表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/23

10

 夜中の森にて。俺達の旅は少しだけ寄り道をしてしまったが為に、ちょっと遠回りをしていた。

 なんとか今日中に城下町には着きたいが為に、俺達は夜道を進んでいたのだ。

 だが、ホーククロウ団が壊滅したからか、夜道に魔物が多く出歩いていた。


「グロロロロォッ!」


 俺とシンラ、ヨイチの前に立ちはだかる黒いクマ。シンラはクナイと手裏剣を構え、木の枝を猿のように使いながら、宙に浮く。

 華麗に舞い、クマを翻弄させてから手裏剣やクナイを投げ、小さなダメージを与える。

 クマの警戒がシンラにいき、ヨイチは獄炎の魔剣で居合抜きを放つ。


「グロロロロォ…………」


 夕方出発してから、だいぶ経つ。魔物の数もかなりでている為、二人ともここの魔物との戦いなら慣れたようだ。

 炎に包まれた刀身を鞘に収め、ヨイチはシンラが着地するのを待った。

 やがて、シンラが着地して帰ってくる。


「やったね! これで、クマの肉か……」

「もう少しで五キロぐらいは溜まりそうだね。売るなら早い段階で売らないと腐っちゃうから急ごうよ!」

「そうだね! シンラ!」


 ヨイチとシンラは息の合ったコンビネーションを発揮していた。それこそ、俺はさっきからお茶を啜るだけが仕事の癒し要因。

 ただ気になることがあるとするならば、魔物達は俺のことを見るたびに、魔物達が今助けてやるぞッ! と叫んでいることくらいか。


「……そろそろ疲れたんじゃないか?」

「俺は大丈夫だよクマキチ! なるべく俺の旅にはクマキチは戦わないものとして、設定してあるから!」

「何その設定? 俺様雑魚扱い?」

「いきなり襲われたときはビックリしたけど、クマキチにはなるべく戦ってほしくないからね。ビジュアル的に」

「それは可愛いって意味? ヨイチもよくわかってるじゃん」

「あ、あはははは……」


 ヨイチは苦笑いしながら、次なる魔物の出現に警戒を怠らない。

 今度はシンラがらやってきて、俺に飛びつく。


「あなたーっ! 見てました? アタシの華麗な誘導!」

「見てた見てた! だから毎回終わるたびに抱きつくな!」

「減るものじゃないし、いいでしょ? それに愛は増える一方だよ」

「怖いっつの!」


 今度は少々大きめの蛇が現れた。

 大きさは人間の二倍くらい。まぁ、俺様なら一撃で殺せるんだけどな。

 強そうな敵を前に、ヨイチは獄炎の魔剣を構え、シンラもまたクナイや手裏剣を構える。


「いくよ! ヨイチ!」

「頼む!」


 シンラは六、七枚の手裏剣を投げ放つ。

 すると蛇はスラリと躱し、シンラに襲いかかる。

 その隙を見て、ヨイチが居合抜きを放った。

 炎に包まれた刃が蛇を斬り裂く。

 結構なダメージは与えたが、蛇は殺せなかった。

 一度シンラは戻り、蛇の行動を伺う。


「ちょっと違うね。こいつ、少し強いかも」

「シンラ。難しいだろうけど、両目を狙ってみて。誘導は俺がやる」

「できるの?」

「当然!」


 今度は蛇の視線をヨイチが誘った。つられて蛇もヨイチを噛みつこうと迫る。

 ヨイチは獄炎の魔剣で蛇の開いた顎を、アッパーカットをするかのように斬り上げた。


「キシャゥァァァァァッ!?」

「今だシンラッ!」

「わかってるよッ!」


 怯んだ蛇に、雨のように手裏剣とクナイが降り注ぐ。

 両目と鼻を刺し、やがて蛇は目が見えなくなった動物のように暴れ出した。

 ヨイチは剣を納刀し、居合抜きを再び放つ。

 蛇の頭を一刀両断し、無事に倒せた。

 ドスンと重い身体が横たわり、蛇は息絶えた。

 またまたすることがなくて、お茶を啜るだけの俺の視界に文字が浮かび上がる。


 達成・森大将の討伐

 称号・役立たずのクズ


 これって最近、思うんだけど神から故意的に渡されてるもののような気がしてきた。となると、この役立たずのクズって完全に俺をバカにしてるよな。

 死んだら神のおっぱいを揉むだけじゃなくて、吸うのも付け足してやろう。


「よしッ! やったね!」

「ちょっと難しかったね! ヨイチ!」


 二人はテニス部でダブルスをしていた先輩後輩のように青春的な汗を流す。

