表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/23

4

『これで終わりだッ! 我の光線ブレスは貫いた物を塵となるまで焼き尽くす攻撃。いくら小僧とて防げるものではないッ!』


 俺はニヤリと微笑んだ。

 視界には、称号、神からの超運を恵まれし者と表示されている。

 光線は紙一重で避けていたのだ。いや、厳密には軌道が風によって変わったのである。

 俺の無事な姿を目にし、赤い竜は驚きのあまり瞳を開いた。


『な、なんだと!?』

「俺は神から嫌われてるんでな。恩恵がどうやら多いんだよ」


 俺は落下する瓦礫を飛び渡り、赤い竜に近づく。

 真正面から飛び込み、拳を固める。


「さぁ! 遺言はないか? 今なら届けてやるぜッ!」

『ば、バカなッ!? わ、我が、こんな小僧なんかにィィィィィィッ!』


 俺の拳が赤い竜の顔面に食い込んだ。

 やがて、ガラスを割ったかのようにヒビが入り、赤い竜の身体が雪のように溶けていく。

 無事に着地し、俺は安堵の溜息を吐いた。


「終わったぜ」

「く、クマキチ……っ!」


 ヘリスは俺の身体を抱きしめ、たくさん涙を流す。

 悲しい涙じゃない。嬉し涙だ。これは俺の嫌いな女の子の涙じゃない。

 俺はもふもふした手でヘリスの頭を撫でる。


「も、もうダメかと思った……」

「大丈夫。これでヨイチのじぃさんも長生きできるかもしれないんだろ。なら命がけで帰らないとな」

「……うんっ」


 ヘリスはその容姿には似合わない、満面の笑みを見せた。


 ◇


 ノウス魔洞の外は既に朝日が昇っており、小鳥達の囀りが耳を小突く。

 ヘリスと一緒に一刻も早い帰宅を目指した。

 村に到着する頃には、農家の人間などが既に作業を始めているのを目にする。早い時間から仕事をするとは真面目だな、なんて思いながら俺は思いながらヨイチの店を目指した。


「ただいまっ!」


 扉を開けると、ヨイチの家は静寂に包まれていた。まだ早いとはいえ、ヨイチは寝ているのだろうか。

 静か過ぎる部屋を見渡すと、ヘリスが苦笑いしながら言った。


「寝室にいるんじゃないか?」

「かもしれないな。じゃあ、ちょっくらじぃさんの様子を見てくる!」


 俺は駆け足で二階にある寝室の扉を開く。だが、そこにヨイチはいない。

 どこに行ったんだ? 良い報告があるっていうのに。

 そういえば、昨夜工房で作業をしていたことを思い出した。そっちの方にいるかもしれない。

 工房の扉を押し開くと、ヨイチが机に突っ伏したまま寝ていた。仕事疲れだろう。

 俺はヨイチの背中を叩いた。


「じぃさん、良い報せがあるぜ。病気の進行を遅らせることができるかもしんないぜ!」


 トントンと何度も叩くも反応はない。

 よほど疲れて眠ってるのか?

 更に叩いた。


「おいじぃさんっ!」


 すると、ヨイチの身体は椅子から落ちて、床に倒れる。

 よく見ると、じぃさんは大量に汗をかいていた。いや、汗もそうだけど、凄い熱だ。


「じぃさんしっかりしろッ!」


 ヨイチを呼ぶと、ゆっくりと顔をこちらに向かせて微笑む。


「あ、……クマキチ。おはよぅ……。ゆ、昨夜から、が、頑張ってクマキチの服を仕立てていたんじゃ……が、限界のようじゃ」

「な……」


 テーブルの方を見ると、大量にある俺用の服。どれもデザインが良いし、防寒とかにも備えたものまである。ざっと見て、十着くらいはあった。


「なんで無茶したんだよッ! 言ってたじゃねーかッ! 武器を作るのにも魔力が必要だってよッ! 洋服も同じじゃないのかよッ! なんで、なんで俺なんかの為に……っ」


 不思議と涙が出てくる。

 じぃさんは冒険者になりたかった。だけど、親の意志を継いで、なりたくもない鍛冶屋になったのだ。自分の自由を捨て、楽しいことなんか何もない世界で、ただ一人戦い続けた。

