第六十話 孤軍奮闘
5時間前まで戦闘があった荒地にたった1人で立っている人間がいた。
もちろん元勇者のロンだ。
ロンは最後の準備も終えてヴェールと魔物達を待っていた。
そして待ちながらふととあることを考えていた。
仮眠している時に見た夢のことだ。
(ずいぶんと懐かしい夢を見たもんだな。)
その夢は数年前の魔王軍と人類の戦争の頃の夢だ。
まだ戦友が生きていた頃の。
(あいつがあの世からわざわざ激励しにきたのかもな。…………あの頃は辛かったけどそれでも楽しいこともあったから何とかやっていけたな。あいつとのやり取りは楽しかったなあ。)
その時、樹海からざわめくような音がし始めた。
(さて、あいつの期待にも応えるために頑張っていこう。)
そして樹海からヴェール率いる魔物が大量に出てきた。
大量といってもある程度厳選しているのか数が少ない。
その分一匹一匹が強いし少ないといっても1000はいるだろう。
だがロンに怯えは無かった。
勇者時代の頃にも同じかそれ以上に大変なことなどあったのだから。
「さあ! かかってこい! 俺の名前はロン! ここから先へ行けると思うなよ!」
そう言うと同時並行で幾つもの魔法を発動させた。
普通の人間は同時並行ですることは技術的にも魔力の必要量的にも不可能だ。
技術はまだしも魔力総量だけはロンにもどうしようも無かった。
だがたった1人で1000体以上の魔物に挑むのに策がないわけが無い。
なので考え出した作戦はできる限り多くの魔力をあらかじめ物に込めておいて魔法を使うときにそれから取り出すという作戦だ。
この作戦のために生き残っている魔法使い達には全力で魔力を込めてもらったのだ。
これならたった1人で大規模な魔法も放てる。
すぐさま魔法は完成した。
そしてロンは躊躇なく魔物へと発射する。
樹海の魔物が相手ということなので炎魔法ばかりだ。
剣の形をした炎が魔物を串刺しにしてすぐに火達磨にした。
魔力は物に貯めているおかげでかなり余裕があるので妥協する必要も無い。
上位の魔物達ですら運が悪ければ急所に当たるなどして絶命していった。
少しすると魔法に耐性の高い魔物達が先頭になって突っ込んでくる。
時々魔物達の後方から援護のためなのかロンに向けて魔法が飛んでくる。
違う種族の魔物同士が協力することなど一部の例外を除けばないのでヴェールが指揮しているのだろう。
飛んできた魔法は相性のいい魔法をぶつけることで相殺しながら炎などの実体の無い魔法から氷や岩などの物理的な面もある魔法を撃ち始める。
これなら魔法に耐性があろうとひとたまりもない。
ロンはスキル『勇者』のおかげでたいていの魔法には適正があるため状況に合わせて使い分けれることが強みなのだ。
だがさすがに足の速い魔物がロンへと接近してきた。
最初に辿り着いた狼の魔物がロンへと飛びかかる。
だが残念ながらロンは剣も一流と言っても申し分ないほどなのだ。
経験豊富なわけでもないただ力が強いだけの狼ごときが相手になるわけもなくロンが剣を抜きながらそのまま切り捨てる。
その後続の魔物には強化系の魔法の逆の弱体化系の魔法を放って時間を稼ぎながら怯んでいる魔物を斬りつけていく。
地面を泥濘にするだけでもたいていの生き物は動きが鈍る。
そうして動きが鈍った魔物は罠のように仕掛けておいた条件が揃った時に発動するように設定した魔法が殺してくれる。
1人だけなので軍隊と違って交代ができないので連射はできないがそれでも少しずつ、されど着実に魔物の数を削っていくのだった。
全ての魔物を倒さなくてもヴェールの命令で動いているだけなので生き物である以上、行っても死ぬだけと分かれば逃げていくのだ。
なのである程度殺せばいい。
そう思いながらロンは魔物を倒し続けた。




