邂逅
11歳のとんでもない命令に僕は瞠目する。「なっ……ちょ、ちょっと待ってくれ!」と反射的に立ち上がった。翠子はキョトンとした顔で僕を見上げてくる。
「何か問題あるかしら」
「大有りだ! 僕はっ……罪を逃れるつもりはないんだ。これから警察に自首する」
「貴方は嘘つき?」
唐突な彼女の質問に「え……?」と僕は瞬きをする。翠子はくるりと軽やかに反転して僕に背を向けた。そうして後ろ手を組む。
「貴方、さっき言ったばかりよ。これからの一生をかけて私に償うと。服役していてはそれは叶わないわ」
「そっ、それは……償い方は、それぞれだろう。刑務所の中からでもキミへの贖罪の気持ちは変わらない」
「手紙でも書くの? 遺族の私に反省文の羅列を?」
僕は「そ、そうだ」と吃りながら答える。彼女は呆れて⸺何なら憐れみの目をして⸺「私がそれを償いと捉えなければ無意味よ」と振り返った。
僕はたじろぐ。何故だか親に叱られている子供の気分だ。ふふ、と翠子は年齢にそぐわぬ妖艶な笑みを小さな顔に描いた。
「ねぇ、誠一さん。貴方は嘘つき……?」
「初めまして天海誠一さん。使用人頭の仲間と申します。この度は仲間になって頂き光栄です。藤堂家にようこそ。共にご主人様と翠子様を支えて参りましょう」
駄洒落だろうか。きちりとしたオールバックに燕尾服⸺初めて見た⸺を着る仲間さんに「は、はあ……よろしくお願いします」と僕はおずおずと会釈する。
「……笑って頂けず残念です」
「!! すみませんっ」
やはり笑うべき所だったらしい。銀縁眼鏡を押し上げつつ肩を落とす仲間さんに、僕は急いで謝る。「いえ……こちらこそ初っ端から失礼致しました」と仲間さんは姿勢を正した。立ち直りの凄く早い人のようだ。




