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Distinction  作者: 雪柳
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真実

 刹那、僕の視界が揺れた。

 この国のおいて「これ」を手に入れる事は難しかった。凶器と成り得る物は他にもあるにはある。だが、「これ」を選んだ。どうしても「これ」にしたかった。何故なら。


 人の命に、直接触れたくなかったからだ。


 隆司はこの世で最も憎い相手で、それは間違いない。だが、その肉の感触を記憶したくはなかった。他の手段では、どうしても相手と「接して」しまう。虫を潰すのは平気だとしても、何故だろう、同じ命だというのに。


 おそらくこの感覚は理屈ではない。魂の問題だ。


 国同士の戦争が長引くと兵士は感覚が次第に麻痺するという。それは正しい自己防衛なのだろう。だが、戦後は長くPTSDに苦しむそうだ。人が人を殺傷するというのは、そういう事だ。


 だから僕も生きている限り、苦しみ続けるのだろう。



⸺隆司のために?



 思考が止まった。突然可笑しさがこみ上げて自然、拳銃に手が伸びた。だが、少女の「駄目よ」というピシャリとした言葉に、僕は反射的に顔を上げる。



「『逃げる』のは絶対に許さないわ」



 彼女の言葉と凛とした横顔に、頬を打たれた気分になった。騒がしかった脳内が一気に静まり返る。と同時に、自分がたった今、最低な考えをした事に思い至り自己嫌悪に陥った。


 翠子の言う通り僕は今、逃げようとした。この世から、この体から、この罪から。そもそも酷い目に遭わされたのは自分たち父子なのに、どうして元凶のために自分が苦しまなくてはならない、償わなくてはならないのだと酷く馬鹿馬鹿しくなったのだ。これも、自己防衛というのか。


 全く正しくない、卑怯な行為だ。


 前提が間違っているのだ。大切なものを守る為やむを得ず手を汚した兵士と、自分勝手な己を同じ土俵に上げてはいけない。僕の立ち位置はどこまでも、自己中な殺人者なのだ。特に、目の前の遺族の娘にとっては。



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