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15

 途中、ゴーレムは足を止め、アリーナの身体を地面に投げ飛ばした。

 軽々と宙に舞い、尻から落ちる。


「ゴゴゴゴゴ…………」

「クソっ、魔物ごときに……ッ!」


 アリーナは鋭い視線でゴーレムを見上げた。

 途轍もなくデカイ魔物。奴こそが魔精霊種であり、セレスティンを殺した魔物なのだ。そう己を鼓舞することによって、アリーナは自らを奮い立たせている。

 だが、アリーナの後方からは別の魔物も到着していた。


「ブルブブブブ……」

「な!?」


 驚きのあまり、アリーナは喉を詰まらせる。巨大な豚のような魔物が背後にいたのだが、そこに驚いたのではない。奴の背中には、サクリア王女が載っていたのだ。気を失っているようで、意識はないが無事なのは確認できた。

 しかし、無事だからといって、何をされるかはわからない。

 サクリアの隣には、シンラも乗っていた。


「くっ! 何をしようというのだッ!」

「ゴゴゴゴゴ…………」

「ブルブブブブ……」


 何を叫んでも返ってくるのは不気味な魔物の声。アリーナは両手で剣を握り、静かにゴーレムを見上げる。


「……私とて、サクリア様に忠誠を誓った身ッ! 死ぬのなど、怖くないッ!」

「ゴゴゴゴゴ…………」

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 アリーナは走り出した。

 だが、その行く手を阻む者が現れる。

 ヨイチだった。血まみれになりながらも、獄炎の魔剣を手にし、アリーナの無謀とも言える行動を抑制したのだ。


「……やっと追いついたぁ……」

「き、貴様は……」


 ヨイチはニコリと笑いながらアリーナに言った。


「クマキチに怒られちゃったよ。もし、目の前で女の子が怪しい何かに連れて行かれそうになったら、死んでも手を離すなってね」

「ヨイチ……」

「それは俺も正しいと思う」


 傷の手当をヘリスにしてもらったヨイチは、見た目ほどダメージを負ってはいなさそうだ。アリーナを拉致ったゴーレムをストーキングする際に、俺とヘリスでヨイチの安否を調べでいた。

