第六十四話 怨嗟の断末魔
炎がヴェールを包み込んでしばらくしてようやく炎が消えた。
そこには見るも無残な姿へと変貌したヴェールがいた。
全身が炭のようになっており立つことすらできないようだ。
「ごほっ! ごほっ! おのれぇ……! ごほっ!」
咳をするたびに血を吐いており最早死ぬのは時間の問題だろう。
スキルも発動していない。
「私はまだ死ねない! まだ、まだ復讐は終わっていない!」
必死で立ち上がろうとしているが力は入らず、魔法を放とうとしても魔力に意識を集中させれない。
そんな姿を見てロンはふと話しかけた。
「お前はどうしてそこまでして復讐したいんだ。」
それを聞いてヴェールは動きを止めてゆっくりと口を開いた。
「…………千年以上前、森の一つが人類によって焼かれた。そこにいた生き物は全て殺し尽くされた。そこから数々の森が同じ道を辿った。私は人間を止めようと話し合いを求めた。そして人類はそれを了承して話し合いの席を用意した。」
そこで一旦口を閉じた。
そして強い痛みに襲われたような表情になった次の瞬間、怒りに満ちた声で話し始めた。
「だが貴様らは裏切った! 話し合いのために行った場所にあったのは武装した人間の軍団と大量の罠だけだった! 森を人間から守る私が貴様らには邪魔だったのだ! しかもそこから何とか森へ帰った時に残っていたのは肉が焼けた匂いが漂う灰しかない森だった! 私がいない間に人間どもは森の生き物を殺し、捕らえ、燃やした! あの景色を誰が忘れるか! 私は何があっても貴様達を許さない! 人間どもは卑怯で傲慢で強欲な奴らだ! …………私は生命の精霊。生命を奪う奴らを殺し尽くす者。1人でも多く道連れにしてくれる…………!」
そこで息切れしたのか傷が痛むのか咳き込みながら口を閉じた。
命が尽きる時が迫ってきているのだろう。
あきらかについ先程よりも着実に弱々しくなっている。
「じゃあもう一つついでに聞いておこう。」
「…………。」
「お前は数カ月前にレイナに興味を持っていた。それは何故だ?」
「そんなことを話してやるほど私は親切ではない。」
そう言ったが死期を悟ったのか表情を憤怒から諦観に変えて話し始めた。
「……少しくらいはいいだろう。レイナの一族は戦火に必ず巻き込まれる一族らしい。定期的に何故か現れる黒髪の人間は何があろうと必ず大きな戦争に巻き込まれ苦しめられることとなる運命…………それしか知らん。話しはこれで終わりだ。………………ああ、お前らを殺せれたならば……。」
そこで話しは終わった。
「親切に教えてくれてありがとうよ。……なあ、お前は人類の敵だ。お前にどんな過去があって、それがどれだけ同情するべきことでも俺たちは止まるわけにはいかないんだ。だけど、仲良くできる未来がどこかにはあったのかもな。…………じゃあな。」
そういってロンは満身創痍のヴェールへと剣を振り下ろした。
その剣はまっすぐヴェールの首に飛んでいき、首を容易に切り落とした。
ヴェールという神話の魔物を倒したからかレベルが幾つか上がったことが感覚で分かった。
どうやら条件が何か揃ったのか新しいスキルも手に入れたようだ。
だがそれを喜ぶ気にはならなかった。
「…………後味が本当に悪いな。人類の敵を倒した喜ぶべき時なのに。にしてもレイナの一族……ひとまず今はいいか。…………じゃあ帰るか。」
「…………あ、ああ…………。」
後ろで成り行きを見ていたギルにそう言い、ギルの掠れるような声を聞くと人類側の陣地へ2人は歩き始めた。
その時、バタリという何かが倒れる音がした。
ロンが振り返るとそこにはつい先程まで立っていたギルが倒れている姿があった。
「なっ!?」
慌てて様子を確認するために近づく。
戦場にいたことがあるおかげで相手の状態を確認したり応急処置したりくらいならできる。
ギルは荒い息を繰り返しており苦しんでおりギルの顔色が真っ青である。
「くそっ! 一体なんだっていうんだ!?」
回復魔法も試してみるが全く効果は無い。
目立った外傷も無い。
その時、戦闘が終わったことに気づいて状況を確認しに来たのか人類側の偵察兵がいることに気づいた。
偵察兵の方もロン達に気づいたようだ。
「勇者様!? ヴェールはどうなったのですか!?」
慌てて近寄ってきた偵察兵にロンが早口で状況を説明する。
「ヴェールは何とか倒した! けどギルが何故か突然倒れて回復魔法も効かない!」
「ギル様? 何故ここに? 今は陣地に……いや。今はそれどころじゃ無い!」
偵察兵が首を傾げて何かを小さく呟くように言ったがロンは焦っていて気づかなかった。
そして偵察兵もベテランなのか一刻を争う状況だと理解しておりそれ以上余計なことは何も言わなかった。
その後、偵察兵を陣地へ報告に行かせ、その後を追うようにギルを支えながらロンも陣地へと向かった。




