20
目が覚めると、俺は大きめの部屋で寝ていた。手や足を確認すると、クマキチのままだ。どうやら、俺は死んだものと思っていたのだが、しっかりと生きているらしい。胸の傷も塞がり、誰かが直してくれたのだろう。
近くを見ると、シンラが机に突っ伏したまま眠っていた。手を見ると絆創膏だらけで、必死に俺の身体を直してくれたことがうかがえる。
ベットから降りて、俺は窓の外を家具などを使って見つめた。
『国民の犠牲を無駄にはしません。私達が、これからより一層騎士団を強化し、騎士自身も生き残れるよう励みます』
広場がすぐに見える。多くの人を前にして凛と叫ぶように喋るサクリア。国王としての風格を放ち、亡くなった民や騎士の家族に向けて謝罪をしているのだろう。
その近くには近衛兵としてだろうか。セレスティンも同席していた。
集まった国民の中では涙する者や、難しい顔をして聞く者と様々だ。
俺は窓の外を見るのをやめて、部屋から出た。
すると、ヨイチが部屋に入ろうとしていたところだった。
「クマキチ、もう起きて大丈夫なの?」
「あ、ああ……。あの後、どうなったんだ?」
「えっとね」
ヨイチは部屋で眠るシンラを視界に入れると、部屋から出て人差し指を鼻に当てる。
「シンラが寝てるから、違う場所に行こうか」
「そうだな」
俺らは城から出て、市場付近のカフェにやってきた。テラス席が設けられたカフェでは、ゲテモノから定番なものまで数多く揃えられている。
俺とヨイチは普通にコーヒーを頼み、テラス席に腰を降ろした。
一口飲み、今まで閉ざしていた口をヨイチが開く。
「……あの後は大変だったよ。クマキチの綿が全部散らばってさ。みんな死に物狂いで集めて、その後、マチルダさんも連れ帰って……」
「俺の綿集めが大変だったのか?」
「実際には帰ってきてからかな。クマキチの修理はシンラが全部やってくれて。ヘリスさんは捕まってた人の手当。それにセレスティンさんやサクリア国王は、城で偉い人に色々と説教されたみたい」
「なるほどな」
シンラが直してくれたことはなんとなくわかっていたのだ。あの手を見てわからない奴は、鈍感以外の何者でもない。
やはり医者だからか、ヘリスは治療に専念していたんだな。
セレスティンもサクリアも身分上はとても偉い人間だから、無茶したら怒られるのも当然といえば当然だ。
「で、ヨイチは何をしてたんだ?」
「俺はね、ちょっと考えてたんだ」
ヨイチは青く澄み渡った空を眺めて言った。
「今回のことで、俺の造った武器達がマチルダさんのような悪事を働く人に使われてると思ったら、武器が泣いているような気がして……」
「そんなことはないと思うがな」
その声は俺のではない。
アリーナがコーヒーを片手にワンピース姿で空いている席に腰を下ろしてきた。
「私は別にそうは思わない。使い方は人それぞれで、ヨイチの剣がたまたま変な奴に渡ってしまっただけだ」
「だけどね……。俺は違うんだよ」
ヨイチはアリーナに優しく微笑んだ。
「俺の剣は誰かを守る為に使って欲しかったんだ。それこそ、クマキチが俺達を守ってくれたように。だから、俺が造り出してしまった剣を回収したいんだ」
「でも、武器は流通されて世界各地にあるんだぞ?」
「問題ないよ」
アリーナは首を傾げた。
「俺とクマキチは世界各地を歩き回る約束をしてるんだ。その旅に目標が備わっただけ。だから」
ヨイチは席を立って、アリーナに笑顔を向ける。
「ここでお別れだね。アリーナさん」
「え…………」
「そうか。ま、ヨイチがここ最近してたことってのは、武器観察だけじゃねーってことか」
「次の街を目指して、準備してただけだよ」
「まぁ、ヨイチらしいな」
俺はコーヒーを飲み干して、ヨイチと同じく立ち上がった。