 お茶を啜るだけの俺は、まるで定年退職したおじいちゃんだ。


「……なぁ、俺、つまらないんだけど」


 遂に俺は文句を言った。

 ヨイチとシンラは首を傾げて、俺に寄ってくる。


「だって戦わないほうがいいでしょ? 楽だし、命がけじゃないし」

「そうだよ。クマ太郎さんが死んじゃったら、多分あたし達やる気なくしちゃうよ?」

「そうだけどよぉ、なんか俺一人だけお茶啜って戦ってる姿を見ていると、おじぃちゃんになった気分になるからよ」


 うーん。と考えるヨイチ。本来はヨイチがおじいちゃんなのだが、生き生きとしてるよね。

 シンラは逆に俺を抱きしめながら、考えていた。


「じゃあさ。俺らは当分道通りにしか進まないから、クマキチは適当に森の中散策しててよ」

「でも、女の人がいてもついていったらダメだからね? ついていったら……その首引き千切ってアタシも死ぬから」

「わ、わかったよ! シンラとヨイチは先に行っててくれ。俺はそこらへん散策してるよ」

「うん、わかった」


 ヨイチが頷くのを確認してから、俺は脇道に進む。

 一応、迷わないように道は覚えておく。

 奥に奥に進むが、何もない。

 奥に進んでも何もないし、二人が戦ってるのを見てるのも暇だし、俺は何をしたらいいんだろうか。

 と、考えていると、ヒソヒソと話している声が俺の耳に入った。


「おい、森大将がやられたぞ!」

「次はあいつがいなくなれば、晴れて僕たちは自由だね!」

「森を取り戻せるね!」


 なんだろうか。ヒソヒソと話しているわりには嬉しそうだ。

 というより森大将ってさっき、シンラとヨイチが倒した奴のことだよな。

 なんで、離れていてわかるのか不思議だ。

 やがて、草むらを何回か潜ると、広場に出た。


「へぇ……」


 小さな集会場だろうか。

 少しだけ歩くと、魔物が大量に集まってるのを目にする。

 だが、さっきから戦っているような獰猛な魔物ではなく、どっちかというと俺みたいなプリティーな魔物だった。

 歩く俺を見ると、魔物達は一瞬動きを止める。


「お、俺は人間じゃないよーん」

『あーびっくりしたぁ! 突然来るんだもん! その姿から察するに……黒い毛皮の男に連れてこられたの?』

「え?」

『ここにいるのは、皆、元々住んでたんだけど、別の地域から来た魔物に住処を奪われた者の集まりなんだよ』

「そ、そうなのか……」


 黒い毛皮の男というと、ゲスのボスであるゲスボスだろうか。本名は知らないから勝手に俺はそう呼んでるんだけど。


「で、森大将がどうとか聞こえたけど……」


 集落にいるウサギっぽい魔物達は答えた。


『森大将はね、元々違う地域の魔物で、黒い毛皮の男がペットとして飼ってたんだよ。だけど、そいつらが何か逃げ出してしまって……』

「それで住処を奪われたってわけか」

『うん……』


 困っていたのは、人間だけじゃなかったということか。となると、ゲスボスは諸悪の根源でもあるな。俺は大嫌いだけど。

 今はヨイチ達が退治して進んでるから、余程のことがなければ、無事でいられるだろう。


「それで、全部でどれくらいいるんだ?」

『グロウクールっていうクマが、大体五十匹くらいで、森大将はもういないから……。あとはホークグールっていうのが、危険かなぁ』

「ホークグール!? ……なんだそれ」


 なんとなく予想できる感じだと、一度死んだ鷹だけど、それをゲスボスは飼ってたっていうのか?


『多分、キミが想像してるのとは少し違うかな』

「だってあれだろ、一回死んだ魔物が生き返って……」

『違うよ。ホークグールの恐ろしいところはね、一回攻撃されてすぐにワクチンをうたないと、攻撃された人もグールになっちゃうんだよっ! 爪にグールになる毒が塗ってあるんだよ!』

「それヤバいじゃねーかよッ!」

『だから、僕たちも迂闊に手を出せないんだよ……。それに、ここにいる皆は平和主義者で戦うことを望まない者ばかりだし……』


 悲しげに言う魔物達。そりゃ、誰だって攻撃されたらグールになるなんて言われたらビビッてしまうだろう。かくいう俺だって少し怖い。

 だが、ここで逃げてしまえば、森中――――いや、世界各国がバイ○ハザードみたいになってしまう。俺のハーレム王になる夢が、ハーレムグール王になってしまうじゃないかッ!


