第五十八話 再生と蝕み
ギルの槍がヴェールの頭へと突き刺され血を大量に流しながら倒れ込みそうになるヴェールを見て倒したと全員がほぼ確信した。
その次の瞬間、ヴェールから膨大な魔力が放出されギルが吹き飛ばされる。
ただの衝撃波なのか目立った傷は無いが驚愕で動けない。
なぜなら致命傷を負っているヴェールが倒れる寸前で踏みとどまったのだ。
「惜しかった、だが残念だったな。」
そうヴェールが言うと、あっという間に傷が修復された。
魔王との戦いでたいていのことでは驚かないロンですら驚きすぎて反応できない。
重傷が治るくらいなら驚かないがあきらかに即死してもいいほどの傷で死ななかった挙句、回復したのだから誰でも驚く。
「あっ?」
次の瞬間、傷を負う前と同じかそれ以上の威力の魔法が発動された。
そして発動されたことで出現した樹木の蛇の一匹が素早い動きでギルの横腹に喰らいついていた。
「くそっ!」
戦闘経験豊富なロンがすぐに樹木の蛇を魔法で焼き尽くそうとするが樹木の蛇は一向に燃えない。
そもそもギルは超高火力の炎をまとっているのだ。
それで燃えないなんて意味が分からない。
「ぐああっ!」
ギルが突然悲鳴を上げる。
目を凝らすと傷口が紫色に変色してることが分かった。
(まさか毒!? 植物だしあり得ないわけじゃ無いけどそれはヴィヨレの専売特許だろう!?)
ヤケクソ気味に考えながら燃やすのは諦めて剣を抜いて樹木の蛇の頭を切り落とす。
「大丈夫か!?」
ギルの前に立ちヴェールの動きを警戒しながら背中にいるギルの状態を聞く。
だが後ろにいるはずのギルから返事が返ってこない。
かすかに苦しんでいる声が聞こえるだけだ。
どうやら痛みで声すら出せないらしい。
(ギルは毒で戦闘不能! ヴェールは謎の超回復で完全に復活したし魔法が強化されてる。状況は最悪だ!)
戦況を高速で判断しながらヴェールを睨む。
「毒はヴィヨレの得意技じゃ無いのか?」
「まあな。だがだからといって使ってはいけないわけでは無いだろう? そもそもヴィヨレと私では格が違う。あいつにできて私にできないことなど中々無いのだよ。」
「七色の魔物は強さが均衡してるって聞いてたんだけどなぁ!」
「均衡といえば均衡してるが単純な実力はバラバラだ。」
「ちなみにヴィヨレとお前はどれくらい強いんだ?」
「相性にもよるが一体一ならヴィヨレは最弱、私も四番目だったかな。」
機嫌が、良いのか饒舌だ。
それを利用して時間稼ぎ兼情報収集をすることにした。
「信じらんねえ…………ちなみにノワールは?」
「二番目だな。アンフェールが一番、ノワールが二番、ブランシュが三番、私が四番、アジュールが五番、フードルが六番、そしてヴィヨレが最後だ。」
「…………ペラペラ貴重な情報をどうも。」
「ハハハハ。このスキルは強力だが使った後の思考力が若干低下するのがやはり問題だな。」
「スキル?」
「おっと、さすがにそこまで言うほど愚かじゃない。」
その時、魔力が無かったはずなのに地下から樹木の根が槍のように突きだしてきた。
すぐにステップで避けるが完全には避けきれず腕に傷を負った。
「ちっ!」
「これを避けらるとは思わなかったよ。魔法で出現させずにわざわざ元々あった木の根を呼び寄せたのだがね。」
つい先程までとはうってかわってとても冷静な声でヴェールはさらに攻撃を仕掛ける。
ロンは腕に傷を負ってしまっているため剣や魔法が満足に使うことができない。
そのため攻撃を受け損ね、傷が増えていく。
苛烈な攻撃の前に回復魔法を唱える時間すら与えられない。
「うぐっ!」
ついに足に攻撃をくらってしまう。
ヴェールが止めを刺そうとより一層強力な魔法を発動させようとした。
まさにその時、ヴェールへ突進する人間がいた。
「ギル!?」
毒で動けなくなっていたギルだ。
ヴェールが振り向いた時にはギルは槍の間合いまで近づいており二回目となる頭への攻撃を行なった。
だがまたヴェールから膨大な魔力が溢れ出し傷が完全に回復した。
だが傷はかなり治っているものの一部の傷は治っておらず疲労も見てとれる。
「…………このスキルを2回も使わされるとは…………! うっ……仕方ない。今日は帰らせてもらおう……。」
そう言うとヴェールは森へと血を垂らしながら歩き始めた。
ロンは足に傷を負っており、しかも予想以上に深手なのか回復魔法が中々効かないためすぐには追撃できない。
ギルの方を見ると苦しんでいるのかまた蹲ってしまっている。
どうやら痛みを無視して無理矢理動いたことで症状が悪化しているらしい。
以上のことを確認した時にはヴェールは既に樹海へと溶けるように消えていた。
「くそっ!」
死体が溢れる戦場の真ん中でロンは罵り声を上げながら自分の傷へ回復魔法をかけることしかできなかった。