「待て! お前達には感謝してる! もう少しだけ留まらないか!? それにセレスティン様が言っていた筈だ! 報酬とか受け取ってないだろ!?」
「だとよ、ヨイチ」
俺がヨイチに言うと、首を横に振る。
「俺というより、クマキチが受け取るべきじゃないかな。クマキチが報酬を欲しいのなら、待つけど」
「そうだ! お金がないと旅ができないもんな! どうだ! クマキチ! 宴には多くの女がいるぞ!」
「何言ってんだよ。俺様はヨイチの相棒だ。相棒の決定に従う。ま、金も女も惜しいがな」
ニッコリと笑ったヨイチは俺の身体を持ち上げて抱えた。
「俺はお金も女の子もいらないよ。クマキチがいれば、それだけで充分だよ」
「お、嬉しいこと言うね」
ま、正直女の子も金もめちゃくちゃ欲しいけど、これ以上ここに留まっていたら、ヨイチの目的が果たせなくなりそうで嫌なんだ。
それに俺様はここで、ハーレム王になりたいわけじゃない。世界を相手にするんだ。
それに、ヨイチの願いは俺の願いでもある。叶えなければならない。それが使命のように不思議と感じるんだ。
元々褒められ慣れてないしな。
「待ってよっ! ヨイチ、本当に行くのか?」
「うん、明日には行くよ。一刻も早く、泣いている俺の剣を回収しないといけない気がするんだ」
「でも……」
ポロっと涙が溢れた。それはアリーナの瞳から落ちた物だ。
「わ、私は……まだいてほしいんだっ! もうちょっとだけ……ヨイチと、いたいんだ……っ」
「アリーナさん……。それでも行くよ」
ヨイチは一人でアリーナに背中を向けて歩いていく。
多分、女の子の涙には弱いのだろう。俺だってそうだ。
それ以前にヨイチの中でマチルダが自分の剣を使って悪事を働いていたという事実が許せなかったのだろう。
全く、ヨイチは真面目系バカだな。
さすがの俺様も、アリーナに泣かれちゃ、ヨイチの意見を聞きたくなくなる。
「うぅ……」
「アリーナ。お前、ヨイチが好きなんだろ」
「…………」
首を縦に動かしたアリーナ。
俺は色恋沙汰には疎いが、気がつかないほどバカでもない。当然、他人限定だがな。
ここらでいっちょ、男を見せることになりそうだな。
「わかった。アリーナ、お前が頑張ったら、ヨイチも考えを曲げるかもしれない。なんとかしてみるから、ヨイチに伝えろ」
「……わかった」
アリーナは涙を拭いて、いつものように凛とした表情をした。
◇
俺はヨイチの後を追って、宿に入る。
明日の準備を済ませようと、ヨイチは色々と仕込みをしていた。
「そういえばクマキチさ」
「ん?」
「ハーレム王を目指すのに、俺と二人きりの旅に不満はないの?」
「なんだ、そんな質問かよ」
俺は鼻息を吐いて、ベットに腰をかけて足を組んだ。
「俺様の隣に女が歩いてみろよ。俺に惚れた子猫ちゃんが寄って来ねーだろうが。だから、俺様はヨイチと一緒でいいんだよ」
「はははは……。聞いたのが間違いだったかな……」
呆れ口調で笑うヨイチ。
「それよかヨイチ。どうせなら、ここで一杯飲んで行こうぜ!」
「一杯だけだよ? 朝には行くんだからさ」
「俺様寝てたからよ。眠くねーんだわ。ちょっくら付き合えよ」
「わかったよ」
またまた呆れているヨイチ。完全に俺のこと手のかかる子供くらいに思ってるんだろうな。
「じゃあよ、城近くのバーに行って待ってるから来いよ!」
「ちょ、一緒に行こうよ!」
俺はそれだけ言って宿を出た。
空は夜闇に包まれ、俺はバーを目指す。
そこはシンラとヘリスがバトルしそうになったバーじゃなく、なんとなく俺が見つけたオシャレな感じのお店だ。
少々暗めの店内に、フォーマルなスーツを着込んだ紳士がそれとなく会話をしながらお酒を飲む。
当然、俺様もスーツだ。新たな出会いを求めてな!
