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 まるで台風に吹き飛ばされたかのように宙に舞うゲスボス。黒の毛皮のコートがハラリと落ちた。

 俺様は拳を振り抜き、ゲスボスを睨んだ。

 遥か上空にまで付近だゲスボスはやがて、俺の視界から消えた。

 ふぅと溜息を吐き、俺はシンラに近づく。


「……待たせちまった上に、怖い思いをさせちまったな。悪かった」

「く、クマ太郎……っ」


 鎖を解こうとするが、俺様のモフモフの手では中々難しい。

 子分達はそんな様子に気がついたのか。急足で俺の元に来て、シンラの鎖を解き始めた。


「お前ら、悪いな。何から何まで助けてもらってよ」


 するとスナイデルが苦笑いをして答える。


「いいんすよ。どうせ俺らは下っ端の中の下っ端。盗みだってやったことないし、働いたこともないチンピラですから」

「そうか……」


 タンガンもスナイデルを手伝い始めた。


「俺らは特にクマの兄貴みたいな心情もないゴロツキ。だから盗賊なんてことやろうとしたんです。でも、まさか、あんなにボスが非道だとは思ってなかったっす」


 二人とも初めての盗賊だったわけか。それで初めての獲物が俺とは損しかないな。

 だが、一応自分の命は守れたのだから、感謝はしてほしいものだ。

 やがて、シンラの鎖が完全に解ける。シンラは俯いたまま、座り込んでいた。


「なんで、助けるのさ……。アタシは、自分で突っ込んで、捕まったんだよ? 惨めじゃん……」


 暗い顔をして囁くように言った言葉。

 俺は首を横に振って、シンラの頭をなでた。


「仕方ない。それなりに事情があったんだろ? 誰もお前を責めたりしないさ。俺だって褒められた行為をしたわけじゃないしな」

「だけど……ッ!」


 シンラが顔を上げる。瞳は泣き腫らし、可愛い顔が台無しだ。

 そんなシンラに俺は微笑んで見せた。


「無事だったら、いいじゃねーかよ」

「うぐっ……」

「怖かっただろ? だけど、もう無茶はするなよ。これは俺じゃなくて、シンラ。お前の為に言ってるんだ。もっと自分を大切にしろ。お前は……良い顔した女の子なんだからよ」

「く、クマ太郎…………」


 シンラは泣き腫らした筈なのに、また涙を流しながら俺のことを抱き締める。よほど怖かったのだろう。シンラは日が昇るまで、俺をタオルのように使って泣き続けた。

 やがて、朝日が昇り、シンラは疲れ果てて眠ると、スナイデル、ダンカン、ブルが立ち上がる。


「クマの兄貴。この節はお世話になりました」

「世話なんかしてねーよ。俺はお前らを足として使っただけだ」

「そうっすね」


 苦笑いしてみせるスナイデル。


「で、これからお前らはどうするんだ? 俺が盗賊団のアジトをぶち壊しちまったせいで、就職先がなくなっただろ?」

「ははは、大丈夫ですよ。俺らは城下町にあるギルドで働きながら、ちゃんとした働き口を探す予定です」

「ギルド?」


 俺は聞き慣れない言葉に首を傾げた。

 今度はタンガンが説明をしてくれる。


「ギルドっていうのは、簡単に言えば日雇い業務ですよ。仕事内容は様々で、基本的にはランクによって受けられる仕事が変わってくるんです。中には、騎士団からの応援に参加して王国兵士になった人もいるみたいですから」