 その結果、ヨイチは一命を取り留め、かつまだ戦うと言って飛び出したのだ。

 そんなわけで俺様は安心して、遠目から眺めていた。


「クマキチ……私達は行かなくていいのか?」

「冷静になれヘリス。ここで、もしヨイチが満身創痍で戦い、俺らも加勢したとしよう。だがな、考えてもみろ。ヘリスはセレスティンの死体を見たのか?」

「い、いや……」


 仲間を次々と拉致られ、俺は一瞬で自分を責めたが、こいつらの行動で俺の中で、何故死体が男だけなのか気がついたのだ。

 奴らは、奴隷を探している。つまり、奴隷として使えなさそうなブサイクかつ戦闘能力が低い男は殺害され、魔豚種の餌となっていた。

 しかし、サクリアを始め、シンラ、アリーナは殺害せずに、この場所まで連れ帰ってきたのだ。といっても拠点がどこだかは、不明のままだが。

 ともなれば、こいつらのやり取りで、俺らが後をつけるしかないのだ。

 とはいえ、アリーナに関しては、半ば自分の命を犠牲にしてでも戦おうとする意思が見られる為、早急に救助する必要があった。

 そこで、俺の姿を晒せば魔豚種が必ずといっていいほど殺しにくる。これでは根本的な解決にはならない。


「奴らは奴隷を探しているのさ。要は、顔の良いセレスティン。サクリア王女もそうだけど、皆美人揃いだ。つまりヘリス。お前も狙われる可能性は高いんだ」

「それはわかってるが……。そこで何故ヨイチさんを?」

「気がつけよ。ヘリス、お前が死んだらどうするんだよ。お前がいなくなったら……」


 仲間の回復ができず、全滅の確率が大幅に上がる。それだけは避けたい。

 そこまで言うのを渋ると、ヘリスは俺の身体をギュッと抱きしめた。


「……わ、私は、ず、ずっとクマキチの側に、いるぞ」

「ありがとな」


 俺はヘリスから顔を離し、ヨイチとアリーナの様子を見守ることにする。

 ヨイチは獄炎の魔剣を構え、静かに魔豚種とゴーレムの魔精霊種を見上げた。

 両者共ゴミ屑のような大きさのヨイチを睨みつける。


『本当にやろうってのか? このゴミ屑は』

『そのようだな。我の気まぐれで生かしてやったというのに……まぁいい。今すぐ排除してやろう』


 魔豚種は突進を始めた。

 ゴーレムは拳を硬め、ヨイチに叩き落す。


「ヨイチッ!」

「行くよ! アリーナさんッ!」


 アリーナを片手で抱え、ヨイチは真っ直ぐ走る。その先にいるのはゴーレムだ。

 魔豚種の突進から逃げるようにゴーレムに向かうヨイチ。その速度は残念ながら、圧倒的に魔豚種の方が速い。

 ヨイチは獄炎の魔剣を片手で構え、ゴーレムに向かって走らせる。

 同時にゴーレムの拳が直撃。

 魔剣でゴーレムの拳を止めたヨイチ。だが、後方からは魔豚種が迫ってきている。


「ぐっ……!」

「無理だ!引け!ここは私一人でッ!」


ヨイチはゴーレムの拳を防ぎながら、苦しそうに言った。


「無理だよ……。俺は冒険者だ……ッ!人々を助けるのも、俺達の目的なんだッ!」

「……ヨイチ……」


 俺は知ってる。ヨイチがどこまでも努力家なのを。朝早くに起きたり、深夜に目が覚めた時、一人である練習をしていたのだ。

 ヨイチには戦闘に関する自信はない。だからこそ、ここで俺はヨイチに自信をつけさせたかったのだ。

 もちろん、俺様が戦えば終わることは間違いない。だが、セレスティンの件も含め、奴らを殺すのは良くない。半殺し程度に抑える必要があるのだ。

 それをするのは、俺ではなくヨイチが適任であり、かつ今のヨイチならば……。


『潰れろッ!』

『餌になってもらうぜッ!』


 ゴーレムの力が強まる。さらに後方の魔豚種が近づく。

 ヨイチは力を振り絞るが、片手ではそろそろ限界だ。

 残る力でヨイチは叫ぶ。


「我が剣よ! 獄炎に晒せッ!」


 魔剣から迸る火柱。炎は虫のようにゴーレムの腕を駆け上がり、顔にまで届く。

 一瞬にして仰け反ったゴーレム。

 だが後方には魔豚種が待ち構えている。

 アリーナは目を閉じた。

 ヨイチは諦めていない。

 獄炎の魔剣を片手で振るい魔豚種の顔面を横薙いだ。


『グォォォォォッ! ほ、炎があっ!?』

『は、鼻がァァァァァァァッ!』


 飛び交う血飛沫。

 ヨイチは深呼吸をした。

 アリーナは、ヨイチのことを珍しい宝石でも見るかのような目つきで見つめる。


「……す、凄い……」

「ここからは、俺の仕事だ。アリーナさんはそこで座っててください」

「え!? で、でも、私はまだ……ッ!?」


 立ち上がろうとしたアリーナだったが、足を崩してしまう。

 そんなアリーナに手だけで抑制し、ヨイチは微笑む。


「大丈夫。ここからは俺に任せて」


 ヨイチは右手の獄炎の魔剣を握り締める。

 挟み撃ちだ。ヨイチはどうするつもりなのか。

 俺にはよくわかっていた。

 魔剣を没収される前から、ヨイチはある訓練をしていたのだ。

 どうやらその訓練とやらは、幼少期にヨイチに冒険者としての夢を与えた人物のものだったらしい。

 それを今実行するのか。


「ここからは、俺が相手をする」


 ヘリスにヨイチを回復させてもらったとき、俺はヨイチに言われたのだ。

 もう一度、アイツと戦わせてくれ。と。

 基本的にはヨイチは俺の相棒で、お互いのことは、何故だかよくわかっている。ヨイチの眼差しは何か大切な物の為に戦うというよりは、どんな男の中にも眠る好奇心が目覚めたような気がした。

