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19

 ヨイチの創り出した剣や盾。様々な装備品は多くの人間を魅了し、歩く足を止めさせるほど。

 その効力は徐々に薄れていき、ヨイチが齢六十の頃には芸術めいた才能は失っていた。

 全盛期の力を注ぎ込んだ剣と盾。それがマチルダの持つ武器なのだ。

 俺は何故だか、そんなことを知っていた。これはクマキチ本体の記憶なのか。

 剣が俺の身体に刺さっていると、記憶が蘇る。ヨイチが汗水流して、丁寧に力強く武器を作る姿。何故だか、頑張れと声をかけたくなった。

 俺の前にいるマチルダは微笑んでいる。


「あなたが弱いんじゃない。あたしの使う武器の前では、強さとかとは別の異次元的な力がヨイチちゃんの武器にはあるのよ」


 最後、俺の口は動かすことすらできなくなっていた。いや、正確に言えば違う。喋ることすら、ヨイチの武器を前にしては失礼だと感じているのだ。

 マチルダがどうとかではない。本当に俺はヨイチの創り出した武器に心すらも奪われているのだ。

 意識が遠のいていく。称号すらも発動しない。俺の能力発動を拒否する圧倒的魅力。

 このまま死ぬのも悪くない。


「クマキチッ!」


 消えゆく意識の中、俺は目を覚ました。

 気がつけば、俺の身体を支えているヨイチがいる。その前にはヘリス。アリーナ。シンラ。サクリア。セレスティンの姿があった。


「意識を取り戻したか!? クマキチっ!」

「ヘリス……」

「しっかりしろ。ヨイチを泣かしたら私はお前を許さないぞ」

「アリーナ……」

「寝ててねクマ太郎さん。あたしが倒すから!」

「シンラ……」

「私が倒すので、クマ君は休んでてください」

「サクリア……」

「師匠。ここはボクが倒します。なので休んでてください」

「セレスティン……」


 ヘリスが鞭を構え、アリーナが両刃の剣を握り、シンラはクナイを投げる準備をし、サクリアも細剣を今にも抜きそうな体勢を維持し、セレスティンもまた剣を構える。

 五人の女の子が俺とヨイチの力になってくれているのだ。


「クマキチ。俺は知ってたよ。本当はクマキチがクマキチじゃないことくらい」

「え?」

「だけど、誰がクマキチに宿ろうと、俺の大切な相棒に変わりはない。だから、一人だけで解決しようとしないで。ここにいる皆は、全員クマキチの相棒でしょ?」

「…………」


 俺は全員を見渡す。

 それぞれの背中が俺を心配していると告げるかのように逞しく写る。

 そうか。確かに俺は一人で何事も片付けるのが当たり前だと思っていた。だけど、本当は違う。一人ではできないことは皆でやればいい。

 俺は起き上がり、傷口を調べた。


「ありがとう。もう大丈夫だ」

「え、クマキチ?」

「ヨイチ。俺はお前のことを相棒と呼んでおきながら、巻き込みたくないと思って一人だけで行動してた。だけど、違うんだな。俺は一人じゃない。もっと皆を頼れば、こんな傷を作らなくて済んだんだよな。悪かったな、大切なクマキチの身体に穴あけちまってよ」


