5
その日はヘリスによる診察が続き、俺とヨイチは診療所に入り浸った。
夜になり、帰宅するとヘリスが夕飯を作ってくれて、三人で晩飯を食べることになった。
「で、結局、何が原因だったんだ?」
俺はオムレツらしきものを喉に流しながら、ヘリスに問う。
「わからない。もしかしたらではあるが、ザ・ラスト・エリクサを飲ませた可能性が高いな」
「「ザ・ラスト・エリクサ?」」
俺とヨイチが同時に聞く。
するとヘリスは微笑みながら、言った。
「兄弟みたいだな」
「そ、そんなことない。ヨイチが真似しただけだって」
「クマキチとは、ずっと一緒にいるからね。ある意味兄弟かもね」
ヨイチがニッコリと微笑む。
診療所で待機しているときに、ヨイチと相談して呼び名や一人称について決めた。若いのに儂だと、どっかの輩になるし、俺もじぃさんと呼ぶと、これから待っているであろうハーレム王となる俺様の部下にもなるのに、女の子に嫌われちまう。
そんなこんなで呼び方は変えたのだ。
「とりあえず、数値の方は本当に若返ったみたいだし、何をしても問題はないだろう。たとえ武器を作ったとしても、魔力が回復しないなんてことはない筈だ」
「ありがとう、ヘリスさん」
「うむ。礼ならクマキチに言うんだな。私を救い、ヨイチさんまで救ってくれたんだからな。頭が上がらないよ」
「あ?」
俺はスープを飲み干して、ヘリスに言った。
「まぁ、俺様は最初からザ・ラストなんたらを飲ませれば、ヨイチは若返るって最初から知ってたからな」
「嘘つくな。あんなに泣いてたくせに」
「そ、それは関係ないだろうが! 第一、竜相手に腰を抜かして泣いてたのは、どこのヘリスだっけ?」
「そ、それは……っていうか、クマキチのくせに生意気言うな! それは秘密だって話しただろうがっ!」
「あんま一々口うるさいこと言ってると、けしからんおっぱい揉むぞ!」
ヘリスは顔を真っ赤にして、胸元を隠す。
「そ、それだけは、まだダメだっ!」
「あ? いいじゃねーか。減るもんじゃないし」
ヘリスはごにょごにょと独り言を呟き始めた。
「……そ、それは、わ、私にもか、覚悟が……」
「あんまり困らせちゃダメだよクマキチ。そういうことをする人は、変態って言うんだよ」
「ヨイチ、俺は変態じゃない。紳士だ!」
「紳士はおっ……胸を揉ませてなんて言わないけどね」
ヨイチはおっぱいと言うのを躊躇った。童貞臭がハンパないな。俺もだけどさ。
「で、これからどうするつもりなんだ?」
「あ? 俺様か? 俺様はハーレ……」
「クマキチには聞いていない」
ピシャリと俺の言葉を止めたヘリス。
ヨイチはニコリと微笑んで、自信満々に言った。
「とりあえず、俺達は世界を歩き回ってみたい。それが俺の夢だったからさ」
「そうか……」
「ヨイチ、俺はハーレム王になるんだぜ? 世界中のおっぱいを揉むのが俺様の目標だぜ? ヨイチはついてこれるかな?」
「ついていきたくはないけど、でも世界は必ず周ろう! 俺がクマキチと一緒にいたいんだ!」
明るく、けれど確かな決意が感じられた言葉。
「俺様がこの家に収まる器だと思ってんのか? ヨイチ、俺は元から世界を歩くつもりだったんだぜ?」
「ははは、そうだよね。じゃあ、俺はクマキチに連れ出されるって形になるのかな」
爽やかなヨイチの笑顔。俺はホモじゃないけど、その笑顔を見ていると幸せだった。
これからどうするかという話をしていると、やけに暗い冷気が漂ってくる。
俺は寒気がして、その方向に目を向けた。
「あっそッ! どうして、こう、男ってすぐ仲間外れにするのかしら。あー、好き勝手やったらいいじゃない。普通会話に乗れてない人がいたら、話を振る筈なんだけどなー。例えば、別に行きたくないけど、一緒に行かないかーとか、ヘリスも一緒にいなきゃヤダーとか、そういう誘い方もあると思うんだけど、どうなのかなー。気がつかないからなー」
