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 視界が真っ白に染まる。

 俺は叫んだ。


「ヨイチィィィッ!」


 最後にヨイチは俺に呟いた。

 俺の代わりに生きて。と。

 小さな手を伸ばし、ヨイチの身体を探す。

 だが、ヨイチの身体は上空に吹き飛び、俺の視界から消えた。

 やがて、アリーナが叫んだ。


「ヨイチィィィッ!」

「アリーナ!?」


 ヨイチの身体をお姫様抱っこし、着地するアリーナ。

 爆風に巻き込まれていた俺も着地して、ヨイチに駆け寄った。


「ヨイチっ! ヨイチっ!」

「何してんだよッ! お前はこれから俺と冒険に出るんだろッ! 何寝てんだよッ!」


 するとヨイチは微かに瞳を上げて、俺を見て微笑む。


「……お、おれの……ぶ、ぶんまで……」

「ヘリスッ! ヘリスはどこだッ!」


 すぐに周囲を見渡しヘリスを探す。

 だが見つかったのは、ゴーレムの巨体。

 アリーナは涙を浮かべていたが、すぐに瞳を細める。


「コイツは私が倒すッ!」

「待て」


 俺はアリーナを片手で抑え、立ち上がった。


「おい、殺す必要あったか?」


 俯きながら俺は聞く。


『人間は哀れな生き物。何人も生かしておく必要もない。悪いが、我々にとっては死んでもらったほうがいい。百害あって一利なしだ』


 冷酷に響くゴーレムの言葉。

 俺の拳が震える。

 顔を上げ、俺はゴーレムを睨みつけた。


「……なら、殺していいんだな。それなら俺ら側からしたら、お前は千害あって一利なしだッ!」

「く、クマキチっ!」


 俺の身体の中から溢れんばかりの光が溢れる。

 アリーナはヨイチの身体を膝枕で寝かせながら、俺のことを凝視していた。


「……お前の未来は、消滅だッ!」

『ふざけたことをッ!』


 ゴーレムが拳を走らせる。

 俺は片手だけで、ゴーレムの拳を抑えた。


『な、なんだと!?』

「お前の敗因は一つ。たった一つだ」


 俺は拳を構え、ゴーレムの拳に向かって走らせる。


「俺の親友を傷つけたことだッボケッ!」


 ゴーレムの拳を殴り、押し返す。

 蹌踉るゴーレム。巨体を揺らす。

 その隙に俺は跳び、拳を太陽のように光らせながら迫る。


「オラアァァァァァァァッ!」

『ぬいぐるみ風情がッ!』


 迫るゴーレムの拳。

 俺も全力でゴーレムの拳を殴る。


 称号・怒れる玩神を取得、発動します。


 視界に現れた称号。

 俺の拳は太陽のような眩い光ではなく、夕焼けのような茜色を帯びる。

 再び殴り負けしたゴーレムは後方に押され、その隙を逃さず俺は拳を固めた。


 コイツらが何故一撃で仕留められないのか。俺はようやくわかった気がする。魔物相手には心臓に近い部分にまで、俺は振動を送らないと一撃必殺は発動しないのだ。

 つまり、魔豚種の角やゴーレムの拳を何度殴ったところで心臓または核部分には振動などいかない。

 魔竜種は背中などから殴ったおかげで心臓に一撃必殺の拳で振動が伝わったから仕留められたのだ。

 だとすれば、ゴーレムも心臓部分を殴れば一撃。

 俺は蹌踉たゴーレムの腕から胴体に向けて駆け上がった。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァッ!」