 傷口は開いたままだ。

 このまま動けば、綿が全部飛び散ってしまいそうだな。


「だけどよ、これだけは俺にやらせてくれ。こんな俺でもよ、やっぱり相棒の大切な物が悪党の手にあると思うと、どうしても許せねぇんだ」

「クマキチ……」

「悪りぃが、俺一人にやらせてくれ。一人じゃねーことはわかってる。だけど、これは俺として、いやクマキチとして俺が戦わねーといけねー気がすんだよ」


 五人の女の子の間を歩き、俺はマチルダを睨む。


「ヘリス。アリーナ。シンラ。サクリア。セレスティン。そしてヨイチ」


 俺は視線をマチルダに向けたまま言った。


「俺の綿が全部なくなったらよ、拾ってくれよな」


 それだけ言い残し、俺はマチルダの元へと走る。


「クマキチッ!」


 ヘリスが叫ぶ。

 俺は拳を振りかぶる。

 ヘリス、お前のおっぱいはいつか揉んでやろうと思ってたが、結局揉めなさそうだ。そのエルフ耳もいじりたかったんだがな。


「変態ッ!」


 アリーナが呼んだ。

 マチルダが盾を構える

 最後まで、こいつにはボロクソ言われてんな。まぁ胸のわりには柔らかかったぜ。


「クマ太郎さんッ!」


 シンラが呼び止める。

 俺の拳は太陽の如く光った。

 おっぱいはないに等しいけど、俺、お前のヤンデレなとこ、嫌いじゃないぜ。


「クマ君ッ!」


 マチルダの盾に俺の拳が炸裂した。

 サクリアのおっぱい、最高だったぜ。俺のハーレム要員に入れてやってもいいぜ。


「師匠ッ!」


 セレスティンが涙を滲ませながら叫んだ。

 盾で俺の拳を受け流し、マチルダの剣が俺に迫る。

 セレスティン。お前はかなりの上玉だ。女としての道をどうか貫いてほしい。


「クマキチッ!」


 ヨイチの声が俺の耳に響く。

 そのとき、俺に迫っていた剣に魅了されずに、俺は攻撃に対応できた。

 俺は顔に突き刺さろうとした剣を避ける。

 剣は空振りし、マチルダに隙が生じた。


「避けたわねッ! だけど、これでどうかしらッ!」


 盾を構えたマチルダ。

 盾も美しい。だが、俺の身体も心も奪われなかった。

 何故なら、ヘリスやシンラ。皆の方が俺にとっては美しい。

 それに、俺はもうヨイチの創り出した物に目を奪われなくなっていた。

 俺の中にある、ヨイチとの絶対的な絆がそうさせている。その剣に込めた想い。それは俺とヨイチだけが知っているのだ。

 その剣は――――。


『いつか、戦いそのものが忘れ去られて、剣は野蛮な物だって言われるかもしれない。けど、そんなことはない、しっかりとした伝統だって、この剣を見て思ってくれるといいな。クマキチもそう思うでしょ?』


 武器が忘れ去られるくらい幸せな世界になったら。剣はただの刃物ではなく、この世界の住人の努力の結晶だと伝える為に作ったのだ。

 過去のヨイチが教えてくれた。

 まだ、その剣の力が使われる時ではない。

 俺は、ヨイチの願いを踏み躙る者を決して許さない。

 それが、クマキチとして生を得た俺の、いや相棒の仕事だ!


「ヨイチッ! お前の想い、まだこの世界には速過ぎたんだッ! だから、旅をして、同じ想いを持つ者に託そうぜッ!」

「クマキチ……」


 俺の二つの拳が眩く光る。


「あたしが相応しくなくて、誰が相応しいって言うのよッ!ヨイチちゃんの剣も、ヨイチちゃんの存在にも相応しいのは、あたしに決まってるわよッ!」

「うるせーぞオカマッ! ヨイチの隣に相応しいとかじゃねーんだよッ! ヨイチの相棒は俺で、俺の相棒はヨイチしかいねーんだよッ! 諦めろよッ! クソ変態野郎がァァァァァァァッ!」


