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第一章:逃走
暗く細く、険しい獣道。
その道を、何頭かの騎馬が駆け抜ける。
それは騎士達であった。
しかし、その体裁には騎士たる者の誇りが感じられない。いや、感じられないのではない、押し殺しているのだ。
堪え忍ばなければならない、落ちた皇家を再興するには、今は皇子を連れ、逃げ延びねばならない、と。
不意に、先頭の若い騎士の前面から、叫び声が聞こえた。
馬を止め、そっと耳を澄ます。
―いいか! 敵はこの道を通るはずだ! 此処を通してしまえば我らの勝利は無い。不審者を発見したら、全力で捕縛せよ! 場合によっては殺しても構わん!
「くっ、此処にまで先回りされるとは……」
若い騎士が至極無念そうに吐き捨てる。
一人の騎士が口を開く。
「…俺が囮になる。奴らを出来るだけ遠くに引き付けるから、その隙に進め」
若く(と言ってもこの一団では年長者だが)はっきりとした黒い光を持つ瞳、銀色の髪に、引き締まった体躯。
かなりの手練であることは間違いなかった。