 だから俺は行かない。


『人間風情がッ!』


 火を消したゴーレムが焼けた拳を走らせた。


『自慢の鼻をヨクモオオオォッ!』


 魔豚種が突撃してくる。

 挟み撃ちになっているヨイチ。

 ゴーレムの拳を跳躍することで回避した。

 魔豚種が醜く飛ぶ。

 ジャンプ突進だ。

 ヨイチは獄炎の魔剣を振おうとする。


『もう同じ手は効かねーぞッ!』


 魔豚種が顎を引く。

 ヨイチに近づくと、顎を思いっきり上げた。

 残った鋭利な角がヨイチを襲う。

 魔剣と角が衝突し、金属音が響く。

 お互いの身体が仰け反る

 だが、後方からは二発目の拳を走らせていたゴーレム。


「くっ」


 ゴーレムの拳は隕石のように凄まじく、勢いよく走った。

 ヨイチはすぐに空中で体制を整え、ゴーレムの拳に向けて魔剣を振るう。


「我が剣よッ! 炎に晒せッ!」

『もう効かんぞッ!』


 ゴーレムは拳を解き、掌を広げる。

 そのままヨイチの身体を掴もうと襲いかかってきた。

 ヨイチは迫ってきたゴーレムの巨大な手を、左手で踏み台にして前転して躱す。

 着地すると、そこに魔豚種が襲いかかる。

 飛んでいた魔豚種は角をハンマーのように叩き落そうとしていた。


「く、クマキチッ! このままだとヨイチがッ!」

「待て……。俺だってこのまま、見ていられるわけねーだろッ!」


 ヨイチのヒヤヒヤする戦い方を見ていると、俺の手が汗でじっとりと濡れる。

 今まさに、ヨイチは挟み撃ちに遭う。

 ヨイチ、日頃の成果を見せてみろッ!


 ――――そして、魔豚種の角とゴーレムの拳がヨイチに向かって叩き落された。


 爆発したかのような砂煙り。ヨイチの姿は見えないが、魔豚種とゴーレムの姿はくっきりと見える。

 俺とヘリスは口を開きながら、ヨイチを見つめた。


「……ヨイチ……」

「クマキチッ! 見損なったぞッ! お前がヨイチさんに任せろって言うから、任せたら……。ヨイチさんを殺したのはお前だぞッ!」


 胸倉を掴むヘリス。

 しかし、俺はそれどころではなかったのだ。

 視界に広がる文字。


 称号・双竜刀発動の青年


 今まで、男やぬいぐるみだった。だが、ここで新たな称号とやらが発動されたのだ。

 砂煙りが徐々に晴れ、二匹の姿が明らかになった。

 ヘリスは二匹の魔物の方へと視線を向ける。


「……ヘリス。俺様の相棒だぜ? そう簡単に死ぬわけねーだろ」

「……あ、あれは……ッ!」


 ヨイチの腰にあった死毒の魔剣は抜かれていた。

 魔豚種の角を翡翠色の刀身を持つ死毒の魔剣が防ぎ。ゴーレムの拳を獄炎の魔剣が防いでいた。

 ヨイチの背後からは巨大なオーラが湧き上がっている。

 赤い竜と緑の竜。それは俺とヘリスがノウス魔洞で見た二匹の竜の姿に類似していた。

 ヨイチは呟く。


「……アリーナさんを泣かした罪。俺が全部裁いてやる。獄双竜(ごくそうりゅう)ッ!」


 溢れるオーラは魔力。その魔力が周囲に竜巻のように吹き溢れ、ゴーレムと魔豚種を吹き飛ばした。

 その姿を目にしたヘリスが驚きのあまり、声を漏らす。


「く、クマキチが倒したんじゃ……」


 二匹の竜、ヘルフレイム・ドラゴンとポイズン・ドラゴンのことをヘリスは言っているのだろう。だが、俺にはわかっていた。ヨイチの後方にいる二匹の魔竜は、ヨイチを襲うためにいるのではなく、今目の前にいる魔精霊種と魔豚種を倒すためにいるのだと。

 二刀を構え、ヨイチは魔豚種に向かって走り出した。


獲得称号


・無職のぬいぐるみ:効果不明


・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明


・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明


・神をオカズに抜く男:効果不明


・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。


・竜に挑みし者:効果不明


・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明


・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明


・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号


・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。

追記

人間や、そのペットでは気絶させる程度に弱まる。


・役立たずのクズ:効果不明


【ヨイチの称号】


・双竜刀発動の青年:獄炎の魔剣と死毒の魔剣を装備した場合にのみ、発動される。二匹の魔竜種の魔力を引き出すことができる。

《派生技》

・獄双竜:魔力を消費することによって、竜巻を起こすことができる。


上級魔物討伐達成


>魔竜・ヘルフレイムドラゴン【討伐報酬】獄炎の魔剣


>魔竜・ポイズンドラゴン【討伐報酬】死毒の魔剣


>森大将【討伐報酬】

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