表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使は銀狐に囚われて  作者: Shellie May
15/40

第15話

弁天町の社長のマンションが銃撃され、桜井さんが怪我をした…専務も体調を崩してしまい、社長は堂本組に行ったきり雲隠れ、頼みの兄貴迄行方不明で、この1週間事務所は上へ下への大騒ぎだった。

いきなり堂本組の本部長が乗り込んで来て、俺達の個人データを渡せと言われた時には肝が冷えたが、先日データを持った兄貴が帰って来た時には、心底ほっとした。

「マジで、大変だったんスよ!」

「わかった、わかった…」

北新宿に向かう車の中で、俺は兄貴に泣き言を吐き続けた。

「専務も入院したって言うし、社長室に血痕が残ってたって言うし!」

「あぁ、あれは…大したことねぇ」

「それで、何で事務所ごと引越しになったんスか?然も、森田組のシマって!?」

「上の意向だ…しょうがねぇだろ?」

北新宿に建設中のショッピングモールに建つツインビルに事務所を引越すと昨日発表され、俺達は度肝(どぎも)を抜かれた。

「花屋は、あのまま新宿で稼働(かどう)させる。北新宿には、示談屋(じだんや)集団と警備屋、事務所と社長の自宅が入る」

「あそこに住むって、そんな余裕あるんスか?もう中に入る店も殆ど決まった筈じゃ…」

「それでな、太一…アミューズメントを外す事になった」

「えぇ〜っ!?」

元々飲食店とアミューズメント施設の他に、警備会社と弁護士事務所が入る事になっていた。

その他に事務所、社長の自宅迄入るとなると、スペースが収まり切れない…弾き出されたのが、俺も企画に参加していた1フロアぶち抜きのアミューズメント施設だと言うのだ。

「そりゃ、ないッスよぉ」

「しゃあねぇだろ?あの土地の客層考えたら、飲食店の方がいいって事になったんだよ。それに、店がポシャった後の事考えると、アミューズメントの方が設置も簡単に済むしな。案としては生きてんだ。そうガッカリすんな」

「…へぇ」

「で…お前、どっちに行きたい?」

「え?」

「新宿も空にする訳にいかねぇからな。店からの呼び出し()らったら、北新宿からじゃ時間が掛かる。新宿の方に残るか?」

「…兄貴は、どっちに?」

「俺は、行ったり来たりだろうが…社長が北新宿に移るんじゃ、基本アッチだな」

「じゃ、俺も北新宿に行きます!!」

まだまだ使い走りの域を出ない俺でも、社長や兄貴に使われるのと、他の人間に使われるのじゃ月とスッポンだ。

「北新宿に行くとなると、お前又お嬢ちゃんの面倒見る様になるぞ?」

「桜井さん、まだ社長の所に監禁されてんッスか?」

「まぁな…まだ狙われるだろうしなぁ」

「そッスか…俺、構わないッスよ。桜井さん優しいし、飯旨いし…」

「わかってると思うが、手ェ出すなよ!?」

「出しませんって!」

「マジで社長に殺されっからな…切れたら最後、俺じゃ止められねぇ…」

「噂じゃ聞いてますけどね…実際『Silver(シルバー) Fox(フォックス)』と『Lone(ローン) Wolf(ウルフ)』って、どっちが強かったんスか?」

「お前『Lone(ローン) Wolf(ウルフ)』って、どういう意味か知ってるか?」

「『一匹狼』って事ッスよね?兄貴の二つ名なんで、ちゃんと調べたんッス」

「狼ってのはな…所詮(しょせん)群れる生き物だ。そのコミュニケーションの為に遠吠えすんだよ。それに対して狐ってのは、元々単独で生活する。攻撃も防御も、全て独りでこなさねぇと生きていけねぇ」

「…社長の方が強かったんッスか?」

「タイマン張ったら、まず負けてたな…俺も弱ぇ訳じゃねぇが、遠吠えの方が得意なんだよ」

「へぇ…」

「それも自信なくなっちまった…あんな小っけぇ女に負けちまうなんてな…」

「あぁ、凄かったッスね、桜井さん!」

「森田組長にもやらかしたらしいぜ?」

「ひょぇ〜っ!?命知らずッスねぇ!」

噂話に花が咲く内に北新宿のツインビルに到着すると、立体駐車場に車を入れ、事務所の入る別館に移動してエレベーターに乗り込む。

「アレ…最上階じゃないんッスか?」

「ビルの最上階ってのはな、案外と狙われ易いんだ。だから事務所を最上階に、自宅はその下の階にしてあんだよ」

エレベーターを下りると、エントランスから延びる廊下の両側にドアが設えてある。

「この階には、会議室、休憩室、仮眠室やシャワールームなんかも完備されてる。社長の自宅は、この奥だ」

兄貴がポケットから出した鍵で玄関を開け、俺達は部屋の中に入った。

「何スか、アレ…」

「あー…モノにしたって事だろ、ありゃ」

「うわっ、マジッスか!?」

広いリビングに置かれたソファーセット…その下に敷かれたラグに直接座って雑誌を見ている桜井さんを、社長が長い足の間に座らせ後ろから抱え込む様に腰を抱いて、笑顔で肩越しに一緒に雑誌を見ている…。

まるで、そこだけ薔薇色の空間…新婚の部屋の様だ!!

