表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使は銀狐に囚われて  作者: Shellie May
39/40

第39話

宴会の最中に、来客だとサキさんに呼び出され、私は表玄関に向かった。

「桜井萌奈美さんですか?」

「はい…どちら様ですか?」

黒いスーツの(いか)つい男性が、無表情で私を見下ろす。

「森田組長より、お届け物です」

「森田さんから?」

そう尋ね返すと、後ろに控えた男達が大きな箱や紙袋をガサガサと土間に置いた。

「あの…何を…」

「後程お電話を頂きたいと、伝言を言付(ことづ)かっております」

「承知致しました。ありがとうございます」

「それでは、失礼致します」

サキさんと荷物を部屋に運び入れ、開けてみて驚いた。

「凄いですね、お嬢様…総絞(そうしぼ)りのお着物に総刺繍(そうししゅう)の帯ですよ!?それに小物から草履(ぞうり)、バッグ迄一式…」

「何だか…」

「はい?」

「いぇ…お礼の電話をして来ます」

私は自分の勉強部屋に入り鍵を掛けると、携帯で森田さんに電話した。

「…あけましておめでとうございます…桜井萌奈美です」

「久し振りだな。届いたか?」

「立派なお着物一式、ありがとうございます」

「明日は、それを着て聖と共に百人町の屋敷に来るといい」

私は、心に引っ掛かる事を尋ねた。

「明日…何かあるのでしょうか?」

「……何故だ?」

「…私の事を気遣(きづか)って頂くには…余りに凄い贈り物ですので…」

電話の向こうで、フッという含み笑いが聞こえる。

「…感がいいな」

「畏れ入ります」

「明日…堂本組長は、多分お前を(あお)って挑発して来る」

「は?」

「それに乗って欲しい」

「…売られた喧嘩を、買え…という事ですか?」

「そうだ」

「宜しいのですか?凄く偉い方だと、お聞きしています」

「構わない…私が身を(てい)して止める迄、やり合っていい。勿論、お前の身の安全は、私が責任を持って保証する」

「…何の為です?」

「それは、お前には関係のない事だ」

「……喧嘩の最中の出来事についての…責任の有無(うむ)は?」

「…」

「身の安全を保証して頂けるのは、私だけですか?」

「…」

「拒否権は?」

「無い」

「…承知致しました」

「それから、この件は他言無用だ」

「聖さんにも?」

「言うに及ばず」

「畏まりました。それでは、明日お伺い致します」

森田さんは…堂本組長は、一体私に何を仕掛け様というのか…?

私は直ぐに棗さんにメールして、宴会を抜け出して貰った。

「どういう事だ、お嬢ちゃん!?」

「わかんない…私、話しに乗ってもいいのかな?」

「森田組長の事だ…何か考えがあるんだろうが…狙いは何だってんだ…」

「私の身の安全は保証するって。何かあったら、聖さん連れて逃げてね!?」

「大丈夫だ。お嬢ちゃんも担いで逃げてやる」

棗さんはそう言って、私の頭を撫でてくれた。



毘沙門(びしゃもん)亀甲文(きっこうもん)瑞雲(ずいうん)を配した朱色の総絞(そうしぼ)りの着物に、プラチナの亀甲地紋(きっこうじもん)飛鶴(ひかく)瑞雲(ずいうん)をデザインした丸文(まるもん)総刺繍(そうししゅう)で仕上げた袋帯(ふくろおび)

