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 男の声がして、俺とシンラとサクリアは走り出した。平原を駆け抜けるが、声のした方向がどちらかわからなくなる。これは激しい濃霧のせいだ。

 耳を澄ませて聞く。だが、男の声とは別の音が俺の耳には届いた。

 グチャグチャっという、捕食音。それはサクリアやシンラに聞かせるのには、途轍もなくえげつない。


「どこにいる!?」


 サクリアが叫んだ。どうやら捕食音は聞こえてなかったみたいである。しかし、この近くには人を食う魔物がいるという事実だけで、俺の背筋が凍った。


「離れるな! 敵はすぐ近くにいるぞ!」

「うん!」

「はい!」


 俺を先頭にして、後方をシンラとサクリアが武器を構えながら歩く。

 トライアングルのように、三角形の陣を描きながら進む。

 やがて、俺の足が水溜りを踏んだ。


「こ、これは……」

「どうしたの! クマ太郎さん!」


 俺の足元にあったのは水溜りではなく、赤い鮮血だった。その近くには、血まみれの鎧や剣。それを見てシンラは絶句し、俺も言葉を失った。

 サクリアはただ一人、血まみれの剣を握り呟く。


「……我が兵士が……っ」


 王として悔しいのか。サクリアは涙を堪え、立ち上がった。

 俺とシンラは何も言わずに先を進へと進むと、更に悲惨な光景が待ち構えていたのだ。


「……な、なんだってこんなに……っ!?」

「ぜ、絶対こんなのおかしいよっ!」

「くっ……なぜ、ここまでする必要があるのだッ!」


 シンラはあまりの恐怖に震え、サクリアは涙を浮かべて怒りを露わにした。

 二人をそうさせたのは、死体の山。今までに行方不明となった兵士達の残骸とでも言えばいいのか。山のように積まれた男兵士の死体。血は溢れ、周囲には悪臭が漂う。

 俺はどうしていいか、わからなかった。人間をこうも殺すのが魔精霊種なのかと思うと、さすがの俺も足が震えてくる。

 やがて、俺達三人以外の足音が響いた。

 誰もが警戒心を高め、極度の緊張状態に陥る。


『ガララララララッ! 人間の大量フルコースだぜッ! やっぱり人肉はうめぇ』


 俺の耳にだけ届いた言葉。サクリアやシンラには聞こえていないところを見ると、どうやら魔物の声だと判明する。

 続いて聞こえた捕食音。顎を開き、男達の肉体を貪り尽くす汚い音が、コロンブス平原に響いた。

 俺の額から汗が垂れる。こいつは魔竜種よりも危険な魔物だ。

 俺は密かに拳を構えた。


「く、クマ太郎さん……怖いよぉ……」

「安心しろ、俺がついてる」


 そうは言っておきながらも、俺の汗も半端ない。このまま、じっとしていては殺される可能性が高いだろう。しかし、疑問点もある。

 それは、ここにいるのは男の死体のみということだ。この魔物は男の死体を食うことが趣味なのか。それとも兵士に女はいなかったのだろうか。

 俺の心臓が高鳴ってくる。ドクンドクンと。

 静かに歩み寄り、俺は悪臭のする死体の山へと近づいた。

 やがて、俺は周囲を見渡し、動いている影がないかと、死体の山を一周する。


「…………」


 数分かけてシンラと共に一周し、魔物の姿も捕食音も聞こえなくなった。

 内心に募っていた恐怖や警戒が解け、俺は溜息を盛大に吐く。


「…………ふしゅぅ……」

「クマ太郎さん……」


 安堵の溜息を吐き、次なる場所へと進もうとしたとき。サクリアがいないことに気がついた。

 すぐに警戒心が急激に上がり、俺は耳を澄ます。


「きゃあああああっ!」

「サクリアッ!」

「いや! クマ太郎さん行かないでっ!」


 サクリアの叫び声が聞こえた。

 だが、シンラも恐怖し、自分一人だけ置いていかれることを恐れている。

 俺はシンラをお姫様抱っこし、そのままサクリアの声がする方へと駆けた。

 やがて、俺の視界に巨大な猪のシルエットが写る。大きさは鯨ほど。その猪の目線の先には腰を抜かしたサクリアがいた。

 俺はすぐにシンラを降ろして、猪に立ち向かう。


