プロローグ
夕方なのに空は分厚い雲に覆われている。そのせいで、雨が滝のように降り注いでいた。
道路に横たわる俺。名前は、確か鎌瀬 進次郎だった気がする。
「重症者一名ッ!」
誰かが怪我したようだ。
俺は、確か誰かを助けようとした筈。
トラックが赤信号無視してきて、俺はどうなったんだ。
顔が横に傾く。そちらには、救急車と多勢の野次馬達。皆が俺のことを見ている気がする。
もしかして、女の子を救った俺を崇めているのかな。
「……ッしんちゃんッ!」
誰かが名前を呼んだ。
そこには赤髪のポニーテールの女の子が泣いて立っていた。学校の制服が雨で濡れている。
……俺は幼馴染を助けたんだ。そこにいる女の子は日下部 海音。
だんだん思い出してきた。
海音が不機嫌になって喧嘩して、それで信号を渡ってたら海音がひかれそうになったんだ。俺はいち早く気づいて、海音を突き飛ばして……。
あ、俺、死んだのか?
身体が言うことを聞かない。それだけじゃない。目も動かすこともできないし、寒さも感じない。
トラックは見える。バンパーには凄い量の血がこびりついてるようだ。
俺、死んだのか……。
記憶が自動的に蘇ってくる。
海音は喧嘩っ早くて、抑えるのが大変だったな。
親不孝だったなぁ。
学校の友達は、俺のことなんか気にしないか。
ペットのポチは、何してるかなぁ。あ、先に待っててくれてるのかな。
俺の相棒、クマザラシは泣くだろうなぁ。生きてないから泣かないか。
そういえば、もうすぐプール開きだったなぁ。
プールかぁ。
いやちょっと待てよ。
俺、死ねないぞ?
女の子達が水着のみで、水の中を遊ぶプール開き。そんな楽園が明日見れるというのに、俺はなぜこんなところで死にそうになってんだ?
そうだよ。海音みたいな腐れ縁の幼馴染を助けて俺が死ぬなんて……。いや、そこまでは言わない。海音も女の子だからなぁ。
それにしても、俺も衰えたものだ。トラックごときにぶつかって死にそうになっているとは。
俺は、プール開きの為に死ぬわけにはいかんのだよッ!
神よッ! 俺は死ねないんだよッ! 俺が死んだら、誰がプール開きという楽園を残して死ぬんだよッ!
女の子のおっぱいを揉みまくり、俺だけ一夫多妻制をまだ成し遂げていないッ!
この俺様を、この俺様を殺すんじゃねぇッ!
俺は俺は、俺は生きるんじゃボケェェェェェェ!
すると、微かに空から光が差し込む。
神に俺の願いが届いたのか?
『あなた、まだ生きたいんですか?』
器の大きさを感じさせる柔らかい女性の声。こりゃ、絶対巨乳だ。
俺は力強く叫ぶ。
俺はまだ死ぬわけにはいかないんだよッ! 一夫多妻制のハーレム楽園の主に俺はなるッ!
『不純な動機ですね。それだけでは無理です』
あ? それが不純だと? ならば、嫁をたくさん寄越せやボケッ!
『……神に失礼な男ですね。色々見てきましたが、あなたみたいなのは初めてです。でも無理です』
ふざけんなよッ! 俺の夢はハーレム王になって、顔をおっぱいで埋める生活をするのが夢なんだよッ!
『不潔……ッ! いっそ、ここで死んではいかがですか……。クズ』
おい、クズって言ったのはお前か? お前のおっぱい揉み尽くすぞ!
何カップあんだよ!
『……Fですが。絶対に揉ませません。は、初めては……好きな人とって決まってるので』
ザケンナヨォォォォォォォォッ!
リア充の話なんか聞きたかねーんだよ!
俺をこのまま殺したら、死んでもお前のおっぱい揉みに行くかんなッ!
『いやッ! 不潔ッ!』
だったら、さっさと俺を生き返らせろッ!
パァッと光が俺に降り注ぐ。
それは野次馬達にも見えているようで、皆が驚いた顔をしてみせた。
逆に海音は連れて行かないでと叫んでいる。
『あなたを殺すのも、生かすのも、手に負えません。私の手で処理します』
おい、処理って言ったな? 揉むぞ?
『すいません。殺してもちょっと私が怖いので、違う世界に行ってもらいます』
あれ? それって異世界とかいうやつ?
それなら、俺はイケメンに転生して、魔王を倒す勇者になってハーレムウハウハじゃないっすか。
心を入れ替えてくれたのか?
『……はい。とりあえず、絶対に死なないでください。私のところに来て欲しくないので』
安心しろよ。俺は紳士だから死んだら、お前のおっぱい揉みまくるだけだ。
『それが嫌なんですけど……』
徐々に光が増していき、俺の意識が遠のく。
まるで、陽射しで温まっているような。
振り返りはしない。
プール開きよりも、俺にはエルフたんの巨乳が待っている。
俺の人生は新たなスタートを切るんだ。
異族種とのハーレム生活。
最高じゃねーか。
『……意識を持っていくまで、ここまで自分を貫く方は初めてですよ。はぁ。死ねばいいのに、死んでほしくないとは……』
感謝すんぜ!
もしあっちで死んだら、あんた、俺の嫁にしてやるよ!
『願い下げですッ!』
こうして、俺、鎌瀬 進次郎の地球という世界での一生は終えた。