邂逅
「は……?」
僕は間の抜けた声を出した。
『私の会社』? この子は何を言っているんだ? 頭でも打ったのだろうか……
⸺頭…
サアッと僕の血の気が引く。もしかしたら彼女はショックが強すぎて精神が危うくなっているのではないか。思い至ったら、それは至極当たり前の事だった。
僕は沸き起こる罪悪感の波に押しつぶされそうになる。隆司に対してでは勿論無い。撃った事も微塵も後悔はしていない。だが、これはそういう問題ではない。
僕がそうであるように、彼女も父とのかけがえのない思い出があるだろう。その美しい記憶を、理不尽にも粉々にしたのだ。再三言うが彼女に非は一切無い。居たたまれなくなった僕は「申し訳ない!」と床に手を付き土下座する。
「藤堂社長の身辺を調べていたからキミの存在は知っていた……信じてもらえないかもしれないが、実行するか躊躇した。もし僕が藤堂社長を殺したら、キミは深く傷ついて立ち直れなくなるかもしれない。それに、母も兄弟姉妹もいないキミは一人になってしまうと……」
今更こんな言い訳は卑怯だと、僕自身も分かっている。
許されようとした訳では決してない筈だ。けれど止まらなかった。翠子は黙って聞いている。
「だが、僕は自分の気持ちだけを優先した。結局実行してしまった。キミにはいくら詫びても詫びきれない……これからの一生をかけて償っていくつもりだ」
「あら、本当?」
絞り出すように言う僕とは対照的に、明るい声の翠子。「えっ……」と恐る恐る顔を上げると翠子は「嬉しいわ」と本当に嬉しそうにはしゃいでいた。
ここまで彼女の心は壊れてしまったのかと僕は打ちひしがれる。そんな僕を見て翠子は心底可笑しげに目を眇めた。
「貴方は私の事を正気ではないと思っているのね。面白い。貴方、とっても面白いわ。善人なのね」
殺人犯を捕まえて善人呼ばわりとは。僕はもう、ただただ途方に暮れた。
翠子は「そうねぇ……」と顎に手を当てて思案する。そうして、おもむろに僕を指差した。
「貴方、今日からこの家の使用人になりなさい。異論は認めないわ」