『ど、土足で上がるなぁぁぁぁぁぁぁッ!』


 肩部分にまで到達し、俺は高くジャンプする。

 拳を固め、ゴーレムの心臓部があると思われる胸部まで落下する。


『や、やめろッ!』

「うるせーぞッ! 俺らがこの世にいてはいけないとお前らが判断するなら、俺らだってお前らはこの世にいてはいけない存在だと判断してやるッ!」


 両拳が赤い光を帯び、まるで炎のように揺れた。


「食らいやがれッ! 玩神五十連撃必殺ッ!」


 俺は拳を走らせる。

 交互にワンツーパンチを次々と入れていく。

 ドドドドと大雨のような音が平原に響き渡る。

 ゴーレムの胴体には銃弾で何十発も撃たれたかのような痕が浮かぶ。

 巨体は後方に倒れ始める。

 五十発殴ると、俺の拳から赤い光は消えた。

 やがてゴーレムの身体が淡く光り出し、ガラスのようにヒビが入る。


『ま、まさか……わ、我が……ぬいぐるみごときにッ!』

「黙って消えな……」


 俺は着地し、ゴーレムの死に様を眺めた。

 やがて、ゴーレムの身体はガラス片のように飛び散り、雪のように溶ける。

 濃霧が晴れていき、コロンブス平原に陽光が指す。

 シンラ、サクリア、ヘリスが駆けつけてくる。


「ヘリスっ! ヨイチが……っ!」


 俺はすぐにヘリスに視線を移した。

 ヘリスもアリーナの太ももで眠るヨイチを視界に入れて顔色を変える。


「よ、ヨイチさんっ!?」

「ヘリス頼む!」


 頭を下げて俺はヘリスに、ヨイチの様子を見てもらうようにお願いした。

 サクリア、シンラもヨイチの元へ行き、心配して見つめる。

 ヘリスは老体のヨイチを回復させる為に出していたホログラフィックの表を魔法で具現させて眺めていた。

 ヘリス以外の人も落ち着かない様子でヨイチを見守る。


「……どうなんだよヘリスっ!」

「安心しろ。ヨイチさんは疲れているだけだ」

「……は?」


 疲れてるだけ?

 黙っていた皆も、俺と同じような顔をした。


「つ、疲れてるだけで寝ちゃうんですか!?」

「多分、連日の疲れが出たのだろう」

「ちょ、ちょっと待てよ!」


 しかし、疲れてるから眠っているわけとはどうしても思えない。

 ヨイチはゴーレムのロケットパンチを食らい、爆発を諸に食らったのだ。

 それで疲れて眠ってるなどあり得ない!


「ヨイチは……」

「全部見ていた。シンラやサクリア国王ならわかるのではないか?」


 シンラとサクリアは一瞬黙り込み、やがてシンラが口を開いた。


「……クマ太郎さんは近くにいたから、わからなかったんだろうけど、ヨイチが爆発に巻き込まれそうになったとき、一瞬だけヨイチの身体が光で包まれたんだよ」

「光に包まれ……どういうこと?」


 サクリアが両手を固く結びながら口を開く。


「恐らく、神の御加護かと」

「神の加護……?」


 聞き覚えのある単語。

 俺は視界の右端にあるいくつもの文字を眺めた。

 別の称号が浮かんでいたのを目にする。


 称号・神が嫌うぬいぐるみの介護をする青年


 は? 何コレ。

 俺はなんとなく指で、皆が見えていない称号に触れた。

 視界に説明が書き出される。

 こんなシステムあったの!? なんだったんだろう、俺のこれまでの苦労……。


『神が嫌うぬいぐるみの世話をする青年は、色々な気苦労も絶えないだろうと考慮した上での措置。基本的には、ぬいぐるみに死なれたら困るので、介護・監視をする役目を与える。問題児を監視してくれている為、この青年は基本的にはダメージは受けるが、死にはしない』


 なんだよ、じゃあ、ヨイチは絶対に死なないってこと?

