第六十七話 力無き元勇者
気づいた時、ロンはベッドに寝かされていた。
ゆっくりと体を起こすとそこにはギルがいた。
「ロン!! おい! ロンが起きたぞ!!」
すぐさま軍医などが駆けつける。
「大丈夫ですか!? 体調に異変は!?」
「だ、大丈夫だ……どれくらい気を失っていたんだ?」
周りの人間の様子に戸惑いながらなんとなく質問をする。
「10日です。」
「ええっ!?」
予想外の答えに驚く。
だがそれも吹き飛ぶくらいより大きい驚愕に埋め尽くされる。
「ギル! お前大丈夫だったのか!」
「あ、ああ……お前何したんだ?」
それを聞いてロンは起きたばかりで朦朧とする頭を回して気絶する前のことを思い出した。
「思い出した。」
「で、何なんだ?」
「俺はレイナとギルに全ての力を渡したんだ。」
「…………は!? どういうことだ!?」
「文字通りの意味だよ。だから今の俺には何の力も無いしこれから強くなることも無いんだ。」
それを聞いてその場の全員が絶句する。
「お前……何てことをしたんだ!? 俺なんかのために!?」
ギルが叫ぶように言う。
「これしかギルを助ける方法は無かったんだ。後悔は無い。」
断言したロンにギルは声も出せないという様子だ。
こうして先代勇者は全ての力を失い、戦いの場から退くこととなるのだった。
勇者という人類の希望が戦えなくなったという事実は人類を絶望させるかもしれない。
結果的に言えば勇者になれる素質のある英雄が助かったものの世界中の人間がロンの選択を責めるだろう。
ロンが改めて自分の能力を確認するが一切のスキルが存在せずlvもlv1まで下がっていた。
その時、ロン達がいるテントの外から誰かが入ってきた。
「勇者様!」
レイナだ。
「レイナ! 無事なようで何よりだ。」
「心配しました……急いでこちらへ駆けつけたら勇者様が気を失ったというから……よかった、本当によかった……! ミネと同じようにならなくてよかった……もうあんなふうな目に会わなくて……。」
泣きそうな顔をしながらレイナが声を漏らす。
それを聞いてロンは夢のことは真実だったのかと心の中で思った。
「そうかミネはやっぱり……。」
「うわあああぁぁぁん!」
ミネが死んでいるところを思い出したのかレイナがより一層泣き始めた。
「レイナはミネと仲が良かったものな……君はミネの分だけ長く生きてくれ。」
「はい、はい、もちろんです……!」
ロンがレイナを慰めているとギルがロンに言った。
「お前……これからどうすんだ?」
「…………俺はついさっき言った通りもう戦えない。そうだな……少なくとも戦場には出ないことになる。」
その場の全員が息を呑む。
「まあ何をするにしてもこの戦いは他の人間に任すしかない。……これからは特に君たち2人だ。」
レイナとギルを見ながらロンはそう言った。
「俺のスキルで君たちはさらに強くなっているはずだ。俺のスキルで君たち2人に俺のスキルを渡しているはずだしレベルも上がっているはずだから本来、時間がかかるようなレベル上げもしなくていい。今の君たちなら2人だけでもノワールに勝てるかもしれない。」
「…………分かった。俺がお前の分まで活躍してやるよ!」
ギルは暗い雰囲気を振り払おうとしているのか元気のある声で言っているが、無理をしているようにも見える。
「分かりました……私も頑張ります。勇者様の一番弟子ですから……!」
レイナも涙を拭って立ち上がった。
無理矢理にでもかもしれないがそれでも立ち上がることができるならこれからも強くなれるだろう。
その後はこれからのことを少し話し合った。
「そういえば忘れない内に魔法で保管してた俺の剣は全部渡しておこう。」
「勇者様、その剣ってそういえばなんで勇者様が保管してるんですか? 勇者様の性格からして独占したいっていうわけでも無いでしょうし。」
レイナの疑問にロンが苦笑しながら答える。
「まあ普通の人間じゃ使いこなせ無いっていうのがあるけど……呪われてたりするんだよね……。」
武器の中には呪われている武器というものが存在する。
魔導具の一種なのだが聖魔法を使える人間でないと使うと危険な効果の魔法が付与されていてたりするものを呪われている武器という。
「けど、今のレイナは俺の聖魔法も受け継いでいるみたいなんだ。」
「えっ! そうなんですか?」
「ああ。しかもレイナは魔力も上げていたしこれならこの武器も使いこなせるだろう。」
するとロンは不思議な形の剣を取り出した。
「? これは?」
「カタナというものらしい。……レイナの使っている型や動きとかから調べたところレイナが夢で見たという剣士の剣術は本来この剣を使う時のものらしいんだ。」
「……確かに夢で見たものと似ている……。」
レイナはロンから恐る恐るカタナを受け取ると鞘から刀身を出してみる。
ぱっと見るだけでも背筋がゾクゾクするような迫力がある刃だった。
「これは…………。」
感嘆の声を漏らすと周りに人がいないところへ行き、幾つかの型や動きを試す。
「凄い……今まではしにくかった動きまで完璧にできる……勇者様、ありがとうございます!」
「どういたしまして。あとそういえばそれは魔導具らしいから何かしらの魔法が付与されているはずだよ。」
「分かりました! ……あっ! そういえばこの剣の銘は何ですか?」
ロンは少し考えてから言った。
「たしか…………『終息』……だったかな。」
「『終息』……ありがとうございました! じゃあさっそく色々試してみます!」
そう言うとレイナはあっという間に訓練場へ駆け出していった。
「せっかちだなぁ……そうだ。ギル、君だけに話がある。」
ギル以外の人間にはひとまず出てもらってからロンは話し始めた。
「レイナのことだ。」
「あ、ああ……あの一族についての話のことか?」
「うん……あのことはレイナには話さないでおこう。レイナのことだ。自分の呪いで戦争が起こったとか思うかもしれない。」
「分かった。」
そういうとギルも立ち去っていった。
「…………頑張ってくれ。俺にはもうこれくらいしかできないから……。」
1人残されたロンはふと独り言のように言った。