「へぇ。じゃあ、お前らはその、王国騎士になるためにギルドに行くのか?」


 スナイデルは首を横に振った。


「違いますよ。俺らは戦闘向きじゃないですもん。ちゃんとした全うな仕事といえば、喫茶店とかですかね」

「お前は船乗りとかの方が似合ってるけどな」

「あははは……」


 タンガンとスナイデルにペットのブルは、どうやら、これからギルドに行って生活費を稼ぎながら、仕事先を探すようだ。

 そういう生活もあるのか。俺はてっきりもっと厳しい世界なのかと思ったが、どうもそうではないらしい。

 まぁ、俺も覚えておいて損はないだろう。


「じゃあ、俺らは行きますね」

「ああ。またなんかあったらな」

「はいッ!」


 スナイデルとタンガンとブルは笑顔で歩き始めた。

 奴らは奴らなりに、盗賊団に入って後悔したのだろう。命を簡単に落とすと感じた筈だ。そもそも俺様がいる限り、女子供に酷いことをする団体はぶち壊すけどね。

 ゆっくりと起き上がろうとすると、シンラが寝息をたてていることに気がついた。


「よく寝てやがるな。テントで休ませてやるか」


 俺は無い知恵を絞り、どうやって担ごうかと悩んだが、遠くの方から俺を呼ぶ声が聞こえる。

 そちらに視線を移すと、少し怒り気味のヨイチがいた。


「クマキチー! 勝手にどこ行ってたんだよッ!」

「俺か? ちょいと野暮用だ」

「それなら起こしてくれればいいのにっ」


 頬を膨らませて怒る相棒。

 近くにまでやってきて、ようやくシンラがいることに気がついたようだ。


「あれ? シンラ?」

「道端で倒れてるのを見つけてな。悪いが、シンラが目を覚ますまで、またテントを張ってくれないか?」

「……まぁこのまま、ここで寝かせるのも可哀想だしね」


 ヨイチは機嫌を取り戻したかのように笑った。

 それからテントを張って、俺とヨイチはシンラの身体を中に運んで、寝かせる。


「クマキチも疲れてるだろ? 寝たほうがいいよ?」

「そうだな。俺様も少し寝かせてもらうか」


 結構無茶苦茶やったから俺も眠くなってきたようだ。

 ヨイチは外で見張りをしているからと言ってくれたので言葉に甘えることにした。

 俺様は布団を掛けて、隣で眠るシンラをチラっと見てみる。

 すると、安心したかのようにスヤスヤと眠り、寝言を呟いていた。


「クマ太郎……ありがとう……」

「へへっ。褒められるのは、悪い気がしねーな」


 俺は寝言でも嬉しかった。


 ◇


 起きると、夕方になっていた。

 隣にいたシンラはいない。

 テントの外に出ると、魚を焚き火で焼くヨイチとシンラの姿があった。


「おはよ、クマキチ。よく眠れた?」

「ふわぁ……。よく眠れたぜ。なんせ夢に巨乳の姉ちゃんがたくさん出てきたからな」

「……本当にクマキチって、ダメだなぁ……」


 ヨイチが苦笑いして溜息を吐く。

 その隣にいたシンラが俺を見て、顔を赤く染めた。


「よっ。よく寝れたんじゃねーか?」

「う、うん……」

「元気は出たか?」

「寝たからね……うん」


 元気がないわけじゃなさそう。というより、恥ずかしがってる感じだ。まぁ、無理もない。昨夜はドンパッチやった上に、大泣きしてたのだから。

 と、思ったのだが、シンラはチラチラと俺を見てくる。


「なんだよ、お前らしくないな」

「え、えっとさ……」


 ヨイチも不思議そうな顔をしていた。


「あ、アタシってさ。クマ太郎と一緒に寝たんだよね?」

「ん? ああ、そうだけど」


 もしかして寝顔見られたのが恥ずかしいとか、そんなことか? まぁ、女の子なら誰だって、そういう変な感情を持ち合わせているだろう。


「気にすんなよ。俺は別に、気にしてなんていないぜ?」

「だ、ダメだよ。やっぱり、ハッキリ言うね」

「ああ」


 シンラは立ち上がって、俺の前に立った。


「不束者ですが、よろしくお願いします」

「は?」

「アタシ、初めてだったの。でも、クマ太郎の子供なら、産んでもいい……いや、産みたいの! アタシ、クマ太郎となら結婚もしたい! ううん……死ぬまで離さないんだから」

