表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

5.ヴァズロック伯爵、かく戦えり

 伯爵と呼ばれた少年は、フッと唇だけで笑ってみせる。


「え? ドラキュラ?」

 腰を抜かした顔役がさらに腰を抜かした。


「ドラクリアではない」

 伯爵が指を一本立て、キザったらしくチチチと振っている。


「我が輩は、ロード・ヴァズロック・ボクダン・チェルマーレ。由緒正しき伯爵である」


「そうよ! バズロック伯爵は吸血鬼じゃない」

 穂乃花が伯爵説吸血鬼否定説を補強しようとする。


「ポテチで有名なルイジアナ州の「違うのだ!」」

 ヴァズロックは穂乃花のセリフに自らのセリフを重ねた。


「ルーマニアの伯爵である。正確にはワラキア伯である」


「やっぱその姿、その肌の色、ルーマニアで伯爵と言えばドラキュラじゃないか!」

 恐怖のあまり、顔役の顔色が真っ青になった。


 穂乃香は否定しようと声を張り上げる。


「違う違う! 西海岸の「アメリカから離れるがよい!」」

 再び、ヴァズロックが穂乃花のセリフに被せた。


『キサマ、いつまでフザケていれば気が済むのだ?』 

 酒呑童子が必死に怒りを抑え込んでいる。ずいぶんと我慢強い鬼だ。


「安心したまえ酒呑童子君。我が輩は、小娘との漫才で今日を終えるつもりはないのだ」

 そしてカッと靴音をたて、酒呑童子に正対する。


「話の続きであったな。九尾の狐、崇神、そして酒呑童子。この三つをまとめて日本三悪妖怪と呼ぶらしいのだ」


 左手で前髪をかき上げ、右手のワイングラスを目の高さに合わせて揺らす。……今の今まで、手にそんなものは無かったはず……。


「あーはいはい、酒呑童子くんね。知ってる知ってる。酒呑童さん()の次郎くんね」

 穂乃香は空気を読まない少女だった。


「違うのだ」

「お酒が好きそうな名前だからお友達なの? バズロック?」

「バではない! 下唇を咬み気味にヴァ、なのだ!」

 なぜか穂乃香を相手にすると苛立ち出すヴァズロック伯爵である。


「あのー、大丈夫なんでしょうね?」

 世話役の眉毛の下がり方がハンパない。


「任せておくがよい。この様な小物、我が輩が出るまでもないが」


『ほざけ小僧。俺は酒呑童子。俺はお前らの考えているただの鬼ではないぞ!』

 酒呑童子の体が倍に膨れあがった。あふれ出る妖気は倍できかない。


 大気が震え、地が揺れる。

 酒呑童子が本気を出した。

  

 酒呑童子とは平安の昔、京の遙か北に位置する大江山に巣くう伝説の鬼。源頼光とその四天王が策を弄せねば倒せなかった相手。かの八岐大蛇の子供という説もある大妖怪である。


「知っているのだ」

 ヴァズロックが左手を真っ直ぐ酒呑童子に向けた。


 その手には銀の大型拳銃が握られていた。

 細かいレリーフが施された銃は、まるで美術品。


『そんなオモチャで「バシュッ」――』

 酒呑童子の胸から上が吹き飛んだ。


 その拳銃は誰も知らないタイプ。なぜなら、人間界に無いモデルだから。


 酒呑童子だったモノは黒き霞となり消えていった。

 酒呑童子消滅。


「退治は完了した。なに礼はいらぬ。つまらぬ作業だ」

 ヴァズロックは前髪をかき上げ、憂いでいた。


「身も蓋もない終わりかたね」

 出会い頭の一瞬以外、終始冷静なままの穂乃香。無謀にも木の枝で黒い塊を突いている。


「あ、あのー、この方は?」

 腰を抜かしたままの顔役が、おずおずと聞いてきた。ヴァズロックの美しい顔から目が離せないようだ。


 にんまりと笑う穂乃花が、顔役達クライアントの前に立った。


「だから言ったでしょ? バズロック伯爵。妖怪にはめっちゃ強い特殊体質の持ち主なの。さあ、任務完了です。依頼料をいただきます。想定外の大物でしたので、追加料金が発生いたしますが、よろしいですね?」


 そう言いながら穂乃花は、ヴァズロックの手に納まっている拳銃に顔役の視線を誘導する。

 銃に彫り込まれた文様から、青白い炎がチロチロと垣間見える。


 ――まともな銃じゃねぇ。


 払わないとは言えない顔役であった。





「予定通り朝一に終わったから、お昼の会合に間に合うわ。さー乗って乗って」

「穂乃香様。運転はわたしです。仕切らないでください」

「助手席は僕が「あんたとバズロックは後部シートね。あたし車酔い激しいから」

「バではないヴァだと何度言えばその鳥頭は理解するのだ?」


 黄色いスイフトに四人が乗り込む。


 危険な任務をこなした者への見送りに立つ村の衆達であるが、いまいち盛り上がらない。

 巫女、神主、メイド、吸血鬼の四人であるが、端からはどー見ても統合性のないコスプレ集団である。


 顔役は、こんな連中に大金を払ってよかったのだろうかと、いまだに頭を悩ましている。


「さて、会合場所、黒岩神社へレッツゴー!」

 指を舐め舐め、札束を数え直す穂乃香の号令の元、妖しい連中はさらに怪しいそうなスポットへと向かうのであった。




次話「やってきたイヌ

ミカどんとヴァズロック、両雄再会。降るのは血の雨か豪雷か!?


お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