店に入り、一人でテーブル席に腰を下ろす。
「いらっしゃいませ。お飲物は?」
「テキーラ、ショットでと言いたいところだが、人生の一大事を賭けてるんでな。オレンジジュースで頼むぜ」
「かしこまりました」
店員が引き下がり、俺はメニューで顔を隠した。
やがて、ヨイチが一度店に入ると、場所を間違えたかのような顔をして一度出て、しばらくするとスーツ姿で入りなおす。
なんというか慌ただしい。店員達も困惑した表情をしたが、スーツに着なおしたので問題なく接客している。
カウンターに腰を下ろすヨイチ。
やがて、店の扉が開き、男性客が歓声をあげた。
『おおっ』
入ってきたのは真っ赤なドレスを着て化粧をしたアリーナだ。背中を露出し、化粧によって大人な妖艶さを醸し出す。纏うオーラは大人の気品漂わせる美女そのものだ。
やがて、アリーナはカウンターに進みヨイチを見つめる。
「隣、いいか」
「え? あ、アリーナさん……? び、美人過ぎてわからなかった……」
アリーナの顔が赤く染まった。ヨイチの頰も赤くなっている。
ここからは俺様が観察してやるよ。
ヨイチの隣に座ったアリーナ。そのまま、無言の時間が続く。ただ俯くアリーナに、緊張してるのか、ヨイチはグラスの中に入ったお酒を何度も見つめていた。
「……あの」
「……えと」
二人は同時に口を開く。かと思いきや、恥ずかしそうな顔をして、お互いに話を譲り合っている。
「よ、ヨイチから……」
「あ、うん……。えっとさ、アリーナさん」
「は、はい……」
赤面状態のアリーナ。二人の初々しさにイライラしながらも、とりあえず見守ることにした。
「い、言いにくいんだけどさ。ぱ、パンツが……」
「へ?」
一瞬何を言われたのか、わからないような顔をしてアリーナは自分の太ももを覗き込む。スカートが綺麗にめくれ上がっていたことに気がつき、ささっと隠した。
「み、見たのか……?」
「い、いや! 見てないよ! 黒いパンツなんて見てないからねっ!」
「ほっ……」
おおぅ……。今のアリーナの中では見られてないと判断したのか。俺がパンツ見えてるとか言ったら、絶対殺そうとするだろうなぁ。
アリーナは咳払いをして、ヨイチを見つめた。
「あ、あの……。本当に明日出て行くのか?」
「……うん」
ヨイチはグラスに入ったお酒を口に含んだ。視線はアリーナには移さない。
「だって、ヨイチ達の為の宴なんだぞ! 美味しいものだってたくさんある! 何も急がなくても……」
「俺はそんなことしてる場合じゃないんだよ。アリーナさんには申し訳ないけど、ゆっくりはしていられないよ」
苦笑いするヨイチ。
アリーナの表情は落ち込むばかりだ。
これは、予想以上の堅物だな。ヨイチって意外に頑固だから、一度決めたらテコでも動かないつもりだろう。
正直、俺がアイコンタクトでアリーナに指示を出すつもりだったが、アリーナも落ち込んでるし、エロテクを使っても童貞ヨイチはパニクるだけだ。
俺は深く息を吐いて、起きてから点滅し続けていた称号の文字をチラッと見た。
ま、テコでも動かないヨイチの旅を遅らせるのには、これがあれば充分か。
称号・魔精霊種を滅殺せしぬいぐるみ
達成・魔豚種・アリストン・ベルチェの討伐
達成・魔精霊種・セイント・ゴーレムの討伐
称号・魔豚種を討伐せし老青年
俺は全ての文字に触れた。
アリーナの机に大量に肉が現れる。全てが霜降りのようで輝いていた。多分、これが魔豚種を倒した達成の分だ。
さらにアリーナの手にはゴツゴツの盾と、綺麗な剣が現れた。これが多分、、ゴーレムの討伐分だろう。
二人は驚いて、お互いを見つめた。
「い、いつの間に……はっ!」
ヨイチは席を立ち上がって俺の姿を探す。やがて、新聞を読むフリをしていた俺と目があう。
「クマキチっ! いたのならこっちに来ればいいのにっ!」
「お、俺様はクマキチなんてチャーミングな名前じゃねーぜ」
「新聞逆さまだけど」
俺は溜息を吐いて、席を立ち上がった。
ヨイチの隣に座り、ポンと肩を叩く。
「ヨイチ、少しはわかってやれよ」
「え?」
