邂逅
「基本的に我々住み込みの使用人の起床時刻は早朝5時、朝食は5時30分です。そして業務開始が6時となります。しかし、天海さんはそうとは限りません」
「あ、あの……どうして、限らないのでしょうか」
使用人の寝室へ案内してもらう道すがら、仲間さんに説明を受ける。前を歩く仲間さんは僕の質問に立ち止まり踵を返す。おや、という表情をしていた。
「聞いていらっしゃらないのですか? 天海さん、貴方は翠子様専属のお付きなのです。翠子様はお体が弱く学校へも通っておられません。そのため、臨機応変にお願いしたいのです」
「は、はい……」
翠子は体が弱いのか……。またも後ろめたい気持ちになっている内に、目的の部屋の前に着いたようだ。くるりと、機械の如く無駄のない動きで仲間さんは僕と向き合う。
「こちらが貴方の自室となります。ここは別棟ですが、翠子様がおられる本館とは一番近い場所にあります。翠子様に何かありましたらダッシュで駆け付けて下さい。まあ、セキュリティは万全ですが」
その万全のセキュリティがまさに今夜、目の前の僕によって一時解除された事を仲間さんは知らない。
それもそうだ。僕は藤堂家に侵入するために、あらゆる事態を想定し勉強し、長い期間をかけ準備してきたのだから。翠子に発見されたのは、完全なる想定外だったが。
カードキーを受け取り仲間さんと別れた僕は、薄暗い使用人室へと入る。電気が自動的に点灯した。
中はビジネスホテルのような造りだった。質素すぎず豪華でもない無機質の空間が今の僕と相性がいい。ベッドに腰掛け深い息を吐いた。
いったい何故、こんな事になったのか。それはひとえに、僕が翠子に何も言い返せなかったからだ。加害者の僕には、端からその権利など無かったのかもしれないが。