兄貴がコッソリと囁いた。

「お前、外出てろ。いいか?社長が自宅に居る時には、ちゃんと遠慮しろよ?」

「ぅ、ウッス」

俺はコッソリと部屋を退散した。



「ちわッス!」

「久し振りだね、太一君!元気してた?」

社長は兄貴と一緒に事務所に行き、入れ違いに俺は自宅の方に詰める様に言われた。

「色々大変だったんスよ。そういえば怪我って、大丈夫なんッスか!?」

「あぁ…まぁ、何とかね」

そう言って笑う彼女を見て、肝の太い女だと改めて感心した。

「…桜井さん…あの…」

「何?」

「…その…社長と…」

「ハッキリ聞けば?」

「…ヤっちまったっつーか、デキちまったんッスか?」

珈琲カップを持った桜井さんが、目を丸くして…次の瞬間笑い出した。

直截(ちょくさい)な聞き方だね?」

「すんません」

「お付き合いする事には、なりました」

「じゃあ『(あね)さん』になるって事ッスか!?」

「それって、結婚するって事?」

「勿論ッス!!」

「あのさぁ…太一君達って皆そうなの?付き合うって、直ぐに結婚とかって考える訳?」

「え?」

「この間も、付き合う前から『結婚する気はないか?』って森田さんに聞かれたし…ヤクザの人って皆そうなの?」

「あ…いや…違うくて。俺達なんかが付き合うっていうのと違うんッスよ。やっぱ社長だから…跡目(あとめ)の事もあるし…」

「…成る程、そういう事」

「桜井さんが『(あね)さん』になってくれたら、皆喜びますよ」

「…まだね…お互いを模索中なんだよね。私は(ほとん)ど聖さんの事知らないし。学歴とアメリカで仕事してた事と、会社の仕事内容位かな」

「『Silver(シルバー) Fox(フォックス)』の事、知ってます?」

「それは聞いた…太一君、他に何か知ってる?」

「あ…でも…」

「大丈夫。聖さんに、聞いてもいいって許可貰ってるから」

話してもいいか…許可は出てるらしいし、桜井さんも知ってた方がいい事もある…。

「…社長、この世界に入って、まだ2年位なんッスよ。先代が脳梗塞(のうこうそく)で倒れて…皆跡目(あとめ)は、本家の皇輝(こうき)さんだと思ったんスけど…」

「皇輝さんって?」

「社長の弟になる人なんッスよ。本妻の息子で…社長は、妾腹(めかけばら)なんス」

「…そうなんだ」

「社長は堅気(かたぎ)で、アメリカで仕事してましたし…皇輝さんは、聖組で若頭補佐(わかがしらほさ)してましたから」

「何で、その皇輝さんって人が継がなかったの?」

「上の…堂本組の事情もあるんスよ。元々堂本組は、新宿のヤクの元締(もとじ)めだったんスけど、今の組長になってから薬から手を引く方向に変わったんッス」

「いい事じゃない」

「それがね…堂本組の奥方の、結婚する時の条件だったんスよ。それを組長は律儀に守ってるんッス…いい話っしょ?」

「素敵なご夫婦ね」

「結婚するのも反対されてて…10年掛けてやっと結婚なさったそうで…。でね、丁度ウチの先代が倒れる前に、新宿でヤク絡みの大きな事件があって…堂本組の本部長が逮捕されたんッス。堂本組の中でも、ヤク推進派と廃絶派に分かれて覇権(はけん)争いがあって…ウチの先代は中立派だったんスけど、皇輝さんは推進派だったんス」

「…」

「先代は、堂本組の金庫番してた程のお人で、人格者だったんスよ。跡目に社長を指名したんスけど、本家の奥方が黙ってなかった…元々聖組は奥方の実家で、先代は婿養子でしたんで…跡目(あとめ)は息子の皇輝さんをと奥方が横車押したんッス」

「聖さんは、麻薬廃絶派だった訳?」

堅気(かたぎ)でしたから…というより『Silver(シルバー) Fox(フォックス)』として活躍してた頃から、ヤクの売人なんかを制裁(せいさい)してましたからね」

