第三章:若き命
「よし、それでは回復魔法を使えるもの、剣を振るえるものはこっちへ。残りは囮役を任せる。しかし、俺と同じ部隊に入れたからといって、生き残れるとは思うなよ?死のリスクはどちらも同じだ」
軽傷で済んだもの、魔法を使えるものとかなりの傷を負っているものとを分ける。五騎と六騎の半分に別れた。互いに互いの無事を祈り、涙を流す。
「隊長」
囮役の若い騎士が言う。
「なんだ?」
「隊長の予備の鎧と、皇子のお召物を一式譲って頂きたいのですが」
「なるほど、そうか」
「はい、僭越ながら私が隊長に成り済まし、大多数の追っ手を引き付けたいと思います」
「危険が増すがそれでも良いのか?」
「元より覚悟の上です」
そう言って若い騎士は、レオンの鎧を受け取り、それを身に付けた。自分の麻袋には、未だ幼い皇子エアリーズの衣服を被せる。
そして……
時が来た。
囮役の騎士達が、関守の前に駆け出し、止まる。
「く、此処まで封鎖されたか。仕方ない、他のルートを探すぞ!」
若い騎士が言う。
「貴様等、カルミナの者だな!?」
関守が怒鳴る。
カンカンカンカン。
鐘を鳴らす。それを合図に、多数の騎馬兵が姿を現す。
その数実に三十。
絶望的な数だ。追い付かれたら最後、死は免れない
若い騎士達は背を向け馬を駆る。
「一人は皇族護衛隊長のレオンだ!逃がすな、必ず捕らえろ!」
その号令と共に、関守を除く騎馬兵全員が駆け出す。
瞬く間に駆け抜け、数秒後には姿さえ見えなくなった。
「馬鹿め、たかだか六騎で我らの追撃を逃れられるとでも思ったか!」
嘲笑気味に関守が吐き捨てる。
「しかしどうも気になる。報告では本隊が逃したのは十一騎の筈。いくら手傷を負ったとて道半ばにして倒れるような兵ではないような……」
考え込む関守。
その答えが出た時、関守の首は胴から斬り離されていた。
「そうだ、我らを無事に進めるため、自ら囮になったのだ!」
怒りを込めてレオンが言う。
「今だ!全力で駆けよ!」
応。と小さな声で応え、正に全身全霊を賭け、走り抜ける。