真実
「まだそれを言うの? しつこいわ」
僕を横目でじろりと一瞥すると、翠子は大きな溜息を吐いた。「そんなに変かしら」とぼやきつつ、廊下の大きな窓枠に手を添える。
「……誠一さん、私は貴方を他の人に裁いてほしくないの。そもそも司法について前々から思うのよ。なぜ被害者でも遺族でもない赤の他人が加害者の行く末を決めるのかしらってね。加害者の情状酌量はされるのに、被害者や遺族の心情は加算されない」
昨晩も思ったが、翠子は年齢の割に本当に賢い。大人の僕は「そ、それは」と必死に脳を回転させる。
「司法は判例を基盤にしているから、だろう……勿論、被害者や遺族の事は考慮されている……が、判例に基にしないと判決に差が出てしまうから……それはそれぞれの被害者や遺族にも不公平になるわけで……それでは彼らが納得しないだろう」
懸命な僕に対し、ぷっと翠子は吹き出した。くすくすとおかしそうに笑いながら、こちらへ体ごと向ける。
「素晴らしいわ、貴方は司法を信じているのね。でもそれなら誠一さん、なぜ貴方は隆司を司法に委ねなかったのかしら。貴方ほどの執念があれば隆司を告発することも不可能では無かったでしょう?」
咄嗟に僕は口を引き結ぶ。痛いところを突かれたと、正直思った。顔に出ていたのだろう、翠子は「貴方って本当に面白いわ」と揶揄する。
「司法に任せたところで自分が納得しないと分かっていたからよね? だから、自ら手を下した」
この少女には全て見透かされているのだろうか。僕は耐えられず俯く。
翠子の言う通りだった。清廉潔白の父の不名誉と無念の死は、たとえ隆司が死刑になったとしても釣り合わない。釣り合っては、ならないのだ。翠子の静かな声が耳に届く。
「貴方が隆司にそうしたように、私も肉親を奪った貴方への罰は私自らが決めるわ。それを貴方に指図される筋合いは無いのよ」




