第七十九話 何度でも
薄暗い要塞の頂上にチカチカと火花が散り、明るくなる。
そこでは若い剣士と伝説の騎士が戦っていた。
「まさかここまで粘るとは思わなかった! ずいぶんと俺を楽しませてくれるなぁ!」
アンデッドだからかノワールは一切息切れしていない。
レイナは既に息を少し荒げていた。
(強い……予想していたことだけど予想よりもさらに……。そこまで速くはない。ミネはもちろんギルや勇者様よりも遅いだろうけども……未来を見てるかのようにこちらの動きを読んで先行してくるからまったく余裕が無い……!)
「さて、剣は楽しめた。次は魔法のウォーミングアップといこうか!」
ノワールはそう言うと剣を地面に突き立てる。
すると剣の先から円状の魔法陣が現れ、魔法陣から数え切れないほどの数の剣が現れた。
空間魔法で納めていた剣を出してそれを闇魔法系統の念力で動かしているらしい。
「さあ! どこまで逃げられるかな!?」
そのノワールの声とともに剣が一斉に動き始めた。
「はあっ!」
レイナはかけ声とともに飛んでくる剣を叩き落としていく。
だが剣はノワールが直接操っているからなのか直線ではなく不規則に高速で動きながらレイナを囲むようにしながら飛んでいる。
固まっているわけではなくバラバラに個別に動いているのでノワールは纏めて操縦しているわけではなく一つ一つを操っているらしい。
その分情報量も多くなるわけでどうやってそれだけの情報量を処理しているのかは皆目見当もつかない。
しかも剣は全て高品質らしく一撃で粉砕というわけにもいかない。
直撃はぎりぎりで避けているが小さな切り傷が少しずつ増えていく。
「くうっ!」
ついに剣のうちの一つがレイナを捉える。
右足をかなり深く切られたのだ。
それで動きが鈍くなったところに剣が一斉攻撃を仕掛ける。
何本かはカタナでさばき、もう何本かは痛む体に鞭打って動かして回避するが3本ほど体に傷を作った。
「っ!」
血が地面の雪を赤く染める。
レイナは傷を抑えながら回復魔法で傷を治そうとするが詠唱も無しでは出血を止めることくらいしかできないだろう。
「はあ、はあ、はあ。」
荒く息をしながらも抵抗しようとするレイナを見てノワールが剣を相変わらず浮かせたまま口を開く。
「…………まだそんな目をするのか。」
レイナの目はまだ光を失っておらず断固として抵抗する意志が感じられた。
それがノワールを苛立たせたらしい。
「…………まあいい……………………死ね。」
ノワールはそう呟くと持っていた剣を地べたに膝をついているレイナの首へと振り下ろした。
「……………………諦めの悪い奴だ。」
そこにあったのは首を落とされた死体ではなく、持っていたカタナを自分の首の上に構えてノワールの攻撃を防いだレイナだった。
「……私は、負けるわけにはいかない……。」
「無駄だ。お前は負ける。お前では俺には勝てない。」
「私は守りたい。人々の明るい生活を。温かい景色を。」
「お前では力不足だ。お前は今ここで殺される。そして人類は滅ぼされる。」
「私は負けない。まだ負けていない。」
「ここから勝てるとでも? 一つ教えてやろう。上位のアンデッドがなぜ強いのかをな。アンデッドは元々は人間だったのになぜここまで強いのかを。アンデッドというのは瘴気で生まれ、瘴気で強くなり、瘴気で戦う。そして瘴気は人間が負の感情を抱きながら死ぬと出てくる。どんな人間でも負の感情が少しばかりある。瘴気とは言わば魂でもある。それを俺たちアンデッドは吸収する。俺はもう数千年も前にアンデッドになった。その数千年の間にどれだけの人間が瘴気を出したと思う? つまりは俺はこの数千年間に死んだ人間の魂と力を吸収し続けているのだ。これは一対一の戦いじゃ無いんだよ。」
そこで一旦区切ってレイナを見下ろしながら再度口を開く。
「アンデッドが人間を憎む理由もここにある。お前らの人間を憎む心から俺たちは生まれんだからな。」
その時、ずっと黙っていたレイナが話し始めた。
「可哀想に。貴方は復讐に心を塗りつぶされているのね。」
「あ?」
「考えてた。ずっと考えていた。魔力はまだしもそれだけの剣技を得るにはきっとそれだけの努力をしたんでしょ? そんな努力をした人間が悪い心しか持っていないなんてことがあり得るのかと思ってた。……けど分かった。貴方は瘴気に飲まれて元の人格も記憶も失ったんじゃない?」
それを聞いてノワールが顔を手で抑えながら笑い声を漏らした。
「クックックックックック!! その通りさ。俺は生前の記憶もアンデッドになった当初の記憶すらも無い! 人格も元は違ったんだろうな! 今の人格は瘴気の元になった人間達の人格を合わせた結果だ! 人間というのはここまで醜いんだよ! 可哀想? お前からしたらそうなのかもな! だが俺からしたらまったく気にならない。俺にあるのは人間を殺せという数々の魂からの声とそれを楽しみながらする人格だけだからな! なんなら楽しいんだよ。人を殺すのはなぁ!」
「…………私はそんな貴方に負けるわけにはいかない。瘴気に飲み込まれてしまった貴方にはね! 貴方が元の人格だった時に会いたかったよ!」
そう言うとレイナは思いっきりカタナでノワールの剣を弾き飛ばした。
ノワールがすぐさま膝をついているレイナから距離をとる。
「私は貴方に勝つ! 何度傷を負っても立ち上がる!」
レイナはそう言い、立ち上がりしっかりとカタナを握りしめた。