全体にクラシカルな装いを、飾り(えり)帯揚(おびあ)げ、帯締(おびじ)めを全てグリーンで統一してキリッと引き締めてある。

対してバッグは甘い雰囲気のビーズをふんだんに使った可愛らしい物を…。

一度会わせただけで、これだけ萌奈美に似合う物を(そろ)えてポンと贈る森田さんのセンスに、俺は正直舌を巻いた。

「聖さん、格好いい!!」

棗に写真を撮って貰っていた萌奈美が、俺の紋付(もんつ)(はかま)の和装に目を見張る。

「そう?萌奈美も、とても良く似合う」

ヘニャリと笑う彼女が俺の腕を取り、一緒に写真に収まろうとねだって甘えた。

「聖さん、いつも持ってるナイフは?」

百人町に向かう車の中で、萌奈美がそう尋ねる。

「あるけど?」

「今日、貸してくれない?」

「どうして?」

「何かさぁ…緊張してきちゃって…」

「大丈夫だよ」

「お守りの懐剣(かいけん)代わりに…聖さんに守って貰いたくて…借りちゃ駄目?」

俺が贈った銀狐の襟巻きをして上目遣いに見上げる仕草(しぐさ)に、つい甘い気持ちになる。

「仕方ないな…」

俺はそう言って、ナイフを萌奈美の帯に(はさ)んだ。

「絶対出しちゃ駄目だからね?」

「出さないし、出せないって!」

萌奈美はそう言って笑い、屋敷に着いた途端にポンと帯を叩いた。

子狸(こだぬき)みてぇだな?」

そうからかう棗に、彼女は(ひど)いと(にら)んで笑う…この2人は、いつの間にか兄妹の様な関係を築き上げていた。

例年ならば、各組長は夕刻にこの屋敷を訪れ、年賀の会が(もよお)される。

棗の様に、新たに組の若頭(わかがしら)になった者も顔繋(かおつな)ぎの為に呼ばれるが、家族が呼ばれる事はない…()してや萌奈美は、まだ婚約者だ。

まさか年賀の会に出席させる事はないだろうが…この日の午前中に呼び出す意図は何だろうかと、俺はずっと考えていた。

「やっと来たな、子狐(こぎつね)!?」

座敷に入ると、堂本組長と森田さんが待ち構え、棗は入口の障子の前に、俺と萌奈美は堂本組長の前に座った。

「俺が、堂本清和だ」

「桜井萌奈美と申します」

「成る程…やっぱり子狐だな、聖?」

「…畏れ入ります」

俺の隣で、萌奈美がピクリと反応した。

「しかし意外だな、聖…お前、こんなタイプが好みだったか?」

…何だろうか…今日の堂本組長は、やけに好戦的(こうせんてき)な…。

「お前だったら、女は()り取りミドリだろうが?何も、こんなガキみてぇな女…」

「いぇ…萌奈美は、私には過ぎた女性です。それに…彼女とは先日正式に婚約致しました」

「聞いてねぇぜ?なぁ、森田?」

「はい…一向に」

「いぇ…その様な事は…」

やはりおかしい…萌奈美との婚約は、先日森田さんに報告済みだ。

「指輪も、してねぇじゃねぇか」

「指輪ではなく、腕輪を贈りました」

「腕輪より…首輪の方が良かったんじゃねぇか?その方が、子狐にピッタリだ!」

ゲラゲラと笑う堂本組長に、とうとう萌奈美が噛み付いた。

「…黙って聞いてりゃ…ちょっと、あんまりなんじゃない!?堂本さん!!」

「おっ!?何だ?子狐が噛み付くのか?」

「噛み付くわよ!!初対面の人間掴まえて、子狐子狐って…どんだけ偉い組長さんだか何だか知らないけど、失礼にも程があるわ!」

「何だと?」

「そうでしょうよ!?()げ句、人の婚約にケチ付けて…腕輪のどこが悪いの?首輪の方がピッタリって、どういう意味よ!?」

「…聖、お前の所の子狐…(しつけ)がなってねぇみてぇだな?」

「…申し訳ありません…しかし…」

「まだ言うの!?この人はっ!!私の名前は、桜井萌奈美よっ!!アンタなんかに、子狐呼ばわりされる(いわ)れはないわっ!!」

ニヤリと堂本組長が笑い、床の間からスラリと長ドスを抜く。

「俺が(しつけ)代わりに、手打ちにしてくれる!」

俺は萌奈美の前に立ち塞がり、刃から彼女を庇った。

「申し訳ありません、組長!礼儀を(わきま)えない子供の言う事です!どうぞ、ご勘弁を!!」

「下がれ、聖!!」

頼みの綱の森田さんの怒号(どごう)が飛び、俺は泡を食った。

「棗!聖を下がらせろ!!」

再び森田さんが叫び、棗は無言で俺を掴んで、下座迄引き摺った。

「さて、邪魔者は居なくなった…謝るなら今の内だぜ?」

「謝って!萌奈美!!」

「何で?私、間違った事は何一つ言ってないわ!!」

「謝らねぇってか?」

鼻先に突き付けていた長ドスを、今度は刃を横にして首筋に当てて、堂本組長が笑う。

「謝るのは、堂本さんの方だわ!」

「…怖くねぇのか…お前…」

「怖いわよ、充分…でも、それ以上に腹が立って呆れてるのっ!!」

「何が?」

「幾ら偉い組長だからって、ヤクザはやっぱりヤクザなんだと思って…」

「…」

「こんな小娘相手に、そんな物持ち出して…恥ずかしくないの?」

「…」

所詮(しょせん)、暴力でしか屈服(くっぷく)させれないなんて…堂本さんも、大した事ないんだね?」

「脅しじゃねぇぞ!?」

「傷付けてご覧なさいよっ!傷害罪で訴えてやる!!」

「!?」

(つい)でに、銃刀法違反(じゅうとうほういはん)で引っ張られるがいいわっ!」

「…気の強えぇ女だな…気に入った!お前ぇ、俺の女になれ!!」

まさか…これが目的だったんじゃ…!?