「サンキューな! 俺はちょっと、帰るわ!」

『で、でも外には人間も、そのホークグールもいるんだよ!?』

「俺様はな、特別にお前らに教えといてやる。お前達が恐れていたホーククロウ団を壊滅させたクマキチ様だぜ?」

『え!? ホーククロウ団を!? あれを一晩で壊滅させたの!?』

「当然だ。この俺様に不可能はない。だがな、お前らも自分の住処を取り戻したければ自分で行動するんだ。じゃなきゃ、お前らの好きなメスや、奥さんに見限られちまうぜ?」


 俺はウィンクして、魔物達の集落を離れた。

 後に、この森ではクマキチが英雄となり、誰もがオスらしくなり、ラブラブな魔物がいる森として有名になるのだが、それはまた別の話だ。

 急ぎ足で俺が道に戻ると、そこにヨイチとシンラはいなかった。

 だが、道の先で金属音が擦れる音が響く。


「ま、まずいッ!」


 緊張感が走る。

 猛ダッシュで俺は道を駆け抜けた。

 間に合ってくれよッ!

 やがて、視界にヨイチとシンラが写る。


「おーいッ! シンラァ! ヨイチィっ! 大丈夫か!」


 大声で叫ぶも、二人の返事はない。

 も、もしや、二人ともホークグールに攻撃されて、グールに……!?

 お、俺は親友と女の子を殺さなければならないのか!

 悲しいけど、これ、世界の為なのよねッ!


「二人ともッごめんよッ!」

「え? クマキチ?」

「クマ太郎さん!?」


 俺は飛び跳ねた。

 拳を固めて、二人に向かって襲いかかっていた途中だ。

 二人とも顔色は普通だし、なんならケロっとしている。

 途中で攻撃をやめて着地すると、二人は微笑んで俺のことを見た。


「どうしたの? 急に」

「え、いや、ホークグールとかいう、攻撃されたらグールになっちゃうって情報を聞いたから、急いで二人を助けに……」

「それってこれのことかな?」


 シンラの視線の先には、羽を撃ち落とされ、既に息絶えた鷹の姿。

 爪には、魔物達の情報通り、毒らしきものが塗られている。


「二人とも怪我は!?」

「全然平気だよ。クマキチ心配し過ぎだよ。さっきまでの落ち着いたクマキチはどこにいったの」


 微笑みながらヨイチは俺を抱き上げた。

 ヨイチもシンラも、まるで大袈裟に叫んでいた俺をバカにしているみたいだ。


「大丈夫だよ。クマ太郎さん。私、結婚するまで死なないから」

「お、おおぅ……」


 俺の頭をなでなでするシンラ。

 心配して駆けつけた俺の姿を見て嬉しいのか、シンラもヨイチも終始笑顔だった。

 なんとなく損した気分になった俺は、安心するとともに、さっきの気持ちを返してほしかった。


「あ、クマキチ怒った?」

「怒ってねーし」

「怒ったクマ太郎さんも素敵だよ!」

「お、怒ってなんかねーし」


 俺の頬を人差し指で突いてくる二人。

 それを振り払って俺は地面に着地した。


「いいか! 俺に心配かけんなよ!」

「わかったよクマキチ。もし難しい相手が出たらお願いね」

「うん、クマ太郎さんの強さは知ってるもん」

「わ、わかってんなら……いいんだよっ」


 俺はぷいっと視線を逸らす。

 ゆっくりと、ヨイチは道の先に目線を移した。

 朝日が昇る。

 俺達三人は、綺麗な朝日を見て立ち尽くす。


「……あと少しで、城下町だよ」

「そうだな。ヨイチ、とりあえず飯食おうぜ。野宿は飽きた」

「クマ太郎さんの隣はアタシだからね」


 シンラのこともあったが、俺達は無事に城下町に辿り着いた。

獲得称号


・無職のぬいぐるみ:効果不明


・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明


・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明


・神をオカズに抜く男:効果不明


・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。


・竜に挑みし者:効果不明


・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明


・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明


・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号


・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。

追記

人間や、そのペットでは気絶させる程度に弱まる。


・役立たずのクズ:効果不明


上級魔物討伐達成


>魔竜・ヘルフレイムドラゴン【討伐報酬】獄炎の魔剣


>魔竜・ポイズンドラゴン【討伐報酬】死毒の魔剣


>森大将【討伐報酬】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