チラチラとこっちを見てくるヘリス。
「で、ヨイチはどこにまず行きたいんだ?」
「ちょっと、見てスルーとか失礼じゃないかしら。クマキチ。ちょっとは……」
「クマキチ。ヘリスさんに旅についてきちゃダメって言わなきゃ」
「おい、ヨイチっ……」
「え?」
チラっとヘリスを見ると、机に突っ伏し始めた。
ヨイチは何が原因で突っ伏したかわからないようだ。
そりゃぁ、年頃の乙女なんだよヘリスも。明らか様に、女の子は来るなみたいな言い方は傷ついちゃうのよ。
「……どうせ、私なんか……役にも立たないし、足手まといの女よ……」
「あ、その……ごめん」
「別にヨイチさんに謝られてもねぇ……」
顔を上げて俺を睨んでくるヘリス。どうやら、俺がスルーしたことの方が気に食わないようだ。
いやさ、ほら、求められると突き放したくなる? これって男子特有のSっ気だよね。俺もさ求められるとダメだからさ。え? 女の子? 違うよ、犬にオヤツ求められたときの話だよ。
俺はヘリスの頭を撫でて言った。
「まぁさ、これは男旅みたいなところあるしさ。ヘリスはヘリスで仕事があるじゃん? ヘリスいなくなったら村の人達悲しむだろうなぁ……」
「大丈夫よ、近くに病院あるし」
「でも危ないからなぁ……」
「足手まといって言いたいの?」
「ヘリス可愛いから、恐い思いさせたくないしなぁ」
「うっ……」
ヘリスはちょこっとだけ顔を上げて、俺のことをじーっと眺めた。
「ほ、ほんとに……可愛い?」
「え、そりゃあ、もちろん!」
するとヘリスは嬉しそうに微笑んだ。
「え、えへへ」
「だからおっぱい揉ませろ」
「それは無理っ!」
結局、俺様には顔とかじゃなくておっぱいが信条だ。
「ほんと、男って胸ばっかり。少しは本人見ないのかしら」
「あ? それ以外に利用価値があるのか?」
「クマキチ、それは言い過ぎだよ……」
ヨイチが宥める中、ヘリスが逆に聞く。
「じゃあヨイチさんは、どこに女の子としての魅力を感じるのかしら」
「え、えーっと」
ヨイチはじっくりとヘリスの身体を舐めるように眺める。だが、しばらく見ていると、途端にヨイチの顔が爆発した。
全く、童貞臭が凄いな。
「お、俺は……な、中身だと思うなっ!」
「中身? 例えばヨイチはどんなところがいいと思うんだ?」
「え、えーっと……、ほら、性格良いじゃん! ヘリスさん、俺の為に一生懸命になってくれたりさ!」
「とか言いながら、ヨイチはヘリスのおっぱいを見ている」
「ちょ、クマキチっ!」
ヘリスは胸を隠して、ヨイチを睨む。
「変態」
「あれ? 俺とクマキチで反応違くない?」
「器が違うからな。俺とヨイチじゃ、場慣れ感が違うのさ」
「クマキチは場慣れというより、罵倒され慣れてる感じよね……」
あれれ? 二人の痛い視線が俺の心を貫いてるよ?
「俺が言いたいのはね、男は結局おっぱいが大好きなんだよ」
「へぇ」
「俺は違うからね! ヘリスさん!」
「そうそう。ヨイチは天邪鬼だからな」
「だから違うって!」
「じゃあ、なぜさっきからヘリスを見るたびに胸を見ているんだい? 八百屋さんのおばさんの胸には目がいかないじゃないかっ!」
「そ、そりゃぁ老体より、若い方が……って俺は違……」
「ヨイチ。これは男のサガだ。諦めろ、運命なんだよ」
「そ、そんなぁ……」
「目の前に年頃の乙女がいることを忘れてる会話ですね」
冷ややかな視線が俺とヨイチを突き刺す。
「というか、クマキチ。ヘリスさんだって好きな人いるのに、失礼なことばっかり言ってちゃダメだよ」
「そうなのか? ヘリス?」
「え?」
ヘリスは唖然として、俺を見つめる。
さっきからよく俺のこと見るけど俺のモフモフが乱れてるのか?
