第五十九話 希望は一度、絶望は何度でも
参戦した兵士12万人。
生存者1万人。
その内、重傷者7000人。
軽傷者2000人。
無傷1000人。
これが『インフェルノ』作戦の被害だった。
ちなみに回復魔法の使い手も大半が戦死しておりこれ以上戦える者は増えないと思っていい。
「これが今回の被害です。」
情報をまとめた兵士が暗い顔でロンに資料を渡す。
「………………。」
それを見ると想像を絶する被害だった。
ロンも声がでない。
12万の兵士は全員ヴェールへの対策を十分して作戦も練っていたはずなのだ。
それでこの被害なのだ。
ヴィヨレでは大戦果を上げたもののこの情報は世界中に影を落としていた。
さらに言えば援軍はそう簡単には来ない。
そもそもこのレベルの戦いに参加できる最低条件を越える人間自体が余りある訳では無い。
さらに言えば相性のいい炎魔法の使い手の大半が死亡した今、ヴェールと相性が良いと言える人間はほとんどいないのだ。
レベルだけで言えばヴィヨレ戦に参加した人間を連れてくればいいが海を越えるのには時間がかかるためすぐには来れない。
それらの絶望的な状況にさらに追い討ちがかかる情報があった。
「樹海で炎から生き残った魔物が集結しています。さらに上位の魔物も多数確認しました。」
「ヴェールめ……!」
思わず悪態をつくくらいには絶望的な状況だ。
だが追い討ちはさらにあった。
「そういえばギルは?」
「…………重体です。未知の毒で解毒薬も効果がなく、回復魔法も効きません。毒耐性などのスキルがあればまだ良かったのでしょうが……。」
ギルはヴェールの魔法で出てきた樹木の蛇の毒に侵されており現在は意識すら無い危険な状態なのだ。
戦力が無い以上、ロンは時間稼ぎをするにしろ倒すにしろたった1人で戦うしかない。
「ヴェールはあとどれくらいで来そう?」
「詳しくは分かりませんが戦力が集結しきった時に来ると考えた場合、5時間後です。」
「樹海は広いからまあそんなもんか。…………微妙な時間だね。罠を仕掛けるには短い。休むくらいしかできないか。まあ休めるだけまだましか。君たちは監視を続けてくれ。俺は少し休むよ……敵の総攻撃の時に呼んでくれ。」
「了解しました。」
ロンはすっかり人が減って静かになった基地を通って自分に割り当てられたテントに入った。
「さて、休むとは言ったけど対策は練らないと…………まずあの回復。ギルは2回も致命傷を与えた。それは間違いない。なのになんで死んでないんだ? 即死してもおかしくない怪我だったのに傷すら残っていなかった。けど2回目は不完全な回復だった。どういう違いなんだろう。条件でもあるのかな…………。」
ロンはかなり考えたが考えた所で答えが出るわけもなく結局諦めてさっさと寝ることにした。
―その頃、樹海では―
「あの化物め……何なんだあの炎は。昔、優秀な炎魔法の使い手がいたが……あいつにももしかしたら追いつくかもな。…………傷が痛む。おのれ……まさかあのスキルを2回も使ってしまうとは想像してなかった。せめて場所を選ぶべきだった。」
すると後ろから配下の魔物が声をかけてきた。
ヴェールが召喚した魔物では無い。
この森に元々いる魔物だ。
元々いる魔物の中では最も強い魔物でヴェールがいる前までは樹海の魔物を率いる主だった。
Sランク中位のシエルホークという空の支配者とも言われる鷹のような魔物だ。
上位の風魔法と雷魔法を操り時には音速で飛ぶことすらできる魔物でロンが相手でもかなり粘れるし逃げるくらいなら簡単にできる。
知恵もありたいていの人間よりも賢く、人の言葉も解する。
「ヴェール様。」
「何だ?」
「…………話があります。」
「ほう。」
「争いをやめましょう。人間と全面戦争したら貴方様がいる限り勝ちはするでしょう。ですが…………皆死んでしまいます。何も残らない。森が焼かれた時点でずいぶん死んでしまった。これ以上死んでしまったら――」
「黙れ。」
シエルホークとヴェールの間には圧倒的に実力差があるためシエルホークは口を紡ぐ。
「人間どもは傲慢で強欲で愚かな連中だ。あいつらが生きている限り他の生き物は苦しめられる。奴らはこの世界の生命にとって害悪な存在だ。必ず絶滅させなければならない。」
シエルホークはすっかり黙り込んだが無言で考え事をしていた。
(この方は昔、人間に悲惨な目に遭ったという。きっと未だにそのことを忘れていないのだろう。私はその時はまだ存在してもいないから私に理解することなどとうていできないし理解した気になるべきでもないだろう。だがそれにしたってこれは止めなければ。だが皆は強い者について行く。どうすることもできないのか……。)
そうして考えている内に元々支配していた魔物達はヴェールの元で結集しつつあった。
五十三話の後ろに番外編を追加しました。
ぜひ読んでください。




