悪魔の歌
「…う…ぁっ?体が、動かない…?ユリア…?」
「刹。眠っていいのよ、皆みたいに」
見渡せば、そこは地獄。
「みんな…?」
響く、悪魔の歌。
体の力が、吸いとられるように抜けて行く。
意識が朦朧としてくる。
「…ゆり、ユリア…?なん…で、」
暗闇に、靡く黒髪の隙間から。光る紫の瞳。
静かに、俺の心に染み渡って、蝕んでゆく、歌声
「…………ユリア…愛…してるユリア…ユリ…ア」
「刹。貴方は私を殺せなかった。貴方は間違えたのよ、殺せば死なずにすんだのに。私は、あなたに殺されても良かったのに。さようなら、刹…」
終わる、その歌声を。その歌姫を。見つめて泣く人は居ない。
「さようなら、刹。」
降り下ろされた、それが、刹の喉をかき切ろうとする。無様に飛び散る血痕。
悪魔の姫が翼を広げる。天を凌駕する。羽根が舞い、その歌が終わりを迎えた。
「またあなたなの。けれど残念ね。今回も、手遅れよ。刹はもう死んだ…理央乃。諦めなさい。人は、私を必要とするのだから。」
「黒猫の月、歌姫ユリア。お前に手錠をかけるまで
私はお前を逃がしたりしないよ」
「そう。なら、今ここで死ぬ?その、男の人はもう使えないわよ?」
はっ、として、理央乃が後ろを向く。同時に細身の男に口を塞がれる。振りほどけない。
その瞳に写る、私の相方。
額から血が流れ、倒れているがまだ死んでいないだろう。早く。振りほどいてー、
「理央乃。貴方、私きらいじゃないのよ。だから、殺したくないわ。だから、邪魔しないで」
ふ、と男が口の手を緩める。
理央乃は、出来る限りの声で言いつけた。
「お前が…私の愛する者を傷つけたんだ。1人の人間として、お前を許さない。お前を捕まえてやる」
「…そう。凌。生意気なその女をこらしめて。殺しちゃダメよ、私がいつかなぶり殺してあげるからさ
理央乃。この男の子殺されたくなかったら抵抗するなよ」
倒れる男の首もとを掴み上げて言うユリア。
鋭いナイフが首を這う。
「そいつに手をだすなーっ……」
ビクン、として声が止まる。自分の体をゆっくりと這う、男の大きい手のひら。
体が硬直したように動かなくなる。
「凌。ゆっくりヤってね、理央乃が少しでも多く苦しむように」
「や…やめー」
ふっと、ユリアの手のなか。逆らえば、抵抗すれば、あいつが殺される。
「やっぱり女ってこーゆーもんよね。その快感に溺れて堕ちなさい。理央乃。」