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「起きて……しんちゃん」


 俺の名を呼ぶ、懐かしい声。

 目を覚ましてみると、そこには赤毛のポニーテールの女の子が立っていた。

 周囲は暗闇に包まれ、俺とその女の子だけの世界だ。


「海音……?」


 久しく見たような気分に包まれる。

 彼女は俺、クマキチではなく鎌瀬 進次郎の幼馴染の日下部 海音だ。

 豊満な胸に、少しキツめの顔だが、とっても美人。それだけなら良かったのだが、性格は俺に対してだけ厳しいし、空手、柔道、合気道、剣道などの数々の肉体対決スポーツを極めている超人。

 それだけで俺を萎えさせる。


「……失礼なこと考えてたでしょ」

「んなことねーよ」


 いつものように笑ってみせる海音。

 俺の身体は鎌瀬 進次郎のものだった。

 事故に遭いそうになった海音を助け、トラックに轢かれて俺が死んだ。

 そのことを思い出したのか、海音は突然顔色を暗くした。


「……ごめんね、しんちゃん。私のせいで……」


 頭を下げて謝った海音。とても反省しているらしく、凄く申し訳なさそうだ。

 まぁ、俺だってプール開きのことでいつまでも怒ってるわけでもない。心残りがないといえば嘘になるが、それでもこっちではヨイチや、ヘリス。まぁあと他にも修羅場るけど、楽しいには楽しい。

 別に海音を助けて後悔してもいないし、謝られるのは筋違いだ。


「そんなに謝るなよ。こっちでは、俺も楽しくやってるからよ」

「へぇ……楽しくねぇ」


 頭を上げた海音がニコニコしながら青筋を浮かべている。俺の身に危険が及ぶ合図だ。


「そう、こっちはしんちゃんが死んだと思ったら、急に光に包まれていなくなるしで、大変なんだからね」


 俺の遺体が消えた? つまり、死んだんじゃないのか? よくわからないけど、女神のおっぱい揉むぞ計画のおかげかもな。


「まぁさ、もし親父達に会ったら、元気にしてやってるって言っといてくれよ。あと、じぃちゃんにもよ」

「……それはできないお願いだよ……」


 再び顔色を曇らせる海音。

 それもそうだよな。自分が原因で俺が死んだと思えば、その両親に会わせる顔がない筈だ。


「……悪い、お前のこと考えてなかったよ」

「ううん、平気。そっちでは元気にやってるんでしょ?」

「まぁな」


 俺は腕を組んで、思い出していた。


「俺はさ、こっちの世界ではぬいぐるみで、ヨイチっていうお節介な相棒がいてよ。それと医者でおっぱいが大きいヘリスっていうエルフもいてさ。あ、あと、シンラはちょっと怖いかな。セレスティンっていうイケメンかと思った奴も、今思えば最高に良い顔してるし、サクリアは俺を王様にしたいみたいだな! 竜とか超デカイゴーレムとか見たぞ!」

「へぇ! しんちゃんはやっぱり色々話してくれるね。昔みたいに」

「昔?」

「そうだよ。そんなことより……」


 海音は笑顔を浮かべて、俺の頭を殴る。


「ぐぇ!? 何すんだよ!」

「これは私がいないからって、そのヘリスとかいう人を困らせた分」


 また海音は俺を殴った。


「これは、シンラとかいう人の分」


 今度は、ワンツーパンチを食らわせてくる。


「これは、セレスティンとかいう人とサクリアっていう人の分……」


 そして、最後、盛大に俺の顎を殴りあげた。


「ぐはっ!?」

「……こ、これは……」


 俺は地面に腰を着き、海音を見上げる。

 何するんだよ、と言ってやろうと思ったが、海音の顔を見て、俺は何も言えなくなった。

 雫が海音の瞳から、ポロポロ溢れ落ちていたからだ。


「か、勝手に……ぐすん、いなくなった……分っ!」

「……悪かったよ」


 俺の前で泣く海音は久しぶりに見た。例え、俺が女の子のおっぱいが目の前にあるとしても、泣いている女の子を助けることを知っているから、海音は滅多なことでは泣かないようにしていたのだ。

 その涙を俺は見てしまった。


「……もっと、殴っていいぞ」

「ううん、もう大丈夫」


 海音は涙を拭いて、笑顔をみせる。


「また、殴ってやるからっ!」

「それは勘弁しろよ……」


 苦笑い気味で俺が言うと、海音は笑顔を作った。

 やがて、少しずつ、海音の姿が消えてゆく。


「またね、しんちゃん……」

「ああ。元気にやれよ」

「うん。……今度は、ちゃんと伝えるから……逃げないでね」

「え?」


 すると、海音の姿が消えた。

 まるで雪のように。




 ◇




「おおーっし! 出発だぁっ!」

「……クマキチ、朝なんだから、声小さくしないと……。昨日の件もあるし……」

「あ? まぁいいか!」


 早朝。俺とヨイチはコロンブス城下町から出ていた。

 マチルダの件について、俺は聞き忘れていたのだが、マチルダは俺が倒した後、コロンブスの牢屋で捕まっていたらしい。どうも、今回の事件の動機は、若くなったと噂されていたヨイチにプロポーズするために、顔の良い奴らを捕まえて奴隷にして売り飛ばして金を稼いでいたそうだ。