「アリーナは、お前とまだ一緒にいたいんだよ。気持ちを汲んでやれよ」
「……」
アリーナも口を紡いでいたが、勇気を出して開いた。
「そ、そうだ……。少しは祝う側の気持ちも……」
今にも泣き出しそうなアリーナ。戦ってるときは凛としていたけど、完全に単なる乙女になってる。
ヨイチはそれでも断ろうとした。
「それでも俺は……」
「あっそ!」
俺はヨイチの言葉を切るかのように大声をあげる。
「それなら、この美味そうな肉は俺様が残って食べる」
「え!? これ、クマキチのなの!?」
「あとは、アリーナの盾も本当は俺のだから、明日ゆっくりアリーナと眺めようかな」
「ちょ、待ってよ!」
「あ、その細剣はサクリアとかが使えそうだな! アリーナが持って帰っちゃえよ!」
「だぁぁぁぁ!」
「どうせヨイチは行くんだろ? 一人で」
「わかった! わかったよっ!」
ヨイチは大の武器マニアだ。俺様の相棒でもあるから俺が残ると無理矢理言えば残っただろうが、こっちの方が手っ取り早い。
俺は悪い笑みを漏らしてアリーナに親指を立てた。
アリーナはクスリと微笑み、首を頷かせる。
「はめられたな。ヨイチ」
「……もういいよ……」
「じゃ、じゃあ、明日の宴は……ヨイチもいるんだな!」
「そうだよぉ……。でも、いっか!」
ヨイチは吹っ切れたかのように溜息を吐いて笑顔を見せた。
やれやれ。超鈍感ヨイチの婚活も、俺様の仕事になりそうだ。
獲得称号
・無職のぬいぐるみ:効果不明
・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明
・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明
・神をオカズに抜く男:効果不明
・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。
・竜に挑みし者:効果不明
・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明
・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明
・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号
・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。
追記
人間や、そのペットでは気絶させる程度に弱まる。
《派生技》
・熊無双連撃:連続で万物の耐久度を削る攻撃。
・特殊発動・絶殺一撃:全てを貫く攻撃。
・役立たずのクズ:効果不明
・怒れる玩神:一撃必殺を授かりしぬいぐるみの進化系。五十連撃もの一撃必殺を撃ち尽くせる準備完了のような称号。腕に灯る光が炎のように変わる。
《派生技》
・玩神五十連撃必殺:怒ったクマキチ考案技。一撃必殺を五十発叩きこむ、圧倒的反則技。本人曰く、名前があった方がカッコイイとのこと。
・魔精霊種を滅殺せしぬいぐるみ:効果不明
【ヨイチの称号】
・双竜刀発動の青年:獄炎の魔剣と死毒の魔剣を装備した場合にのみ、発動される。二匹の魔竜種の魔力を引き出すことができる。
《派生技》
・獄双竜:魔力を消費することによって、竜巻を起こすことができる。
・神が嫌うぬいぐるみの介護をする青年:神が嫌うぬいぐるみの世話をする青年は、色々な気苦労も絶えないだろうと考慮した上での措置。基本的には、ぬいぐるみに死なれたら困るので、介護・監視をする役目を与える。問題児を監視してくれている為、この青年は基本的にはダメージは受けるが、死にはしない
・魔豚種を討伐せし老青年:効果不明
上級魔物討伐達成
>魔竜・ヘルフレイムドラゴン【討伐報酬】獄炎の魔剣
>魔竜・ポイズンドラゴン【討伐報酬】死毒の魔剣
>森大将【討伐報酬】
>魔豚種・アリストン・ベルチェ【討伐報酬】極上霜降り肉五㌧
>魔精霊種・セイント・ゴーレムの討伐【討伐報酬】魔精霊石の剣・魔精霊石の盾