「テメェかッ! こんな悪趣味なことをしてる魔精霊種って輩はァァァァァァァッ!」


 拳を固め、光が溢れる。

 俺は猪の足に拳を叩き込んだ。

 奴は急に出現した俺に驚いて、動けなかったのか、攻撃をまともに受けた。

 やがて、猪が転ぶ。

 俺が攻撃した足は、魔竜種のときと同じく、ガラスを割ったかのようにヒビが入り、雪のように溶けていく。

 だが、この猪は自らの前足を食い千切り、死だけは逃れた。


『我が足をよくもッ!』

「うっせーぞ豚ッ! テメェだけは許さねーぞッ!」


 再び拳を固めると、光が漏れ出す。

 サクリアの様子をチラッと見ると、俺に目線を釘付けにしていた。


「い、一発で……足を?」

「なぁに、俺様専用の神の恩恵だ。悪いが、シンラとそこにいてくれ。すぐに片付けっからよ」


 俺はそれだけ伝え、猪と対峙する。


『我が名はアリストン・ベルチェ。魔豚種だ。貴様はただの雑魚と伺える。我の捕食を邪魔するでない』

「こっちは、お前に何人も殺されて、困ってる美女を助けてーんだよ。悪いがお前には死んでもらう」

『小癪なッ! 貴様も我が餌となってもらうぞッ!』


 激しい突進。まるで平原に電車道を作るかのような勢い。とてもじゃないが片足を失ってるとは思えなかった。

 真正面から俺は受け止めようとして、拳を固める。俺は高く飛び跳ねて、拳を走らせた。


「ウォォォラァッ!」


 拳とアリストンの角が交差する。

 角にヒビが入り、砕けた。

 だが、突進の勢いは止むことなく、俺の身体に威力は集中する。


「グハッ!?」


 突進され、俺の身体は軽いが為に、かなり遠くにまで吹き飛ばされた。

 それこそ、ロケットとか並みに。

 紙飛行機のように飛び去る俺にシンラとサクリアが叫んだ。


「クマ太郎さァぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!」

「クマキチ殿ぉぉぉぉぉぉッ!」

「くそガァァァァァァァァァァァ――――――ッ!」





 ――――――――やがて俺の耳に二人の声が聞こえなくなった。どれだけ飛ばされたのだろう。俺の身体はバウンドし、やがて何かにぶつかった。

 頭を打ったが、ぬいぐるみだからか、痛みは思ったほどではない。

 というより、俺の後頭部には柔らかいものが当たっていた。まるでマシュマロのような…………。


「……何をしている」

「こ、この柔らかさは一体ッ!? 俺の身体が元気にッ!」

「だから、何をしていると聞いているんだ」


 そのとき、俺の頬を剣が掠めた。

 すぐに起き上がると、そこにはアリーナが腰を降ろしていたのだ。

 な、なるほど。今のはアリーナのおっぱいであったか。揉み心地は中々だった。


「……ってそんなことしてる場合じゃねぇッ!」

「そんなこと? 貴様は私の胸を揉んで、そんなこと扱いか?」

「違うんだ!」


 必死に弁明をしようとしていると、ヨイチとヘリスが声をかけて戻ってくる。


「どうしたのクマキチ?」

「やっぱりシンラのような貧相な胸じゃ、足らなくてこっちに戻ってきたの?」

「ちげーよ! 今、魔豚種とかいうのと戦ってたんだけど、そいつに吹き飛ばされて……」


 瞬間、俺の胸倉をぐいっと掴むアリーナ。


「まさか、姫様を置いてこられたというのか!? 何をしてるんだ!」

「うるせーよ! 今すぐに戻るから、お前らも来てくれ!」


 だが、こっちにも静かに、しかし確かに王者は近づいていた。

 その証拠に、俺の耳に届く。


『我が領土に不法侵入とは、中々骨があるな』


 ゆっくりと聞こえるその声。

 俺もアリーナもヨイチもヘリスも、その声の主に視線を向ける。

 シルエットは巨塔の如く高い、石レンガのゴーレム。


「て、テメェは一体……ッ!?」


 上を見上げながら叫ぶ。

 やがてゴーレムは答えた。


『我は魔精霊種のセイント・ゴーレム。この大地を支配せんとする者だ。悪いが、我を見た以上、男共には死んでもらうぞッ!』

「何っ!?」


 男共は?

