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退魔士日記  作者: 晴彦
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呪われた集落 上




 新田春(にったはる)が先頭を走っていた。バイクのだ。それから、縁剛(えにしたける)、阪井優斗。皆智銀也。彼らは二台の単車で山道を走っていた。舗装された広い道だったので相当飛ばしていた。看護系の専門学校の二年生という設定である彼らはまだ若く、社会に出たこともなく、怖い者なしだった。

 曲がり道を曲がる。彼らはとある目的の場所へと向かっているようだったが、舗装されてはいるものの狭い道を曲がり、それからスピードを落として進んだ。それから三十分ほどして四人はとある集落にたどり着いた。彼らはバイクを降り、ヘルメットを取った。

 彼らの周りにある集落は規模は小さいとはいえ真新しく、山奥にあるイメージとはかけ離れた洒落た一軒家が点々と並んでいる。

「おんぼろかと思ってたけど……なかなかに今風だね」線が細く背の低めの優斗が言った。彼は剛のバイクの後ろに乗っていただけなので全く疲れてもいなく、いつも爽やかな通りのスマイルを浮かべていた。女顔の彼は時折男子をも魅了させてしまうこともあった。

「招待してくれるのはいいけどさ……こんな山奥くんだりまでこさせるってのはどうかと思うね」

 皆智銀也は不満そうに呟いた。目つきが悪く、金髪の彼は少し不良くさく見える。

「まあまあ。夜食で帳尻合わせしてもらおうぜ」

 名前らしく爽やかな春がいったが、この中では明るいという以外は普通で、普通だからか自然とこの中のまとめ役になることが多かった。

「巧馬と会うなんて高校のとき以来だし、ちょっと緊張するな」縁剛が言う。色黒で背が高く、黒髪を後ろになびかせている彼はこわもてにも見えるが根は小心者で初心な青年だった。

 細い獣道のような場所を四人は歩いて行く。先頭は春だ。彼は地図を頼りに進んでいた。他の三人は春に全てを任しているようで、特に文句もなく彼の背中を追っている。

「何度も言うけど春と剛の級友に俺らが顔だす必要あるか?」春の背後にいた銀也が疑問を呈する。

「まあいいじゃん。巧馬は大人しいけど人見知りするような奴じゃないし、専門で知り合った友達とも一緒にきていいって言ってたんだし」

「俺はすげえ嫌だ。大体、何なのこの山奥。家は新しいんだけど不便すぎるだろ。どこで食糧調達するんだよ」銀也が疑問を口にした。

「結構山の上だと思うだろうけど、意外と登ってないんだよ。だからちょっと車で下山すりゃ麓の街で食糧調達くらいできるって。青辻原市は人工六十万のわりと大きい街だし、山降りればなんでも手に入るんだよ」春が地図を見ながらも返事をする。「あ、ついた。あれだよ」

 目的の家は他の家よりもやや大きい一軒家だった。庭も広く、しかし何もなかった。

 春がチャイムを押す。

「緊張するなぁ」剛が呟いた。

 すぐに扉が開き、髪の長い、大きな目をした青年が現れた。

「やぁ春、それに剛。それから専門の友人たちかな? まあ入ってくれよ」

 大きな居間に案内された。そこには大型のテレビが置いてあり、最新のゲームハードが揃っていた。

「居間でゲームやってんだ」人見知りしない優斗はあっさりと溶け込み、すぐにゲーム類に手を伸ばした。

「何かあんまり生活臭がしないな」居間の様子を確認して剛が呟いた。

「まあ、俺一人で生活してるからね」茶と和菓子を盆に持ってきた巧馬が剛の呟きに答えた。

「え、これお前だけの家なの?」剛は驚いたようだ。

「そうだよ。まあ、色々事情がね……お爺ちゃんの……まあいいや。飲んで食べてくれよ。ゲームでもやってまったりするといいよ。いいエロゲーもあるし、なんならエロ動画の鑑賞もできるぜ」

「俺達はエロを見にこんな山奥くんだりまできたわけじゃないよ、巧馬」 

 春が真面目な顔で言った。

「お前の顔を見に来たんだ。そして……近況報告とかね。お互い積もる話があるだろうに」

「わかってるって。春は相変わらず、真面目な奴だよ。そんなんじゃ折笠にも嫌われちゃうぞ。まだ付き合ってるのかは知らないけど」

「相変わらず、所構わずラブラブだ」剛が答えた。そして彼はテレビ台の、テレビの横にあるものを目に止めた。ふっと、彼の顔が衝撃を受けたようにしばらく硬直する。

「夜食までまだ時間があるから、それまでの間の時間つぶしのことを言ってたんだ。ゆっくりくつろいでくれよ。あと風呂にも入っといてくれよ。うちの風呂はこの集落じゃ一番広いんだ。自慢の風呂なんだよね」

「そうなんだ。しばらくしたら入ろうぜ、剛」春が言う。

「あ、ああ」剛は返事を返した。


 適当にくつろいだ後に風呂に入る。四人が全員入れるほど広い風呂なので彼らは今日の疲れを癒す。

「なかなか良い奴じゃん」銀也は上機嫌だった。彼好みのゲームを楽しめたようだ。

「当たり前だろ。俺の友達だぜ」春が言う。

「……だけど、結局やるんだろ」

 優斗は微笑みを浮かべていたが、目だけが冷たい。

「するさ。今じゃない。あるとすれば今夜」

 そう言った剛の顔は浮かなかった。

 辛い沈黙が漂うのは、彼らには曲がりなりにも友情の絆があったからだ。例え時と共に風化するものだとしても。

 だがそれまでは楽しむつもりだった。少なくとも、新田春はそうだった。

 よくあることだったからだ。


 夜食は豪勢だった。山の幸と海の幸が両方あり、そのどれもが新鮮で、そして実際おいしかった。冷えたヱビスビールが喉に心地よく、五人は酔っ払っい、昔の話に華を咲かせ、そして昔のことを知らない優斗や銀也は専門学校での珍事などを春が話すので一緒になって笑い転げた。ただ、酔いながらも少し騙しているようで、罪悪感のようなものを抱いた銀也は時折浮かない顔をした。




 



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