その先へ
メモはしっかり折り畳まれ、開くものを待つかのようにイグニスの手の中にあった。
『どうか、このメモに気付いて下さる方がいますように…あの方に見つかる前に早く』
一枚目のメモへ目を通したイグニスはクレアにそれを手渡す。内容からして自分達の父、レオンハルトに見つからぬよう隠していたと言うところか。
『私の名はユリア・フレンツェ。この国の王であるレオンハルト様と関係を持ってしまいました。そして産まれたのが、クレア…貴方です』
女性らしい優しい字。所々に涙の後が残っている、そのメモがくしゃくしゃになるぐらい握り締めるクレア。
「お母…さん?私…知ってる。貴方を知っている…」
いつの間にか瞳に大粒の涙が溜まり、今にも零れそうな雫を指で拭う兄に抱きつく。
「あぁ、彼女は使用人としてお前が5歳になるまで働いていた。この国の王女…つまり私のもう一人の妹が産まれた時にお前を私に託したのだよ」
体の弱かった王妃から産まれた女の子は死産だった。イグニスがその子を抱いて、手厚く葬り。クレアを母に手渡した。母は嬉しそうな顔で笑っていたな、と哀しげに肩を落とす。
『今、私がいる場所を伝える事は出来ません。ですが貴方達兄妹の無事を毎日祈っています。いつか会いに来て下さい、待っています』
「今はまだ危険…と言う事か。父上が亡くなったとはいえ、彼女はそれを知らない。その当時いた他の兵や使用人はまだ健在だからな」
短いメッセージを確かに受け取ったクレアは、兄の言葉を聞いて俯く。
「お母様が大好きです…優しくて強いお母様が私の誇り。この人は私を捨てた」
何も気付かず、育ててくれた母。自分を置いていった母。二人の狭間で悩みながらクレアは冷たく言い切った。