 俺の背中から綿が溢れる。


「これが、俺の熊無双連撃だッ!」


 ありったけの力を込め、拳を走らせた。

 次々とマチルダに向かって放たれる。

 だが、その全ては盾にぶつかっていた。


「バカね! あたしに、そんな攻撃ッ!」

「バカはテメーだッ!」


 拳により強い光が灯る。


「これは、クマキチとヨイチの願いを踏み躙った者への断罪だッ!」


 称号が現れる。


 特殊発動・絶殺一撃発動。


 俺は拳を走らせた。

 拳は盾を貫き、マチルダの顎に届く。


「アグフゥァぁアアアァァァああアアンンッ!?」

「オメーにヨイチの作った物は相応しくねぇ」


 顎を突き上げ、宙に舞うマチルダ。

 眼光を鋭くし、俺を見下ろす。

 きっと、綿が飛び散ってる俺の姿でも目に映ったのだろう。


「――――だ、だけど、あなたには一緒に来てもらうわよッ! 地獄の底までッ! あたしと共にッ!」

「バカ言ってんじゃねーよッ! 俺は――――――――」


 突き上がったマチルダに向けて、俺は拳を次から次へと走らせた。


「ハーレム王になる男だッ!」


 拳が次から次へと、まるで銃弾の雨のようにマチルダの身体に放たれていく。

 ドドドドという音が響いていき、俺の身体からは綿が拳を放つたびに抜けていく。


「クマキチィィィぃィィィッ!」


 ヨイチが泣き叫んでいる。

 お前には悪いことをした。

 俺は、先に上で待ってるぜ。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

「ぐひぐひぐへぐふぉぐひっぐへぁぐぎぎぃっ!?」

「俺の相棒を侮辱する奴は――――――――」


 四十九撃放ち、最後の一撃を浴びせる為に拳に力を溜める。

 光度が増し、地下洞全体に光が澄み渡った。


「美女のおっぱいを横揉みされるよりも、女の子をいじめることよりも、許されざる行為だボケェェェェェェェェェェェェッ!」


 最後の一撃がマチルダの頬にクリーンヒットする。

 原型を留めておらず、既に意識がなくなっていたであろうマチルダの顔が、ダンプカーに衝突したかのように変形した。

 ぐしゃりと音をあげ、マチルダの身体は天井に打ち上がる。

 やがて頭から天井に刺さり、身体だけが宙吊り状態になった。


「―――――――――――――――――――――やった……か」


 最後の一撃を放ち、俺は安堵の溜息を吐く。

 気がつけば、身体のコントロールができず、俺の身体は地面に倒れた。


「クマキチッ!」


 ヨイチを先頭に駆け寄る皆。

 俺の身体に力は入らない。

 どうやら、ここで、俺の、いや、クマキチとしての生を終えるようだ。

 視界が狭まる。

 皆が泣きながら叫んでいたが、俺の耳には届かない。なんていったってぬいぐるみだからな。

 大事な相棒を残して逝くのは残念だけど、これでも俺はヨイチと出逢えて良かったと思ってる。

 マチルダなら冥土で俺がまたぶっ倒してやるから、安心しろ。


「……………………じゃあな」


 俺の視界は完全に閉じた。

獲得称号


・無職のぬいぐるみ:効果不明


・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明


・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明


・神をオカズに抜く男:効果不明


・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。


・竜に挑みし者:効果不明


・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明


・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明


・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号


・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。

追記

人間や、そのペットでは気絶させる程度に弱まる。

《派生技》

・熊無双連撃:連続で万物の耐久度を削る攻撃。

・特殊発動・絶殺一撃:全てを貫く攻撃。


・役立たずのクズ:効果不明


・怒れる玩神:一撃必殺を授かりしぬいぐるみの進化系。五十連撃もの一撃必殺を撃ち尽くせる準備完了のような称号。腕に灯る光が炎のように変わる。

《派生技》

・玩神五十連撃必殺:怒ったクマキチ考案技。一撃必殺を五十発叩きこむ、圧倒的反則技。本人曰く、名前があった方がカッコイイとのこと。


【ヨイチの称号】


・双竜刀発動の青年:獄炎の魔剣と死毒の魔剣を装備した場合にのみ、発動される。二匹の魔竜種の魔力を引き出すことができる。

《派生技》

・獄双竜:魔力を消費することによって、竜巻を起こすことができる。


・神が嫌うぬいぐるみの介護をする青年:神が嫌うぬいぐるみの世話をする青年は、色々な気苦労も絶えないだろうと考慮した上での措置。基本的には、ぬいぐるみに死なれたら困るので、介護・監視をする役目を与える。問題児を監視してくれている為、この青年は基本的にはダメージは受けるが、死にはしない


上級魔物討伐達成


>魔竜・ヘルフレイムドラゴン【討伐報酬】獄炎の魔剣


>魔竜・ポイズンドラゴン【討伐報酬】死毒の魔剣


>森大将【討伐報酬】

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