「え、ま、まぁ、いますけど」
「だよね。クマキチ、失礼したことは謝らないと」
「あ? そういうのひっくるめて、俺はヘリスのおっぱいが揉みたいんだ」
「最低か!」
「というか、さっきからなんでチラチラ俺を見るんだよ。モフモフが乱れてるのか?」
ヘリスは再び顔を赤くして言った。
「ち、違うわ! べ、別に乱れてなんかいないんだからね!」
「今ツンデレるところじゃないんだけど」
「べ、別にクマキチを見たいわけじゃないんだからね」
「ツンデレるなっつの」
「クマキチなんか万年発情期のぬいぐるみなんだからね」
「事実だな……」
中々フランクになってきたヘリス。最初は俺のことを警戒していたようだったが、今となっては罵るまで打ち解けられた。
俺もヨイチの体調のせいで、揉み忘れたがいつかはヘリスを貪り尽くしたいと考えている。え? セクロスじゃなくて揉むだけよ。
「それじゃあ、私は明日の用意があるから」
「そうだな。今日はありがとうございます。ヘリスさん」
「別にヨイチさんの為じゃないわ」
席から立ち上がったヘリスは俺のことを嬉しそうに見つめた。その視線を浴びると、揉んでもいいんじゃないかと思えてくる。
ヨイチは首を傾げていたようで、意味がわからなかったのだろう。
「ま、俺もヨイチの為であって、ヘリスの為じゃないしな」
「ツンデレはどっちだか。まぁ私の為に治療したようなものだからね。今となってはね」
「それでも、恩にきるよ」
微笑みながらヘリスはヨイチにヒソヒソと内緒話を始めた。
「おい、俺だけ仲間はずれか!」
「ぬいぐるみには、わからない話よ。治療費はいらない代わりに、こっちの要件を呑んでもらうように伝えただけ」
「なら、俺はヘリスを助けたんだから、そのお礼を受ける必要があるッ!」
「胸はダメだからねっ!」
「ちっ」
ヘリスは診療所で仕事があるからと言い、帰った後、俺とヨイチは準備を始めた。
ヘリスには悪いけど、実はさっき待ってるときに話していたんだ。もし、俺達が出て行くとなると、ヘリスは間違いなくついてこようとするから、静かに抜け出そうと。
まだヘリスには明後日出て行くとしか言ってないから、今夜出て行くのが確実だ。もちろん、ヘリスを置いてく理由はただ単に足手まといだからじゃない。美人さんを連れて旅っていうのは、少し違う気がするからだ。それは俺の意見でもあり、ヨイチの意見でもある。
今夜出発するのは、ヨイチがもうウズウズして仕方がないからだ。
家を出て鍵を閉める。
「この家ともしばらくお別れだな」
「うん。でも帰ってきたときには、もっと良い武器を作れるようになってたいな」
「鍛冶屋は引退じゃないのか?」
「俺が冒険したいのは、いろんな世界を見てみたいのと、同時にいろんな武器も見たいからなんだ」
「そうか」
ヨイチは月を見上げると、歩き始めた。
俺はヨイチの頭に乗る。
「クマキチ。これからさ、俺はとりあえずコロンブス城下町に行こうと思うんだけど」
「そこに女はいるのか?」
「ど、どこにでもいると思うけど……」
「なら行くぜ。俺様の目標はハーレム王だからな!」
「それなら俺は天下一流の鍛冶屋だね!」
俺とヨイチは笑いながら、ハーレム王となるための夢と、天下一流の鍛冶屋になるための旅を始めた。
獲得称号
・無職のぬいぐるみ:効果不明
・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明
・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明
・神をオカズに抜く男:効果不明
・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。
・竜に挑みし者:効果不明
・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号
・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。