 最後まで残り少なかったのに、俺なんかの服を作ったがために……。


「クマキチ。儂はな、クマキチがいればそれで幸せだったんじゃよ……」

「俺は、まだじぃさんに死なれたら困るんだよっ! すぐに助けてもらうっ! ヘリスっ!」


 すると、ヘリスはすぐに部屋にやってきた。


「どうしたクマキチっ!」

「じぃさんがっ!」


 俺の表情でわかったのだろう。ヘリスはすぐにじぃさんを寝室のベットに運び込んだ。

 俺が見守る中、ヘリスはエーテルの瓶を取り出した。


「ヨイチさん、すぐに延命させますからね」

「もういい……儂は生き過ぎた……」

「じぃさん待てよッ! 俺はまだ、あんたの夢を叶えていないッ!」


 ヨイチの夢は、俺と共に冒険することだ。昨日聞いた話は、まるで少年のように夢を語っていた。それだけ、この俺の媒体であるクマキチが大切だったんだ。

 弱っている人を放ってなどおけない。俺はそんな一心だったけど、今はもう違う。ヨイチは俺が最期看取ることができなかった祖父と重なる。

 誰かを救えないのは、自分が嫌な想いをするよりも嫌なんだ。


「ヘリス。頼むっ」


 俺はぺこりとお辞儀をした。九十度直角の最敬礼。

 ヘリスは微笑んで、俺の頬に手を添えた。


「大丈夫。クマキチと私が頑張ったんだ。必ず、助かる」

「頼む! じぃさんは、なんでかわからねーけど、死なせたくないんだ」

「わかってる。私もヨイチさんには世話になったからな。色々試してみる」


 ヘリスはヨイチに向かい、エーテルの瓶を開けて飲ませる。

 ヨイチは意識が朦朧としているからか、素直に紫の液体を喉に流し込む。

 ただ、俺は両手を固く結んで祈った。


「……エーテルは飲ました。後は私が魔法で見よう」

「魔法で見れるのか?」

「私は回復魔法専門の医者だ。患者の状態くらい簡単に見れるさ」


 ヘリスは片手を顔の前に掲げて呟く。


「白魔法の神、レーファ様よ。かの者の身体情報を提示させたまえ。白魔法スキャンボディッ!」


 魔法詠唱を済ませると、ヘリスは片手をヨイチに向けた。ヨイチを中心に緑色の魔法陣が展開し、ホログラフィックの表が浮かび上がる。

 難しい文字がたくさん並ぶ中、ヘリスは表情を強張らせた。


「な、魔力が残り僅かだと!? これじゃぁ、回復してないどころか、あと一時間も……」

「おいヘリスッ! じぃさんは助かるんだよなッ!?」

「…………」


 ヘリスは黙り込み、視線を逸らす。

 他にも白魔法を発動したが、どうやらヨイチの身体は回復しないようだ。というよりも実際には衰退ということも考えられる。

 俺は両膝を着いた。


「…………すまない、じぃさん……」

「……いいん、じゃよ。クマキチ、お前は、儂なんかに、縛られることなく……この広い世界を見てきてくれ……。それが、儂の最後のワガママじゃ……」

「じぃさん……」


 ヘリスは何も言わずに部屋を出て行く。

 最善は尽くした、が救えられなかったと思ったのだろう。

 すれ違い様に涙を流していたのを、俺は見た。ヘリスだって悔しいだろう。俺だって誰かを責めたいけど、それをしてしまってヨイチが死んだら、取り返しがつかない。

 俺は治そうとするんじゃなくて、最期のヨイチの話を聞こうとした。


「じぃさん、なんで無茶なんかしたんだ?」

「……クマキチが寒いといけないと、思ってなぁ」

「俺は寒くないぜ。じぃさん、あんたの方が寒そうだ」

「儂はもういいんじゃ……」


 涙を浮かべるヨイチ。

 最期の最期で願いが叶ったからか、ヨイチに悔いのある様子は見られない。


「ゴホッゴホッ……」

「じぃさん、その咳……」

「ああ、だいぶ前からじゃよ……」


 俺は少し考えてから、俺の懐で温めてあった小瓶を取り出した。さっきノウス魔洞で小瓶に入れた神々しい液体だ。


「喉が渇いてるのなら飲んだほうがいいぞ。これしかないけど……」

「なんでもいいんじゃ。クマキチが一生懸命取ってきてくれた物なら、儂はなんでも嬉しいぞ」


 ヨイチは起き上がり、俺から小瓶を受け取る。

 涙を浮かべながら、ヨイチはそれを飲み込んだ。

 飲み終えて、小瓶を俺に返してきた。


「もう、迎えが来る。儂のじぃさん達がすぐそこにいる……」

「じぃさん……」

