14
男の声がして、俺とシンラとサクリアは走り出した。平原を駆け抜けるが、声のした方向がどちらかわからなくなる。これは激しい濃霧のせいだ。
耳を澄ませて聞く。だが、男の声とは別の音が俺の耳には届いた。
グチャグチャっという、捕食音。それはサクリアやシンラに聞かせるのには、途轍もなくえげつない。
「どこにいる!?」
サクリアが叫んだ。どうやら捕食音は聞こえてなかったみたいである。しかし、この近くには人を食う魔物がいるという事実だけで、俺の背筋が凍った。
「離れるな! 敵はすぐ近くにいるぞ!」
「うん!」
「はい!」
俺を先頭にして、後方をシンラとサクリアが武器を構えながら歩く。
トライアングルのように、三角形の陣を描きながら進む。
やがて、俺の足が水溜りを踏んだ。
「こ、これは……」
「どうしたの! クマ太郎さん!」
俺の足元にあったのは水溜りではなく、赤い鮮血だった。その近くには、血まみれの鎧や剣。それを見てシンラは絶句し、俺も言葉を失った。
サクリアはただ一人、血まみれの剣を握り呟く。
「……我が兵士が……っ」
王として悔しいのか。サクリアは涙を堪え、立ち上がった。
俺とシンラは何も言わずに先を進へと進むと、更に悲惨な光景が待ち構えていたのだ。
「……な、なんだってこんなに……っ!?」
「ぜ、絶対こんなのおかしいよっ!」
「くっ……なぜ、ここまでする必要があるのだッ!」
シンラはあまりの恐怖に震え、サクリアは涙を浮かべて怒りを露わにした。
二人をそうさせたのは、死体の山。今までに行方不明となった兵士達の残骸とでも言えばいいのか。山のように積まれた男兵士の死体。血は溢れ、周囲には悪臭が漂う。
俺はどうしていいか、わからなかった。人間をこうも殺すのが魔精霊種なのかと思うと、さすがの俺も足が震えてくる。
やがて、俺達三人以外の足音が響いた。
誰もが警戒心を高め、極度の緊張状態に陥る。
『ガララララララッ! 人間の大量フルコースだぜッ! やっぱり人肉はうめぇ』
俺の耳にだけ届いた言葉。サクリアやシンラには聞こえていないところを見ると、どうやら魔物の声だと判明する。
続いて聞こえた捕食音。顎を開き、男達の肉体を貪り尽くす汚い音が、コロンブス平原に響いた。
俺の額から汗が垂れる。こいつは魔竜種よりも危険な魔物だ。
俺は密かに拳を構えた。
「く、クマ太郎さん……怖いよぉ……」
「安心しろ、俺がついてる」
そうは言っておきながらも、俺の汗も半端ない。このまま、じっとしていては殺される可能性が高いだろう。しかし、疑問点もある。
それは、ここにいるのは男の死体のみということだ。この魔物は男の死体を食うことが趣味なのか。それとも兵士に女はいなかったのだろうか。
俺の心臓が高鳴ってくる。ドクンドクンと。
静かに歩み寄り、俺は悪臭のする死体の山へと近づいた。
やがて、俺は周囲を見渡し、動いている影がないかと、死体の山を一周する。
「…………」
数分かけてシンラと共に一周し、魔物の姿も捕食音も聞こえなくなった。
内心に募っていた恐怖や警戒が解け、俺は溜息を盛大に吐く。
「…………ふしゅぅ……」
「クマ太郎さん……」
安堵の溜息を吐き、次なる場所へと進もうとしたとき。サクリアがいないことに気がついた。
すぐに警戒心が急激に上がり、俺は耳を澄ます。
「きゃあああああっ!」
「サクリアッ!」
「いや! クマ太郎さん行かないでっ!」
サクリアの叫び声が聞こえた。
だが、シンラも恐怖し、自分一人だけ置いていかれることを恐れている。
俺はシンラをお姫様抱っこし、そのままサクリアの声がする方へと駆けた。
やがて、俺の視界に巨大な猪のシルエットが写る。大きさは鯨ほど。その猪の目線の先には腰を抜かしたサクリアがいた。
俺はすぐにシンラを降ろして、猪に立ち向かう。