「ぶっ!?」


 俺じゃない。ヨイチが吹いた。

 咳き込みながら、息を整えてシンラを見る。


「あ、あのね、シンラ。悪いけど、クマキチは俺の相棒だからさ。まだ結婚とかそういうのは……」

「ごめん。ヨイチには悪いけど。アタシが無理なの。昨夜、クマ太郎に助けられてから、クマ太郎を見るたびに心臓が痛いの。これって恋だと思うの。ううん、愛だよ」

「おい、ちょっと待てよ。俺様は所帯は持つつもりはないぜ? それにヨイチとの約束の方が先だしさ。何より、俺様は貧乳は…………ひっ!?」


 俺の足元に魚を刺していた串が突き刺さった。

 ゆらりと身体を揺らし、シンラが瞳を光らせる。


「……一緒に寝たのに、既成事実があるというのに、クマ太郎さんは無視するというの?」

「い、いや寝たけどさ……。寝たけど、ほら、子作り的なことはしてないじゃん?」

「ふふ、クマ太郎さん。何も子作りは行為をするだけじゃないよ。ちゃんと愛があれば、できるんだよ」

「できねーよッ! ……ひっ!?」


 またまた栗が足元に突き刺さる。


「逃がさないからね? 城下町に行ったら婚約書持ってくるからね」

「ちょっと待ってよ! シンラ!」


 ここでストップをかけたのはヨイチだ。

 シンラを宥めるように呼び止める。


「俺とクマキチの夢は、一緒に世界を旅することなんだよ。ここでクマキチを取られたら、夢を叶えられなくなっちゃうんだ。お願いだから、クマキチを取らないでほしいんだ」

「…………」


 シンラは顎に手を置いて考えると、俺を見た。


「ですってあなた」

「ノーッ! ヨイチの言う通りだ! 俺様はヨイチと世界を渡ることを約束してるんだ! 夢が叶ったらいくらでも、シンラの言うこと聞くから! 頼む!」

「そう」


 考える素振りを止めて、シンラは俺と同じ目線になるように膝立ちになって、笑顔をみせる。


「じゃあ、アタシも連れてって。どこかの知らない虫の息がかかるのも嫌だし、それにヨイチやクマ太郎さんと旅をしていると、国宝が見つかるかもしれないし」

「……俺はいいけどよ……」


 チラッとヨイチを見ると、仕方がないなぁ。という風に溜息を吐くヨイチ。


「そうだね。シンラの国宝のことについても放ってはおけないよね。最初に一緒に行こうって言ったのは俺だし、いいよ」

「ありがとう! 夫の親友は理解があって助かるよ!」

「誰が夫だッ! ……ひっ!?」

「クマ太郎さん、世界を歩き回ったら結婚しようね」


 おいおい、貧乳のヤンデレとか需要ないだろ。


「……それより、シンラの探してた国宝は見つかったの?」


 ヨイチは昨日のことを聞いてきた。

 そういえばシンラは単独で飛び込んで調べた筈だ。

 シンラは顔を横に振って答える。



「ううん。見つからなかったよ。宝物庫を隅から隅まで調べたけど、めぼしいものは……」

「そっか。ねぇ、クマキチ」

「あ?」


 俺は近くにあった焼けてそうな魚を豪快に齧った。


「俺らの旅の最中にさ、シンラの国宝があったら一緒に取り返そうよ!」

「そうだな」


 まぁ、シンラもヨイチも弱いから放っておくわけにもいかないもんな。俺様が最強過ぎるってのも問題だ。

 どっちにしても、ヨイチは親友だし、シンラはまぁなんとかするしかないよね。


「そうだ!」

「あ?」


 いきなりシンラは立ち上がり、金色の首輪とリードを取り出した。盗賊団のアジトから盗んだのか、ルビーやらサファイアらしき宝石が所狭しと飾られている。


「おい、シンラ。俺様は……」

「クマ太郎さん。浮気したら許さないからね。だから、首輪をしよう! 結婚指輪の代わりに!」

「ノーッ!」


 カシャンと、俺に首輪がセットされた。自分でも驚くほどピッタリだ。自分でも宝石が似合う男だなとは思っていたけど、ここまでとは。

 自分に酔いしれていると、突然ぐいっと首が引っ張られた。


「ぐへっ!?」

「クマ太郎さん大好きだよ!」

「ぐ、ぐるじぃ……」


 リードで俺は引っ張られてシンラに強く抱きしめられる。

 嬉しそうに笑うシンラを見ていると、泣いてるよりはいいかなって思った。

獲得称号


・無職のぬいぐるみ:効果不明


・ドS好きのドMぬいぐるみ:効果不明


・神に嫌われたぬいぐるみ:効果不明


・神をオカズに抜く男:効果不明


・絶対不死の男:発動した者に対し、物理・魔法問わず、ダメージを与えることができない。但し、神が少し設定をいじっているので、痛みは感じる。


・竜に挑みし者:効果不明


・竜殺しのぬいぐるみ:効果不明


・老人を気遣うぬいぐるみ:効果不明


・神からの超運を恵まれし者:稀に当たったかと思われる射撃や、魔法を躱す。ギャンブルなどでも、大金を稼ぎやすいなどの、屑には与えてはいけない称号


・一撃必殺を授かりしぬいぐるみ:一撃で相手を殺せる力。但し、あまりにも大きい魔物などは、部位破壊として判定される。

追記

人間や、そのペットでは気絶させる程度に弱まる。


上級魔物討伐達成


>魔竜・ヘルフレイムドラゴン【討伐報酬】獄炎の魔剣


>魔竜・ポイズンドラゴン【討伐報酬】死毒の魔剣

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