「クマキチ、これから何があろうとも挫けるな。上から儂もクマキチを見守る。必ず、必ずクマキチは何でも成し遂げられる……ゴホッゴホッ!」

「じぃさん! もう喋るなッ」


 ヨイチはベットに身体を降ろし、静かに瞳を閉じた。


「じぃさん……」

「最期のわがままを……神は聞いてくれたんじゃな……。儂は幸せ、者……じゃっ……た…………………………」


 やがてじぃさんの身体が静まる。

 俺は涙を流しながら叫んだ。


「じぃさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!」


 ゆっくりと扉を開き、ヘリスが戻ってくる。


「……クマキチ……」


 ヘリスは死亡時刻を測る為か、ヨイチの身体に近づいた。

 俺はもう、どうしていいかわからずに涙を流して縮こまる。

 やがて、さっきと同じ白魔法をヘリスが唱え出した。


「……私もこの仕事をしていると思うよ、最期が一番辛い……」

「……ひぐっ、お、おれ、なんかのためにっ、なんでっ! なんでっ!」


 俺は床を強く叩く。

 ヘリスは口を固く閉ざした。


「…………どうなってるんだ?」

「……あ?」


 ヘリスの顔を覗き込むと、真剣かつ驚きに包まれた顔している。

 俺は目を見開き、ヨイチの顔を覗く。

 だが、静かに息を……いや、呼吸している?


「……もしかして、寝てるだけ?」

「いや、違うッ! 何が起こってるんだ!?」

「どうなってんだよッ!」


 ヘリスはホログラフィックのような表を見ながら、固まっていた。


「数値が……徐々に回復していく……。いや、これは急激な速度で限界を超えている!? あり得ないッ!」

「説明しろよッ!」


 やがて、ヨイチの身体が光り出す。

 部屋を包む眩しい光。


「ぐあッ!?」

「クマキチッ! 何かしたのか!?」

「俺は、なんか神々しい変な液体を飲ませただけだッ!」

「変な液体って、なんでそんなものを飲ませたんだっ!」

「だ、だって喉が渇いたって言うからッ!」

「いいから伏せろッ!」


 俺とヘリスは床に伏せた。

 やがて光は太陽の如く光度を増すと、静かに弱まっていく。

 完全に光が収まってから、俺とヘリスは恐る恐るヨイチの顔を覗き込んだ。


「…………」


 流れるような紺色の髪。

 整った顔立ち。

 若々しい、それこそ死ぬ前の俺と同い年くらいの青年がそこにはいた。


「だ、誰?」


 青年は目を覚まし、起き上がる。


「あれ? 儂の身体軽いぞ?」

「へ? い、今、儂って言った?」


 ヘリスが口を半開きにしながら、青年を眺めていた。凛々しいが若い声。だが聞き間違えてなどいない。

 この青年は儂と言ったのだ。ということは、つまり……。


「わ、若返ったのか!?」

「…………肌のハリが違うなぁ」

「な、な、な、な、く、クマキチ!? 何を飲ませたんだ!?」


 ヘリスは驚きの連続で口をパクパクさせていた。

 だが、何よりまず、俺は。


「良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ヨイチの身体に飛びつき、涙と鼻水を同時に流すという荒技をした。自然に。

 若返ったヨイチは、わけがわからず俺の身体を確かめるように抱きしめた。


「こらこら、クマキチ。男があんまり泣くもんじゃないぞ」


 そう言うヨイチもまた、涙を流していた。

獲得称号


・無職のぬいぐるみ:効果不明


・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明


・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明


・神をオカズに抜く男:効果不明


・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。


・竜に挑みし者:効果不明


・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号


・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