 っていうか、この称号って神が直接送ってくれてるのね。説明書きがムカつくけど。


「……なんとなくわかったよ。ヨイチは死なない」


 ガバッと俺の胸倉を掴むアリーナ。その双眸は涙が溢れ、俺のことを睨みつける。


「早くヨイチを助けてよッ! 相棒なんでしょッ! だったら早くしてよッ!」

「慌てるなって。アリーナ。俺様の相棒だぜ? 簡単に死なないって」

「そんな軽く言うな! お前だってさっきまでは泣いてたじゃないかッ!」

「べ、別に泣いてなんかいないっての!」


 アリーナはヨイチの容態が心配なようだ。

 神に死なないと言われれば、嫌でも落ち着くっての。


「じゃあ、シンラ、ヘリス。ヨイチのことは頼む」

「クマキチ? どこに……?」

「俺は……」


 洞窟の方へと視線を移す。

 そこには今回の事件の主犯者がいる筈だ。


「最後のケリをつけにいく。ヨイチが起き上がる頃には戻る」

「私も行きます」


 サクリアが立つ。


「さっきはそういう話だったもんな」

「はい。それにい、セレスティンがいるかもしれませんので」

「騎士団隊長を救いに行くのは王の務めか?」

「いえ、そういうわけではないのですが」

「まぁなんだっていい。シンラ、ヘリス。お前らはヨイチの意識が戻ったら、すぐに引き返せ」


 シンラとヘリスは気にくわなさそうだったが、泣くアリーナを見ると何も言えなくなっていた。

 俺とサクリアは洞窟に向かう。


 洞窟内は岩肌が濡れていて、暗かった。ランプが掛けられていなければ、とてもじゃないが歩けなかっただろう。

 湿気が多く、とこどころには水溜りがあった。


「あの……失礼でなければですが」

「あ?」

「クマキチ殿は、何故そこまで誰かの為に戦えるのですか?」

「そりゃぁ……」


 突然の質問に、俺はちょっと困ったが、すぐに口から言葉が出る。


「……俺の師匠、というかお爺ちゃんがいたんだけどさ。お爺ちゃんが死んだときさ、凄く後悔したんだ。もっとあーしてやれば良かったなーとか、もっと力になってやれば良かったなとか」

「…………」

「それでさ、世の中には色んな人がいてさ、例え俺に関係がなくても、その人が死んだら悲しむ人がいる。そう考えると、いつも自然に身体が動くんだよな。だから……」


 死ぬのか。海音もそうだった。トラックにぶつかって死んでしまうと考えていたときには、身体が自然に動いて、気がつけば俺が死んでいたんだから。

 自分が死んでりゃ世話ねぇな。


「まぁ早死にしそうだよな。あははは……」

「させませんよ」


 気がつけば俺の小さな身体を、サクリアは抱きしめていた。腕に込められる力は強いが苦しくない。まるで、母親に抱っこされているかのような暖かさがあった。

 心が休まるような包容。


「クマキチ殿……ううん。クマくんは、私が守ります。一生、いえ、生まれ変わっても守ってみせます。誰かの為に死なせなんてしません」

「……ありがとな」

「だから、とりあえずはセレスティンを助けましょう。今度は私もしっかり働きますから」


 俺はサクリアに抱かれたまま、奥へと進んだ。

獲得称号


・無職のぬいぐるみ:効果不明


・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明


・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明


・神をオカズに抜く男:効果不明


・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。


・竜に挑みし者:効果不明


・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明


・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明


・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号


・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。

追記

人間や、そのペットでは気絶させる程度に弱まる。


・役立たずのクズ:効果不明


・怒れる玩神:一撃必殺を授かりしぬいぐるみの進化系。五十連撃もの一撃必殺を撃ち尽くせる準備完了のような称号。腕に灯る光が炎のように変わる。

《派生技》

・玩神五十連撃必殺:怒ったクマキチ考案技。一撃必殺を五十発叩きこむ、圧倒的反則技。本人曰く、名前があった方がカッコイイとのこと。


【ヨイチの称号】


・双竜刀発動の青年:獄炎の魔剣と死毒の魔剣を装備した場合にのみ、発動される。二匹の魔竜種の魔力を引き出すことができる。

《派生技》

・獄双竜:魔力を消費することによって、竜巻を起こすことができる。


・神が嫌うぬいぐるみの介護をする青年:神が嫌うぬいぐるみの世話をする青年は、色々な気苦労も絶えないだろうと考慮した上での措置。基本的には、ぬいぐるみに死なれたら困るので、介護・監視をする役目を与える。問題児を監視してくれている為、この青年は基本的にはダメージは受けるが、死にはしない


上級魔物討伐達成


>魔竜・ヘルフレイムドラゴン【討伐報酬】獄炎の魔剣


>魔竜・ポイズンドラゴン【討伐報酬】死毒の魔剣


>森大将【討伐報酬】

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