第五十六話 死の森
戦闘が始まってしばらくしてヴェールが召喚したトレントなどの魔物があらかた討伐されてきていた。
残っている残党も弱っているのが大半で被害は出たもののなんとか倒せていた。
「さて、まだ手があるのかな?」
ロンもヴェールが絶体絶命の状態だと判断した。
それも当然だ。
ヴェールの攻撃は全てロンが完封しているし木の魔物に相性が最高のギルや炎魔法の使い手もまだ多数いる。
ヴェールの配下も全滅した。
ここから反撃できるチャンスがあるとは思えないのだ。
「…………。」
「死んでもらおう!」
「…………。」
絶体絶命の状態なのになんの反応も示さないヴェールにロンは疑問を持った。
その時、ヴェールが突然小さく笑い始めた。
「クククククク。これでもう勝ったつもりなのかね?」
「何を言って――」
次の瞬間、今まで見たことのない魔法をヴェールが発動させた。
効果範囲はこの戦場全て。
「なっ!?」
ロンは魔法特化なので分かる。
そこら中の魔力が全てヴェールへと集まっていくのが。
魔力というのはどこにでもある。
そして死体にも多くある。
さらに言えば戦場には大量の魔物や人間の死体があった。
それらの魔力を全て吸収したのだ。
「ここからが本番だよ。」
ヴェールがそう言い放った次の瞬間、今までもは比べ物にならないほどの魔力を放出し始めた。
「ヴェールはそういえば草木を司る精霊だったな…………木のように栄養を吸収してるのかもね……。」
ロンが予想しているとヴェールが面白そうに笑い始めた。
「草木を司る、か……クククククク。」
「? 何がおかしい。」
「私は草木の精霊では無い。」
「…………少しは予想していたけど本当だったのか。草木の精霊にしては力が膨大すぎた。」
「なんの精霊なのか当ててみることだな…………。」
少しトーンを落とした声でそう言うと魔法を使ってそこら一帯の地面を泥沼の状態にした。
戦場全体がなっており相変わらずの攻撃範囲だ。
「土魔法!? やっぱ草木の精霊じゃないなぁ……。」
「死ね。」
未だに冷静なロンに苛立ったのかヴェールがまたもや大規模な魔法を発動させた。
またもや召喚魔法だ。
「もう見飽きたよ…………はっ!?」
出てきたのはクリーエイプという猿のような魔物だった。
高さ5メートルの猿だが一番の特徴は強力な土魔法を使えることだ。
場合によってはSランク下位の強さの魔物だ。
そんな魔物が十体は見えた。
「そんな馬鹿な!? ついさっきまでと魔物のランクが違いすぎる!」
クリーエイプを知っている人間は全員悲鳴を上げた。
一匹だけでも小国が滅びる化け物が十体など悪夢でしかない。
クリーエイプ達は一斉に一つ一つが高火力広範囲の大規模魔法を発動させた。
すると小さい鉄の礫や炎の矢や氷の剣が数万以上魔法陣から出て宙に浮き始めた。
「退避ーーー!! 全員逃げろーーー!!」
ロンが絶叫じみた声を上げ、ほんの一部の者がそれに反応したその次の瞬間、宙に浮いていた魔法の物体が全て突貫してきた。
ギルもロンの声に反応して炎を鎧のように纏って攻撃を防いだ。
周りの反応できた一部の人間も各々の方法で身を守った。
そして次の瞬間、爆音が響き一帯が吹き飛んだ。
気づいた時にその場に残っていたのは追跡墓まで草原だった荒れ果てた大地と夥しい数の兵士の死体だけだった。
「そん、な…………。」
「嘘だろ? な、なんで…………。」
「そんな馬鹿な……!」
「あ、ああああぁぁぁぁーーー!!」
致命傷を免れたが重傷だった者は痛みに対して悲鳴を上げなんとか攻撃を耐えられた一部の手練れの人間も凄惨な光景を見て悲鳴を上げる。
ぎりぎりで生き残っているのはそこそこいるが戦えるのはもう百人くらいしか残ってないだろうか。
「戦えるのは百か。思ったよりも多いようだな。クククククク! ああ面白い! 復讐はまだ終わらない……!」
いつもは冷静なヴェールだが今は愉快そうに笑っていた。
「…………復讐をするのがそれほど楽しいか。」
ロンが冷たい声で言う。
さらに続けて言う。
「人を殺すのがそれほど楽しいか。」
ヴェールが笑いながら話す。
「もちろんだよ……あの惨状、何千年経っても覚えている。あれからどれだけ人間を憎んだことか! どれだけ恨んだか! どれだけ殺したかったか! どれだけ苦しかったことか! …………ようやく復讐を果たせる。」
きっとロンにも予想できないような出来事があったのだろう。
一年間に出会ったノワールの負の感情と微妙に種類は違ったがそれでも負けず劣らずの感情だと分かった。
ロンはまだ戦える人間に指示を出した。
作戦はシンプル。
ロンとギルでヴェール、それ以外の人間でクリーエイプを相手するのだ。
すぐに戦闘が始まる。
「ギル、先頭で頼む!」
「おうよ!」
ヴェールとの戦いでは炎を纏うことで防御力が高いギルが先頭で突っ込んだ。
そしてロンはその後ろから魔法で援護しながらヴェールへ近づく。
「私を殺せるものなら殺せばいい! 私の復讐はまだ終わらない……!」
ヴェールも高らかな声を上げ魔法陣を出現させた。
ヴェールと人類の戦争は激化していくのだった。
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