 結果、俺達に見つかり、プロポーズの為の金稼ぎはあえなく撃沈。

 しかし、想いだけでもと脱獄したはいいが、俺を見つけ、殺そうとしたところで、ヘリス、シンラ、セレスティン、サクリアにぶちのめされた。

 その後、事態を収拾するために宴は中断。

 ヨイチとアリーナはどこかに行って姿を消したが、翌日、俺の隣で寝ていたことを考えると、まだ童貞のままだろう。そうであってくれ。

 宴は翌日にやるといっていたが、ヨイチがそれはいくら高い武器を貰ってもできないと言い張り、結局出ることになったのだ。

 森が続く道を見つめるヨイチ。


「なんかさ。俺の目的も変わっちゃったなぁ」

「自分が作った剣集めとはなぁ」

「複雑だよ。もちろん、良い人の手に渡っていれば問題はないんだけどね」


 ま、いくつあるのかはわからんが、全てを集めるつもりではないらしい。

 俺とヨイチは歩き始めた。


「それより、皆にお別れ言わなくて良かったの?」


 思わぬ質問に、俺はビクリとする。


「いいんだよ。男ってのはな、何も言わずに出て行くのがクールなんだよ」

「そうかなぁ……」

「それよりアリーナはどうなったんだよ!」

「え、えーっと、それはまぁ……」

「ま、まさか、ワンナイトラブ……」


 ヨイチの顔が真っ赤に染まった。


「く、クマキチじゃないんだから、そんなことしないよ!」

「な、俺様を性欲の化身だと思ってんのか!?」

「え、違うの?」

「そうとも言う。って違うッ! アリーナとはどうなったのか聞いたんだよッ!」


 ガウガウ吠える俺に、ようやく降参したのか。ヨイチは恥ずかしそうに口を動かす。


「き、キスは……したよ」

「な、なんだ……とっ!?」

「もういいでしょ! この話は!」

「良くないぞ! ヨイチ! 俺様を残して、先に童貞捨てるのとか勘弁しろよ!」

「クマキチはハーレム王になるんでしょ!」

「それとこれとは話がちがーう!」


 朝っぱらから、俺とヨイチの叫びに小鳥達が面白そうに眺めていた。

 朝靄の中、俺とヨイチは歩き続ける。

 これから、俺はハーレム王に。

 ヨイチは鍛治職人として最高峰に辿り着くのと、自分の作った武器を集める旅が再開した。


















































 と、思いきや。


「あれ、クマキチ」

「あ?」

「あの看板……」


 昼過ぎくらいだろうか。俺とヨイチが出発してから結構時間が過ぎた頃、看板があった。

 看板には、クマのぬいぐるみ専用パブと記されてあったのだ。


「ごめん、なんでもない」

「いいや! なんでもある! これこそ宿命!」


 俺様専用? バカだな。子猫ちゃんが俺に可愛がってもらいたいがために、こんなところにそんな看板を立てたのだろう。


「ヨイチ、俺は寄って行くぞ!」

「いや、盗賊団のアジトとかだったら嫌じゃん。シンラに聞いたよ? アジト壊滅させたんだって?」

「それとこれとは話が違うぜ!」

「じゃあ、罠とか」

「バカだな。俺様がブービートラップごときに引っかかるとでも思ってんのか?」


 俺様は弱気なヨイチを置いて、スキップしながら看板の方へと進んだ。

 今度は、おっぱい揉ませてくれそうな優しい女の子達がいいなぁ~! 暴力系とかマジ無理だし~!


