第五章:休息と戦い
どれ程奔ったのだろうか?
暗く険しい道を抜け、月が照らす平原へと出てきた。
其処にクラウス国に繋がる道が続いている。
「兄上。漸く、森を抜ける事が出来ましたね」
クリスが息を切らしながら言う。
「うむ。皇子が疲れている様だ、此処で少し皇子と共に休め」
クリスの胸に抱かれた幼い皇子は、疲れ故にすやすやと寝息を立てていた。
「しかし兄上、一刻も早くクラウスに向かわなければ」
「いや、休め。俺は番に就く。森の中に入っていれば見つかることもあるまい。三時間ほどしたら行くぞ」
嗜める様な強い口調で言う。
渋々クリスは従い、皇子と共に森の中で眠りに就いたのであった。
妹と皇子が完全に眠りに就いたのを確認すると、レオンは鎧兜を身に着け、剣を持つ。
「…行くか」
馬に乗り、森の中に駆けて行く。
森の中の、開けた場所に出てきた。
馬を止め、瞑想をする。
やがて何処からか声が聞こえてきた。
━━このあたりを探せ!! 未だこの森の中を迷っているかも知れぬ!!
…思ったとおりだ。そう思いながら、鞘から剣を抜き放つ。
皇族親衛隊に召し上げられたときに皇帝陛下から賜った宝剣である。
豪華な装飾が施されているが、切れ味鋭く、大木を一撃で切り倒すほどである。
そしてもう一本、長剣が。
この長剣は、皇子が皇帝に即位するとき、前皇帝から譲り受けるものだ。
過度な装飾は無く、ただ柄の尻に青く輝く宝石が埋め込まれているだけである。
その質素さが、逆に剣本来の美しさを醸し出している様だった。
その長剣を背負い、盾を持ちつつ声のした方へ馬を向かわせる。