第六十六話 力の継承
ロンはギルを看病していた。
相変わらず毒はギルを蝕み続けておりギルの体力は減り続ける一方だ。
「……何か方法は無いのか。」
これで時間の猶予があるならともかく今回はほとんど無い。
運が良くても一日。
悪ければ数時間以内に死ぬと言われている。
これでもしギルが毒耐性のスキルを持っていればまだよかったのだろう。
毒耐性のスキルはレベルが低くてもかなりの猛毒にも効果がでる。
さらには毒耐性のスキルの効果の一つで免疫ができてそのまま解毒、さらにはスキルレベルが上がる可能性すらある。
つまり毒耐性というスキルは最初の一レベルを上げるのが大変で慣れれば難しくない。
だがギルは毒耐性などのスキルを持ってはいない。
「やっぱり何とかしてギルに毒耐性のスキルを手に入れさせるしかない。とは言ったものの……。」
毒耐性のスキルを獲得、スキルレベルアップをするのに一番簡単な方法は自ら毒を飲むことだ。
死なない程度の弱さの毒を飲んでスキルが手に入れるまで放置することで多少しんどいが簡単に手にはいる。
その弱さの特殊な毒をわざわざ用意するのも面倒だしそこからもしんどい目に会いながらスキルレベルを上げるのも面倒なので実は簡単なわりに毒耐性のスキル持ちは少ない。
しんどいというのも大きく、実戦に通用する程度のレベルにまで上げるのはかなり辛いのだ。
だが今回その方法は使えない。
なぜならギルは猛毒に蝕まれているのだ。
これ以上少しでも毒が増えてしまえば即死すらありえる。
そしてこれ以外に毒耐性をすぐに手に入れる方法は無い。
「何か……何か方法は……。」
そのうち、ロンに眠気が襲ってきた。
ずっと戦い続けて疲れが溜まっていたのだろう。
そのまま瞼がゆっくりと落ちていきロンは眠りについた。
気づいた時、ロンは真っ白な空間に立っていた。
「ここは……。」
その時、その空間と同じように真っ白な人間が現れた。
「なっ!?」
気配も生気も感じられない顔の無い人間だった。
「お前は何者だ!」
咄嗟に剣を抜こうとするが寝ていた時に腰に下げていたはずの剣が無い。
魔法も発動しない。
すると白い人間が感情のこもっていない声で喋り始めた。
「私はスキル。スキルは私。」
「はっ?」
「私は貴方が持っているスキル、『継承』の化身と思ってもらいたい。」
「『継承』?」
記憶に無いスキルにロンが首を傾げる。
だがふと思い出した。
ヴェールを倒した時にレベルがかなり上がっていたはずだ。
恐らくその時手に入れたスキルなのだろう。
「スキル『継承』は他人に自分の力を譲渡するスキル。」
「それはつまり俺は弱くなるが他人を強くできると?」
「そういう解釈で構わない。」
「じゃあ先に聞きたいことがあるんだ。何故こんな空間とお前がいるんだ? 他のスキルにこんなものが出てくるようなスキルは無いはずだ。」
「このスキルの効果。スキル所持者がこのスキルを使うべきタイミングにのみこの空間が現れ、スキルを使うことができる。」
「なるほど……。」
「このスキルを使えば貴方はlv1になりそこからレベルアップすることは無くなる。そして全スキルを失う。」
それを聞いてロンは絶句する。
「デメリットが凄まじいな……。」
「ただし失った分だけ貴方が選んだ人間は強くなる。」
「そういうことか……この時、使うべきというのはどういうことなんだ?」
「そういう運命だ。貴方はギルと人類を助けるためにこの選択を必ずするという。」
「ギルが助かる……?」
「ギルへスキルやレベルを譲渡すればギルは助かる。そして強い人間が助かれば人類も助かる。」
ギルを助けることができると聞いてロンは信じられない思いだった。
「ギルを助けられる……。」
だが冷静な思考がロンの頭の中によぎる。
「だが俺が戦えなくなれば大変なことになるのでは?」
これは自意識過剰でも何でも無く事実である。
ロンよりも強い人間は現時点ではいない。
そんな戦力を失えばどちらにせよ人類が滅ぶかもしれない。
「レイナにも力を継承すればいい。」
「レイナにも? 複数人に継承できるのか。」
「その分、1人に行き渡る力は低くなる。」
「だが……それなら……。」
ギルとレイナは時間が足りなかったからこそまだロンよりは弱い。
もしもう少し時間があってスキルやレベルがもっとあればロンを超えていただろう。
つまりロンという勇者を失う代わりにギルとレイナという2人の勇者ができることになる。
断る理由は最早無くなった。
「スキルを使おう。」
「…………。」
そこで初めて白い人間が感情のようなものを見せた。
その感情は戸惑いだろうか。
「……貴方はこのスキルを使えばレベルが大きく下がるため二度と戦えることは無くなるでしょう。それでも、それでもこのスキルを使いますか?」
だがロンに迷いは無かった。
「ああ!」
その時、ロンの体が輝き、光が体の中から飛び出した。
現実でも同じようになっていた。
ロンから出てきた光は二つに分かれ、片方は海の向こうにいるレイナへ、もう片方はギルへ向かった。
光はギルへと吸い込まれ一際強く光った。
光がようやく落ち着いた時、ロンは視界が暗くなり、ゆっくりと倒れていった。