「ちょ、クマキチ! 待って!」

「またねーよ! 俺様がハーレム王になるには近道っていうもんが……」


 俺の頰に何かが掠った。

 あれ? 急に寒気が……。まるで、大蛇に睨まれてるかのような……。

 ゆっくりと振り返ると、鬼のように聳え立つ四人の姿があった。

 効果音にするならば、ゴゴゴゴゴ…………だろう。

 俺の全身から冷や汗が浮かび始める。


「あ、いたねぇ……。死ぬときも一緒だって誓ったんじゃん。クマ太郎さぁ~ん……」

「え、し、シンラさん……? か、顔が怖いよぉ?」


 注射の液体をピュッと出す音が耳元で聞こえた。


「クマキチじゃないか……。偶然だなぁ……。私をまたも置いてくなんて、いい度胸持ってるじゃないか……」

「へ、ヘリス姉さん……。そ、その怖い注射しまって!」


 スコンっという木が切り捨てられた音が響く。

 すると、剣が脇腹に当てられる。


「ボク、初めてなんです……。こんなにオスを求めたのは……。師匠ならわかってくれますよね?」

「怖い! 怖いよ! セレスティン!」


 細剣が足元を突き刺す。

 俺は尻餅を着いた。


「国王様。私を置いていかないでください。妻と夫が共に過ごすのは当然のことでしてよ?」

「め、目が怖い! や、やめてくれよ! サクリア様ぁぁぁぁぁっ!」


 四人がまるでヤンデレにでもなったかのような怖さを放つ。

 その後ろでヨイチが溜息を吐いていた。


「はぁ……だから言ったのに……」

「じゃあ、私も一緒に行っていいか?」


 ヨイチの背後からアリーナが現れる。


「え!?」

「ヨイチ。クマキチとかいう変態と同罪だ」


 剣を抜くアリーナ。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「罰として……」


 アリーナは鋭い眼差しのまま、ヨイチに迫る。

 慌てたヨイチは武器を抜くこともできず、目を閉じた。


「……え?」


 ヨイチは目をゆっくりと開ける。

 そこにはアリーナがヨイチの身体を抱き締めて、泣いている姿があった。


「私も連れてってくださいっ! ヨイチ!」

「……だとよ」


 俺とシンラ、ヘリス、セレスティン、サクリアはヨイチとアリーナを見守る。

 ヨイチは諦めたようで溜息を深く吐いた。


「わかったよ……」

「ありがとっ! ヨイチっ!」


 デレたアリーナ。

 微笑ましい光景だ。

 これで、俺とヨイチ、アリーナの旅となる。


「さぁて! じゃ、ヨイチとアリーナ、行こうぜ!」

「「「「待ちなさい」」」」


 俺はゆっくりと振り返った。

 再び修羅モードと化した四人がそこにはいる。


「クマ太郎さん、連れてってくれないなら殺すよ」

「クマキチ、丁度連れて行ってくれないなら、これからの旅にと思って良い薬があるんだ」

「師匠。ボクを連れて行かないなら、特訓してくれますか?」

「逃げるのなら、全兵力をもって、あなたを捕縛しますよ」


 四人がゆっくりと近づいてきた。瞳を光らせ、迫る様はカラスのよう。

 俺は走り出した。


「か、勘弁してくれぇぇぇぇ!」

「「「「待てぇぇぇぇぇぇっ!」」」」


 ヨイチとアリーナは二人で顔を合わせて笑っている。


「た、助けろよヨイチ!」

「さぁ? クマキチがいけないんじゃない?」

「ぬふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「「「「逃がさないわよっ!」」」」


 俺は崖を飛び越えた。


「俺はハーレム王になるんだ! 全員連れて行けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺の叫び声は、森に響く。

 ハーレム王になるための旅は始まったばかりだ!





≪第一章・完≫

獲得称号


・無職のぬいぐるみ:効果不明


・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明


・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明


・神をオカズに抜く男:効果不明


・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。


・竜に挑みし者:効果不明


・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明


・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明


・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号


・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。

追記

人間や、そのペットでは気絶させる程度に弱まる。

《派生技》

・熊無双連撃:連続で万物の耐久度を削る攻撃。

・特殊発動・絶殺一撃:全てを貫く攻撃。


・役立たずのクズ:効果不明


・怒れる玩神:一撃必殺を授かりしぬいぐるみの進化系。五十連撃もの一撃必殺を撃ち尽くせる準備完了のような称号。腕に灯る光が炎のように変わる。

《派生技》

・玩神五十連撃必殺:怒ったクマキチ考案技。一撃必殺を五十発叩きこむ、圧倒的反則技。本人曰く、名前があった方がカッコイイとのこと。


・魔精霊種を滅殺せしぬいぐるみ:効果不明


【ヨイチの称号】


・双竜刀発動の青年:獄炎の魔剣と死毒の魔剣を装備した場合にのみ、発動される。二匹の魔竜種の魔力を引き出すことができる。

《派生技》

・獄双竜:魔力を消費することによって、竜巻を起こすことができる。


・神が嫌うぬいぐるみの介護をする青年:神が嫌うぬいぐるみの世話をする青年は、色々な気苦労も絶えないだろうと考慮した上での措置。基本的には、ぬいぐるみに死なれたら困るので、介護・監視をする役目を与える。問題児を監視してくれている為、この青年は基本的にはダメージは受けるが、死にはしない


・魔豚種を討伐せし老青年:効果不明


上級魔物討伐達成


>魔竜・ヘルフレイムドラゴン【討伐報酬】獄炎の魔剣


>魔竜・ポイズンドラゴン【討伐報酬】死毒の魔剣


>森大将【討伐報酬】


>魔豚種・アリストン・ベルチェ【討伐報酬】極上霜降り肉五㌧


>魔精霊種・セイント・ゴーレムの討伐【討伐報酬】魔精霊石の剣・魔精霊石の盾

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