「…」

「ほぼ皇輝さんに決まり掛けた所で、堂本組長が待ったを掛けて…社長を口説き落としたって話ッス。でも…その後も何か色々あったみたいで…社長が跡目(あとめ)を継いだ途端に、皇輝さんは組を離れて、本部長が急病で亡くなった隣の寺嶋組を吸収して、Saint(セイント)興業って会社組織にして…」

「要は、ドロドロの相続劇だったって事ね?」

「俺も組に入ったばかりの頃で、よくわかんない事も多いんスけど…かなりグッチャグッチャだったみたいッスよ?噂じゃ、死人迄出したとか…」

「…」

「組が会社組織になってから、今迄と違うって出て行った仲間も多かったんスよ…今残ってる連中は、新しく入った奴も含めて、社長に惚れ込んでる奴等ばっかッス。社長は、そんな俺達の先々の事迄心配してくれてるんッスよ」

「…そうだろうね」

「俺ね…社長のお供で、桜井さんのバイト先の近くによく行ってたんッスよ」

「え?」

「社長って、俺が知る限り殆ど笑顔なんて見せないお人で…顔の造りが綺麗だから、余計に怖くて…。だから、桜井さんの所に会いに行く時、俺いっつも驚いてたんスよ」

「カフェでは、いっつもヘラヘラしてたよ?」

「あんな格好なのも驚きでしたけどね。プライベートを、一切見せなかったお人なんで」

「ふぅん」

「さっきも…俺…あんな幸せそうな社長、初めて見たッスよ」

「…聖さんは…普通の人なんだよ……多分」

「桜井さんには、そう見えるんッスね?」

「太一君の印象は、違うの?」

「違うッスね…凄いお人ッスよ、社長は。噂で聞いてた『Silver(シルバー) Fox(フォックス)』以上のお人でした。仕事も人間もね…」

「…」

「命も…何度も狙われて来てる筈なんスよ。でも、全く動じなかった…。今回初めてなんじゃないッスか?動転してる社長なんて」

「…私のせい?」

「惚れた弱みッスね」

「…弱みには、なりたくないな…どっちかって言うと、強みになりたいかな?」

「桜井さんらしいッスね」

「そう?…私は、そんなに強くないよ?」

「いやぁ…兄貴の事言い負かしちまうなんて、相当ッス!森田組長の事も…本当ッスか?」

「森田さん?あぁ…あれは、森田さんが大人としての対応してくれただけで、私は一般論を話しただけ…でも…」

「何かあったんスか?」

少し考える素振りを見せる桜井さんをジッと見詰めてしまい、俺の方が慌ててしまった。

…こんな可愛いかったっけ?

恋愛は女を綺麗にするって…本当の話だったんだ…。

「…聖さんの周囲の人達にとって、私との関係って…どう思われてるの?」

「えっ…あ…会社の中では、歓迎すると思うッスよ?上の方達も…多分…」

「…そう」

「反対するとしたら…本家ッスかね…」

「…皇輝さんって人?」

「その(うしろ)に、さっきも話した大奥様…先代の奥方の登紀子(ときこ)様って方が居て、何かと本家だ本筋だって威光を笠に着るんスよ」

「聖さんのお母様は?」

「亡くなったって聞いてます。アメリカの方だったそうで…社長の中学ん時ッスかね」

「…そう」

「社長も、お身内の(えにし)の薄い方なんスよ…お母上も、叔父上も亡くされてて、血縁で残ってるのは先代だけなんッス」

「叔父さんも亡くされてるの?」

「さっき話した寺嶋組…元は先代が治めてたシマなんスけど、先代の実弟の寺嶋本部長が跡を継いだんッス。この方も元々堅気(かたぎ)だったそうで…堂本組の下でフロント企業って言うんッスか?それを始めた走りが、森田組長と亡くなった寺嶋本部長だったらしいッスよ」

「…成る程ね」

「…あの…」

「何?」

「…本家には…気を付けて下さい」

「何かあるの?」

話してもいいものか…躊躇(ちゅうちょ)する俺に、桜井さんは笑って言った。

「大丈夫、太一君から聞いたなんて言わないよ」

「…桜井さんを狙ったの…本家かもしれないって…」

「えっ!?」

「噂ッス!!ただの噂かもしれないんッスけど…そんな噂があって…」

「……聖さん、知ってるのかな?」

「…多分」

「それでなんだ…親戚が私の事狙ってるとは、流石(さすが)に言いにくいよねぇ」

「噂ッス!!」

「太一君…火のない所に煙は立たないって事だよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