 どういうことだ!?

 いや、そういえば、死体は男だらけだった。

 セレスティンもそこで死体に……!?

 一刻を争う事態に、突然現れた王者。

 ゴーレムは鉄塔のような拳を振り上げ、俺らに降り注いできた。


「ゲスッ! ここは私が引き受けるッ! 早く姫様を救いに行けッ!」

「アリーナは、どうすんだよッ!」


 アリーナは剣を構え、微笑んだ。


「……姫様が生きているのなら、死んだっていい。私の命は、そういう命だ」


 俺の瞳に写るアリーナは、美しく微笑んでいた。それが強がりだってわかってる。だからこそ、俺は拳を固めて、アリーナの所へ戻ろうとした。

 だが、俺の身体は押される。


「クマキチ。皆を頼んだよ。ここは俺の役目だ。アリーナさんは死なせない。だから必ずクマキチも生きて帰ってきてッ!」

「よ、ヨイチッ!」

「頼んだよ! ヘリスさんッ!」

「はいッ!」


 俺の身体はヘリスに抱えられ、ヘリスは俺が飛んだ方向へと走る。

 ゴーレムの前に立ちはだかるヨイチとアリーナ。

 鉄塔のような拳は地面に叩きつけられ、土砂が爆発したかのように宙に舞う。


「ヨイチィィィィィィッ!」

「クマキチ……」


 俺はヘリスに抱えられたまま叫んだ。

 しばらく走ると、俺は死体の山へと到着した。

 ヘリスは顔を顰め、悪臭が鼻に入ってくるのを防ぐ。


「……ま、まさか……」


 そこにはアリストンもいなければ、シンラもサクリアもいなかった。

 両膝を着くと、足元に黒い物が落ちているのを発見。

 それは、クナイ。シンラの使ったものだった。


「し、シンラの……ッ」

「ち、ちくしょう…………ッ!」


 俺は地面を叩きつける。

 しばらくすると、アリーナの叫び声が聞こえた。


「イヤァァァァァァァァッ!」


「え、今のって……」

「あ、アリーナさんの声……。よ、ヨイチさんは……」


 俺は地面の草を握り潰す。

 サクリアもシンラもヨイチも、どうなったかはわからない。

 このまま終わるわけにはいかないんだ。

 俺は立ち上がって、ヘリスの手を握った。


「く、クマキチ……?」

「ヘリス。絶対に俺から離れるなよ」

「え、あ、はいっ」


 ヘリスは少し嬉しそうな顔をしたが、俺の言葉の意味は逸れるなっていう意味だ。

 ここで逸れては、俺一人になってゲームオーバー。

 この死体の山には、シンラもサクリアもいない。さっきゴーレムが言ってた言葉が引っかかる。男共は殺すと叫んでいたのだ。

 もしかしたら、ヨイチとセレスティンはどこかでのたれ死んでるかもしれない。

 けれど、どうしてもそう思えなかった。ヨイチもセレスティンも、死体の山にいないということは、もしかしたら生きているかもしれないのだ。

 ゴーレムがゆっくりと俺らの前を通り過ぎていく。その手にはアリーナ。

 アリーナは現在捕らえられている。彼女には悪いけど、奴らがどこへ女を連れて行くのかを調べる必要がある。


「ヘリス、行くぞ」

「はい!」


 俺とヘリスは、ゴーレムの後をついていった。

獲得称号


・無職のぬいぐるみ:効果不明


・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明


・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明


・神をオカズに抜く男:効果不明


・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。


・竜に挑みし者:効果不明


・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明


・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明


・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号


・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。

追記

人間や、そのペットでは気絶させる程度に弱まる。


・役立たずのクズ:効果不明


上級魔物討伐達成


>魔竜・ヘルフレイムドラゴン【討伐報酬】獄炎の魔剣


>魔竜・ポイズンドラゴン【討伐報酬】死毒の魔剣


>森大将【討伐報酬】

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