真実
朝8時。僕は内線で翠子に呼び出された。
ダッシュでと仲間さんには言われたが、寝不足の体は鉛のように重くノロノロと着替える。用意されていた幾つかのサイズのうち、体に見合うモーニングを着て本館へと向かった。
「おはよう。よく眠れたかしら」
指定のダイニングルームへ向かうと⸺屋敷侵入の際の下調べのお陰で迷わずに済んだ⸺食後だろうか、紅茶を飲んでいた翠子が僕を見て挨拶をした。そして「……今夜はカモミールティーを用意させるわ」とクスッと笑う。そんなに僕は酷い顔をしているんだろうか。
「まぁ、それが普通の感覚なのかしらね。その分じゃ食欲も無さそうね」
その通りだった。食事などする気分ではない。翠子は上品な所作でカップをソーサーに置くとナプキンで口を拭いた。
「さあ、それじゃ行きましょうか。案内したい所があるの」
翠子は細い両手をテーブルにつき立ち上がると、流れるようにダイニングルームを出ていった。
そう言えば、使用人は仲間さんを始め何人か居る筈なのに誰もいない。人払いをしているのだろうか。自室に備え付けられている小型テレビでニュースを少し観たが⸺スマホを持っていないのでそれが唯一の情報源だ⸺隆司や藤堂グループの件は何も報道されていなかった。屋敷の外に報道陣が押し寄せている、ということも無さそうだし、そもそも昨夜仲間さんも何も知らない様子だった。
問題なく「後片付け」されたという事、だろうか。僕は薄ら寒くなる。
それもおかしな話だった。彼女は「ただの普通の少女」であるのに。僕は振り切るように、急いで翠子の後を追った。
「礼服、よく似合っているわ。貴方はお顔がなかなか良いものね。お名前の通り誠実そうだし、スタイルも悪くないわ」
歩きながら翠子は声を弾ませる。心から楽しそうだった。一方の沈んでいる僕は誉められても全く嬉しくない。
「キミは……何故僕を使用人にしたんだ……?」
長時間出していなかった声は思った以上に掠れてしまったが、翠子には聞こえる距離だ。
実際、翠子は立ち止まり前方を見たまま「言わなかったかしら」と小首を傾げる。
「私に償いをしてくれるんでしょう?」
「確かに僕はそうキミに言った。だが、それで犯罪者の僕を使用人にする事はイコールにならないだろう。やはり少なくとも司法のルールに従うべきじゃないのか。何というか、この状況は……とても変だ」




