第八十二話 長い永い戦争の終わり
カルドは話を終えると剣を持って立ち上がった。
そしてそのままさらに話をし始めた。
「俺はもうじきに瘴気に飲み込まれる。今は君のカタナで一時的に形を保っていられずに瘴気が薄れているだけだ。」
言われて見るとカルドへ瘴気がジワジワと集まってきていることに気づく。
「そして俺はもう今はただの魔物だ。俺はここで死ぬべきなんだ。俺が死ねば俺が持っている瘴気もほとんどが消滅するしな……。」
「…………つまり自分ごと瘴気を消滅させようとしているの?」
「そうだ。人間に害になる存在でいるくらいなら死んだほうがましだ。なにより騎士としての誇りが許さない。」
「…………。」
「これで俺は気づいた時にはあの世だろう。だから意識が消える前に一つだけ教えておく。君の一族は決して戦争の原因では無い。戦争が起きそうな時に黒髪の人間が産まれ、戦争を本来よりも早期に終わらせることで被害を減らしている一族だ。」
それを聞いてレイナは目を見開く。
そしてレイナがカルドに話しかけようと口を開いた直後、カルドに大量の瘴気が吸い込まれていった。
戦っていた時よりも瘴気が濃いようだ。
その瘴気が人型になり鎧の中に収まると中の瘴気から舌打ちが聞こえてきた。
瘴気の原因にもなっている魂などのほうの人格に戻ったらしい。
「余計な真似を……!」
どうやらカルドに対して怒っているようだ。
レイナが剣を向けながら声をかけた。
「ねえ。」
「あぁ? 何だ? こっちはお前とこの体の持ち主の野郎のせいで機嫌が悪いんだ。さっさと用件を言え。」
「今のカルドさんの話は本当?」
「…………ちっ。」
その態度から真実がよく分かる。
どうやらレイナを動揺させるためのブラフだったらしい。
「そう……良かった……。」
ノワールがさらに苛立ちながら言葉を浴びせる。
「くそっ! ふざけるなよ!? お前らカルミア家のゴミどものせいで俺がどれだけ苦しめられたことか!!」
「……どいうこと?」
「カルミア家の人間のカーネとかいう女の記憶のせいでカルドは精神を頑強にしたこともあって俺は中々乗っ取れなかった! そして数百年かけてようやくこの体を手に入れた時にはカルミア家の人間と勇者を名乗る奴が現れて封印された!」
「初代勇者に仲間がいたの……? しかもカルミア家の人間……そんなの神話では聞いたことが無い……。」
「それだけでは終わらなかった! 封印されている時に一度だけ封印が解けそうになった! だがその時もカルミア家の連中が現れた! おかげで封印が解けるまでの時間が本来よりも跳ね上がった! ふざけるな! いつもいつもいつも!!」
「そう……だったんだ……。」
「挙句の果てには封印が解けたら今度はお前だ! いい加減鬱陶しいんだよ! 俺が何かを企むたびに貴様らは現れてことごとく妨害する! ………………ハァ……もういい。今回こそお前らの一族との因縁も終わりにしてやる。」
「もちろん貴方が死ぬことで終わるけどね!」
「ちっ! 忌々しい! …………俺はこの世界が大嫌いだ。不条理なこの世は滅ぶべきだと思っている。自分の勝手な価値観を他人に押し付けるやつも自分のために仕方がないんだと言いながら人を殺して心の底では楽しんでいるやつも権力で人を弄ぶやつもそいつらの存在を許して天罰を与えない実在するかも分からん神もその神を妄信的に信仰しているやつもどいつもこいつも全て苦しんで死んでほしいと俺は思っている。俺は、俺たちはそれだけの扱いを受けてきた。そんな想いを否定する貴様らは同じくらい死んでほしいものだ!」
ノワールは口を閉じると剣を構えると大きく振り上げ、素晴らしい速度で振り下ろした。
最初よりも格段に速くなっている。
瘴気の影響だろう。
レイナはノワールの剣を受け止めようとカタナを構えた。
だが剣を受け止めたカタナが一瞬ピシリと悲鳴を上げ、大きな亀裂が走った。
「!!」
レイナが無言で驚愕するがその直後、カタナに加わる力がふっと抜けた。
咄嗟に後ろに飛び退いてカタナを見ると先端から三分の一が消えていることに気づいた。
瘴気によって力が増大していたことが原因のようだ。
ノワールも反応的に何故瘴気が増大しているかは分からないようだがどちらにせよかなり強化されていることに変わりはない。
そしてノワールはさらに追撃をいれようとした。
だが次の瞬間、レイナの折れたカタナはノワールの剣をしっかりと受け止めていた。
ノワールが一歩踏みさらに力を入れたその瞬間にレイナはカタナに込める力をふっと抜いた。
「なっ! しまっ――」
予想通りにカタナの刃の上を剣が滑りあらぬ方向に流された。
そしてレイナのカタナはノワールの首を切り裂いていた。
「畜生………………。」
ノワールはそれだけ言うと音も無く崩れ落ちた。
そして起き上がることは二度と無かった。
こうして世界中を巻き込んだ戦争はあっさりと終わった。




