 俺は日持ちするパンを食い千切りながら、地図を広げた。

 城下町まではもう少しある。ここで休憩を取るのは、的確だったな。

 そう思いながら、パンを食べていると、突然ぐぅぅぅっという空腹の音が響いた。

 隣のヨイチかと思ったが、どうも違うらしい。その証拠に空腹の筈なのに、獄炎の魔剣と死毒の魔剣に、子供のように夢中になっている。

 では誰なのか。俺は周囲に視線を配ったが、どうも人らしい影も魔物らしい影もない。いや、もしかしたら、気配を消しているのか?

 長年、海音からの逃亡生活によって培った俺の第六感が働く。

 しばらく待っていると、いきなりドスンと音をたてて何かが落ちてきた。


「ぐはぁっ」

「あ?」

「どうしたのクマキチ?」


 落ちてきたのは女だ。

 短めの黒髪に、黒装束を纏った若い女の子。年齢は俺よりも下だろうか。顔は良いが、胸が推定BかCだ。つまり俺にとっては女じゃない。


「なんだこいつ」


 俺は足で軽く蹴飛ばした。


「ちょ、何するっ…………ってぬいぐるみが動いてる!?」

「それが何か?」

「喋ったっ! すごーいっ!」


 俺の手を突然握る女。

 なんかやけにうるさくて敵わない女だ。

 いろんなところを触ってくる女に、俺は遂にキレた。


「テンメェみたいな毛も生えてないクソガキが勝手にプリティーフェイスな俺に触るんじゃねぇよッ! 俺様はハーレム王になる男なんだよッ! テメェーみてーなちんちくりんを相手にしてる場合じゃねぇーんだよッ!」

「あ、怒るんだ! そりゃそうだよね! ごめんねチ○コ触って」


 俺に落雷が落ちた。


「……さ、触った……だとっ!?」

「うん、柔らかいね! キミのチ○コ」

「テメェ、さては男だろッ! ホモか!? ホモなのか!? 子供だからって許されると思ってんじゃねぇぞボケェッ!」


 俺が女を殴ろうとするとヨイチが俺の身体を浮かせる。


「クマキチ、あんまり怒らない。で、キミどうしたの急に」

「あ、中々イケメンだね!」

「ど、どうも……」


 ヨイチは照れて女を見つめた。ほんと耐性がないというか、ヨイチはダメな女に引っかからないように注意が必要だな。


「あ、名前言ってなかったね! あたし、シンラ! 実はちょっと訳ありで、ここら辺に来てたんだけど……」


 チラッとシンラは俺を見てくる。

 俺は超不機嫌な顔をして、シンラを睨んだ。


「あ?」

「イケメンのにいちゃん、これちょうだい」

「はぁ!?」

「クマキチはダメだよ。俺の親友だから、あげることはできない」


 真剣な顔をしてヨイチは返した。

 なんだかんだ言っても、俺のことを大事にしてくれるヨイチに俺は感動してしまう。やっぱり持つべきは親友だな。

 断られたというのにシンラはニコリと微笑んだ。


「そう言うと思った! あははは!」

「は?」


 俺が返すと、気がつくと身体に鉄の鎖が巻かれていた。

 これ、俺じゃなくて普通のぬいぐるみなら引き千切られてたぞ? その証拠に、称号が発動している。


「ぐぬぬぬぬっ!」

「ちょっとクマキチが死んじゃうじゃないかッ! 今すぐやめろッ!」

「クマキチかぁ、可愛くないからクマ太郎でいいよ。クマ太郎はアタシが貰うッ!」


 くるりと高く跳び、木の上に着地したシンラ。俺の身体は依然縛られている。


「おい! 俺はまな板雌豚に締め付けられるドM属性は備えてねーぞコラッ!」

「そうだ! クマキチは巨乳が好きなんだッ! キミとなんか絶対に一緒にいられないッ! というか、キミが過労で死ぬよ!」


 おいヨイチよ。お前はさっき親友とか言ってたのに、なぜ過労という言葉が出てくる。俺といるのは疲れるのか?

 シンラはニコリと微笑んで、ヨイチを睨む。


「イケメンのにいちゃんさ。あんまり怒らせないでよね。これでもアタシ、忍者だから」


 俺を縛った鎖を持つ手とは逆の手に手裏剣が何枚も現れた。

 ヨイチは躊躇わずに獄炎の魔剣の鞘を抜く。


「クマキチを返せ。でないと、キミを倒すぞ!」

「倒す? アタシを倒せると思ってんの? やれるもんなら――――やってみなッ!」


 手裏剣が何枚も弧を描き、ヨイチの元へと飛んでいく。

 ヨイチは剣術もなにもない。というか正直運動オンチっぽい!

 このままじゃヨイチがっ!


「避けろッ!」

「魔導より誘われし竜の形見。我に力を貸したまえッ!」


 え、魔法?

 ヨイチが魔法詠唱を済ませた。

 魔法陣がヨイチの足元に展開し、炎の火柱が天高く噴き上がる。

 手裏剣は一瞬にして溶け、塵となった。

 炎が収まり、ヨイチの姿が露わになる。


「クマキチは渡さないッ!」

「少しはやるみたいだね。でも、アタシのスピードを前に魔法なんか唱えてられるかなッ!」


 シンラは高々と跳んだ、つもりだったのか。足が木の幹に当たって地面に頭から転んだ。


「うぎゃあっ」

「バカっお前が転ぶと、俺様も……うわっ」


 必然的にシンラが転ぶと俺まで転ぶ。

 頭から土に埋まった俺とシンラ。

 土から顔を出すと、シンラはニコニコしながら言った。


「あとで一緒にお風呂入ろ!」

「な、ば、バカ言ってんじゃねーよ」


 ヨイチがんばれと思っていた応援が揺らいだ。女の子とお風呂はやはり何歳になっても揺らいでしまうもの。

 というか、シンラってドジっ娘じゃねーか?


「クマ太郎はアタシのものだからな!」

「絶対に渡さないッ!」


 二人は向き合い、シンラはクナイを。ヨイチは獄炎の魔剣を握って振るう。

 どうせなら、まだヘリスにお持ち帰りされた方がマシな気がしてきた、俺だった。

獲得称号


・無職のぬいぐるみ:効果不明


・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明


・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明


・神をオカズに抜く男:効果不明


・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。


・竜に挑みし者:効果不明


・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明


・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明


・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号


・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。


上級魔物討伐達成


>魔竜・ヘルフレイムドラゴン【討伐報酬】獄炎の魔剣


>魔竜・ポイズンドラゴン【討伐報酬】死毒の魔剣

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