「テメェかッ! こんな悪趣味なことをしてる魔精霊種って輩はァァァァァァァッ!」
拳を固め、光が溢れる。
俺は猪の足に拳を叩き込んだ。
奴は急に出現した俺に驚いて、動けなかったのか、攻撃をまともに受けた。
やがて、猪が転ぶ。
俺が攻撃した足は、魔竜種のときと同じく、ガラスを割ったかのようにヒビが入り、雪のように溶けていく。
だが、この猪は自らの前足を食い千切り、死だけは逃れた。
『我が足をよくもッ!』
「うっせーぞ豚ッ! テメェだけは許さねーぞッ!」
再び拳を固めると、光が漏れ出す。
サクリアの様子をチラッと見ると、俺に目線を釘付けにしていた。
「い、一発で……足を?」
「なぁに、俺様専用の神の恩恵だ。悪いが、シンラとそこにいてくれ。すぐに片付けっからよ」
俺はそれだけ伝え、猪と対峙する。
『我が名はアリストン・ベルチェ。魔豚種だ。貴様はただの雑魚と伺える。我の捕食を邪魔するでない』
「こっちは、お前に何人も殺されて、困ってる美女を助けてーんだよ。悪いがお前には死んでもらう」
『小癪なッ! 貴様も我が餌となってもらうぞッ!』
激しい突進。まるで平原に電車道を作るかのような勢い。とてもじゃないが片足を失ってるとは思えなかった。
真正面から俺は受け止めようとして、拳を固める。俺は高く飛び跳ねて、拳を走らせた。
「ウォォォラァッ!」
拳とアリストンの角が交差する。
角にヒビが入り、砕けた。
だが、突進の勢いは止むことなく、俺の身体に威力は集中する。
「グハッ!?」
突進され、俺の身体は軽いが為に、かなり遠くにまで吹き飛ばされた。
それこそ、ロケットとか並みに。
紙飛行機のように飛び去る俺にシンラとサクリアが叫んだ。
「クマ太郎さァぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!」
「クマキチ殿ぉぉぉぉぉぉッ!」
「くそガァァァァァァァァァァァ――――――ッ!」
――――――――やがて俺の耳に二人の声が聞こえなくなった。どれだけ飛ばされたのだろう。俺の身体はバウンドし、やがて何かにぶつかった。
頭を打ったが、ぬいぐるみだからか、痛みは思ったほどではない。
というより、俺の後頭部には柔らかいものが当たっていた。まるでマシュマロのような…………。
「……何をしている」
「こ、この柔らかさは一体ッ!? 俺の身体が元気にッ!」
「だから、何をしていると聞いているんだ」
そのとき、俺の頬を剣が掠めた。
すぐに起き上がると、そこにはアリーナが腰を降ろしていたのだ。
な、なるほど。今のはアリーナのおっぱいであったか。揉み心地は中々だった。
「……ってそんなことしてる場合じゃねぇッ!」
「そんなこと? 貴様は私の胸を揉んで、そんなこと扱いか?」
「違うんだ!」
必死に弁明をしようとしていると、ヨイチとヘリスが声をかけて戻ってくる。
「どうしたのクマキチ?」
「やっぱりシンラのような貧相な胸じゃ、足らなくてこっちに戻ってきたの?」
「ちげーよ! 今、魔豚種とかいうのと戦ってたんだけど、そいつに吹き飛ばされて……」
瞬間、俺の胸倉をぐいっと掴むアリーナ。
「まさか、姫様を置いてこられたというのか!? 何をしてるんだ!」
「うるせーよ! 今すぐに戻るから、お前らも来てくれ!」
だが、こっちにも静かに、しかし確かに王者は近づいていた。
その証拠に、俺の耳に届く。
『我が領土に不法侵入とは、中々骨があるな』
ゆっくりと聞こえるその声。
俺もアリーナもヨイチもヘリスも、その声の主に視線を向ける。
シルエットは巨塔の如く高い、石レンガのゴーレム。
「て、テメェは一体……ッ!?」
上を見上げながら叫ぶ。
やがてゴーレムは答えた。
『我は魔精霊種のセイント・ゴーレム。この大地を支配せんとする者だ。悪いが、我を見た以上、男共には死んでもらうぞッ!』
「何っ!?」
男共は?
