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―4―

 維茂は椀を取り、肉と山菜をよそった。

 それからまず一口、自分で食べて見せる。


「ん。ちょうどいいな。ほれ」

 熊武に椀を差し出す。

「まずは食おうぜ」

 一瞬迷った後、熊武は椀と匙を受け取った。ただし目線はあくまで維茂からはずさない。

 続いて維茂は次の椀を出す。

「呉葉も食え」

 受け取った呉葉は迷わず口に入れた。

「あ、うまい」

 つい声が出る。鹿肉のうま味がやわらかく口の中に広がり、山菜の味があとからついてくる。

 温かい汁が体の芯に染みわたっていく。

 固くなっていた肩の力がほっと抜けていく。


 維茂が優しそうな目で呉葉を見ている。

 それに気づいて、ばっ、とそっぽを向いた。


 それを見て熊武もようやく椀に口をつけた。

「まだまだあるぜ。あとであっちの連中にも持って行ってやってくれ」

 維茂が笑う。

「なぜ……」

 熊武は低くつぶやいた。

「なぜ、ここまで我らに?」

「んー」

 維茂が片眉を上げる。

「オレも貴族の言いなりはウンザリしてたからな」

 呉葉を見て笑いかける維茂。

 呉葉は食べながら睨み返した。

「建前としちゃあ、山賊騒ぎを終わらせたい。そのためには山賊になる原因を絶てばいい。

 討伐依頼達成の口実としちゃあ、上出来だろ?」

「……筋は、通っている」

 熊武は鼻を鳴らした。

「だが都の人間は信用できない」


 熊武は椀を置き立ち上がった。

「私の父も、先の坂東の乱で都の人間にだまし討ちされた」

 呉葉は驚いて熊武を見上げた。

 熊武の目は静かな怒りで満ちている。


 維茂の眉がわずかに締まる。

「なるほどね」

 そしてぽつりとこぼした。

「武門の習い、とは言わねえ。けど、そうしねえと納得できねえってんなら、つき合うぜ」

 維茂も椀を置いた。

「え、なんだよ。なにする気だ」

 突然張り詰めた空気に呉葉は戸惑う。

 椀を置こうかどうしようか迷ううちに、すでに二人は歩き出していた。



 維茂と熊武は少し離れた平地で向かい合うように立った。

 そしてお互いに刀を抜く。

「え、なんで斬りあうんだ。ちょっと待て!」

 呉葉の声が空にむなしく抜けていく。

「頭領」

 熊武が刀を構える。

「残った山賊たちをお願いいたします」

「いや大げさだなオイ」

 維茂が肩をすくめる。

「お前も死なせねえよ。負けたら協力してもらうんだからな」


 瞬きの間。

 重なる踏み込む音。刃がぶつかり、乾いた金属音が弾ける。

 ──と、維茂がさっと身を引く。熊武の大刀が空を切る。

 間を置かず維茂の刀が熊武の肩に伸びる。

「っ」

 さっと躱した熊武が逆袈裟に斬りつける。

 維茂は一歩引き、素早い突き。熊武は大刀で弾く。


 呉葉の鼓動が激しく跳ねている。

 止めるべきだ。けど、もう遅い。

 あまりにも静かに始まってしまった戦いに、割り込めなかった。


 近習たちも黙って見守っている。

 誰も口を開かない。開けない。


 維茂が一気に間合いを詰めた。熊武も踏み込み、斬りかかる。

 維茂がぱっと身を沈め足を払う。

 熊武は跳んでかわす。そこに維茂が斬りかかる。それを大刀で受ける熊武。

 しかし続く維茂の回し蹴りを受け損ね、よろけて膝をつく。

「熊武!」

 呉葉の声が裏返る。

 熊武は膝をついたまま大刀を構えた。

 だが──視界の中に維茂がいない。

 次の一瞬。

 すぐ真上。維茂が刀を振り下ろしながら飛び降りてきた。

 大刀を頭上に上げて受ける熊武。

 しかし維茂は刀を手放し、同時に腰の短刀を熊武ののど元に突きつけていた。


 静止。

 ふわっ、と風が鳴った。


「お見事」

 身動きが取れないまま熊武はうめいた。

「あっぶな。あんた強いな」

 維茂はにやっと笑って短刀をしまった。

 呉葉はようやく息を吐いた。


(こいつ……こんなに強かったんだ)

 昨日までとは、太刀筋の鋭さがまるで違う。

 動きに迷いがない。

(これが維茂の本気……)

 呉葉はつばを飲み込んだ。


「情けは無用だ」

 そのままの姿勢で熊武が言う。維茂は不満そうに口を尖らせた。

「聞いてなかったのかよ」

 維茂は放り捨てた刀を拾い上げた。

「負けたら協力してもらう、って言っただろ。あんたにも寺の連中を動かす手助けしてもらうぜ」

「しかし……一度山賊に落ちた身を信用してもらえるだろうか」

 熊武はうつむいた。

「関係ねーだろ」

 維茂は刀を鞘に納める。

 そして呉葉を見る。

「落ちても、負けても、最後まで諦めないで戦う。……お前らの頭領はそういうヤツだろ?」

 その言葉に熊武も呉葉に視線を向けた。

 そして、ふいに顔をゆるめた。

「……そうだったな」

 熊武は大刀を納めた。


「おわっ……た?」

 呉葉はようやく肩の力を抜いた。

「そのようですな」

 年上の近習が、さも当然のように答える。


 もう一人の近習が言う。

「ところで、おかわりはいかがですか?」

「あ……もらう」

 呉葉は椀を差し出した。




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