躰から嫌な汗を吹き出させながら、俺は下座(しもざ)から叫んだ。

「組長!?そればかりはっ!!」

「聖…お前の仕置き…まだ済んでなかったよなぁ?」

「俺の躰で払うと…そうお約束した筈です!」

「残念ながら、男に興味はねぇぞ?俺が好きなのは、女と金だ」

「金なら…」

「お前の所、今厳しい筈だよなぁ?」

萌奈美の躰を(はさ)んで、堂本組長と俺は睨み合った。

飛び出そうとする俺を、棗はガッチリと()め技を決めて離さない。

「離せっ!棗っ!!」

(こら)えて下さい、社長っ!?」

「クソッ!!」

堂本組長が、悠然(ゆうぜん)と萌奈美に向き合う。

「どうだ、子狐?俺の所に来れば、聖の所よりも贅沢(ぜいたく)な暮らしが出来るぞ?」

「お断りよ!アンタみたいな卑怯(ひきょう)不遜(ふそん)下劣(げれつ)な男、願い下げだわ!」

「じゃあ、聖の仕置きは…組の解散って事でいいか?」

卑劣(ひれつ)な人ね…」

「何なら、一発でも構わねぇぜ?」

「…」

「どうするよ、子狐?」

「…止めろ、萌奈美…」

「…条件があるわ」

「ほぅ?」

ニヤニヤと笑って、俺に勝ち誇った顔を向ける堂本組長に、射殺(いころ)す様な眼差しを投げつける。

「この屋敷に居る全員を、ここに集めて下さい」

萌奈美の冷静な声が響いた。

「で、どうするよ?」

「一番前に、堂本さんの奥さんと、お子さんに座って頂きます」

「それで?」

「その前で、私を犯すがいいわ!!」

「…何だと?」

「結婚されるのに10年も(つい)やされた、恋女房なんですってね?その奥さんの目の前で、抱いて貰おうじゃないの!」

「…」

「お子さんは幾つ?小さくて、何もわからないかもしれない年齢?言って置くけど、強姦(ごうかん)されるんだから、大人しくなんて抱かせてやらないわよ!?大暴れして、叫びまくってやるわ!!」

「…お前」

「今はわからなくても、大きくなったら気付くわ…あの時、自分の父親は…女を強姦(ごうかん)してたんだってねっ!?」

「このアマッ!!」

「萌奈美ッ!?」

長ドスを振り上げた堂本組長を(にら)み付ける萌奈美は、帯の上から俺のナイフを押さえていた。

「そこ迄です、組長…」

いつの間にか、萌奈美と堂本組長の間に割って入った森田さんが、組長を見上げる。

「…クソッ!!」

「貴方の負けです」

森田さんの落ち着いた声が(ひび)き、場の空気が一瞬にして変わる。

「畜生…そんな手で来るとは……アーッ!!久々に、スッゲー(くや)しい!!」

長ドスを(さや)に納めて床の間に戻すと、堂本組長は棗に声を掛けた。

「棗…聖を離してやれ。茶番(ちゃばん)は終いだ」

「どういう事です!?」

訳がわからず萌奈美の横に座る俺に、森田さんが口を添えた。

「彼女の事件の片が付いた後、聖を(とが)め立てる声が一部で起きた…三上組、筑波組、桐生会の様にヤクを扱いたいと思う連中、聖を潰して置きたい連中が、まだまだいるという事だ」

「では…又、萌奈美が狙われる可能性があると!?」

「俺の女になりゃ、襲われねぇって言ったんだがな…」

「…ご遠慮します」

小さな声で、萌奈美が言った。

「森田が、勝負に勝ったらもう1つの案をって言って来た」

「勝負…ですか?」

「子狐と…桜井萌奈美と喧嘩して、俺が本気になったら、森田の案を飲むって勝負だ」

「…どの様な…案ですか?」

「おい、子狐」

堂本組長が、萌奈美の前に胡座(あぐら)をかくと、(うつむ)く彼女の顎を掴んで上を向かせた。

「お前…俺の娘になる気はねぇか?」

「…」

「おい?」

「…」

「何だ…どうした?視線が定まってねぇぞ?」

堂本組長の怪訝(けげん)な表情にハッとして、俺は朦朧(もうろう)としている萌奈美を抱き締めた。

「萌奈美!萌奈美!?大丈夫か!?」

「おぃ…何だ…さっきの勢いはどうした!?」

「申し訳ありません、組長…あれは、萌奈美の精一杯の虚勢(きょせい)です」

「へっ?」

「彼女は今迄、そうやって身を守って来たのです。だが…本当は、ただの臆病な娘に過ぎません。余りに負荷が掛かると…躰に支障を来して、又声を出せなくなるかもしれません」

「少し休ませろ。奥に、床を…」

「いぇ…こうやって抱いてやった方が、落ち着くと思います…彼女とも相談して決めたいと思います。お時間を頂きたいのですが…」

森田さんが静かに言った。

年賀(ねんが)の会で、皆に発表するのが一番いい。それ迄に、説得出来るか?」

「本人さへ納得すれば、決断は早いと思います」

「わかった…彼女が覚醒(かくせい)したら呼ぶがいい、私からも話してみよう」

「宜しくお願い致します」

「兎に角、奥の部屋に運んでやれ」

俺は萌奈美を抱き上げると、棗と共に奥の部屋に運んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