どういうことだ!?
いや、そういえば、死体は男だらけだった。
セレスティンもそこで死体に……!?
一刻を争う事態に、突然現れた王者。
ゴーレムは鉄塔のような拳を振り上げ、俺らに降り注いできた。
「ゲスッ! ここは私が引き受けるッ! 早く姫様を救いに行けッ!」
「アリーナは、どうすんだよッ!」
アリーナは剣を構え、微笑んだ。
「……姫様が生きているのなら、死んだっていい。私の命は、そういう命だ」
俺の瞳に写るアリーナは、美しく微笑んでいた。それが強がりだってわかってる。だからこそ、俺は拳を固めて、アリーナの所へ戻ろうとした。
だが、俺の身体は押される。
「クマキチ。皆を頼んだよ。ここは俺の役目だ。アリーナさんは死なせない。だから必ずクマキチも生きて帰ってきてッ!」
「よ、ヨイチッ!」
「頼んだよ! ヘリスさんッ!」
「はいッ!」
俺の身体はヘリスに抱えられ、ヘリスは俺が飛んだ方向へと走る。
ゴーレムの前に立ちはだかるヨイチとアリーナ。
鉄塔のような拳は地面に叩きつけられ、土砂が爆発したかのように宙に舞う。
「ヨイチィィィィィィッ!」
「クマキチ……」
俺はヘリスに抱えられたまま叫んだ。
しばらく走ると、俺は死体の山へと到着した。
ヘリスは顔を顰め、悪臭が鼻に入ってくるのを防ぐ。
「……ま、まさか……」
そこにはアリストンもいなければ、シンラもサクリアもいなかった。
両膝を着くと、足元に黒い物が落ちているのを発見。
それは、クナイ。シンラの使ったものだった。
「し、シンラの……ッ」
「ち、ちくしょう…………ッ!」
俺は地面を叩きつける。
しばらくすると、アリーナの叫び声が聞こえた。
「イヤァァァァァァァァッ!」
「え、今のって……」
「あ、アリーナさんの声……。よ、ヨイチさんは……」
俺は地面の草を握り潰す。
サクリアもシンラもヨイチも、どうなったかはわからない。
このまま終わるわけにはいかないんだ。
俺は立ち上がって、ヘリスの手を握った。
「く、クマキチ……?」
「ヘリス。絶対に俺から離れるなよ」
「え、あ、はいっ」
ヘリスは少し嬉しそうな顔をしたが、俺の言葉の意味は逸れるなっていう意味だ。
ここで逸れては、俺一人になってゲームオーバー。
この死体の山には、シンラもサクリアもいない。さっきゴーレムが言ってた言葉が引っかかる。男共は殺すと叫んでいたのだ。
もしかしたら、ヨイチとセレスティンはどこかでのたれ死んでるかもしれない。
けれど、どうしてもそう思えなかった。ヨイチもセレスティンも、死体の山にいないということは、もしかしたら生きているかもしれないのだ。
ゴーレムがゆっくりと俺らの前を通り過ぎていく。その手にはアリーナ。
アリーナは現在捕らえられている。彼女には悪いけど、奴らがどこへ女を連れて行くのかを調べる必要がある。
「ヘリス、行くぞ」
「はい!」
俺とヘリスは、ゴーレムの後をついていった。
獲得称号
・無職のぬいぐるみ:効果不明
・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明
・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明
・神をオカズに抜く男:効果不明
・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。
・竜に挑みし者:効果不明
・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明
・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明
・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号
・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。
追記
人間や、そのペットでは気絶させる程度に弱まる。
・役立たずのクズ:効果不明
上級魔物討伐達成
>魔竜・ヘルフレイムドラゴン【討伐報酬】獄炎の魔剣
>魔竜・ポイズンドラゴン【討伐報酬】死毒の魔剣
>森大将【討伐報酬】




