第五十二話 命を賭けて
ヴィヨレが馬鹿にしたような声で言う。
「モウ1人ニナッタヨウダガマダ勝テルトデモ?」
「ええ、もちろん。」
「ホウ。ソンナ方法ガアルナラ聞イテミタイモノダナ。ソコノ足手マトイヲドウスルノカモナ。」
挑発に乗らずあくまで冷静に勝つための方法を考えた。
そしてゆっくりと剣を鞘に収めた。
「ホウ……諦メルノカ?」
剣を収めたことをヴィヨレは諦めたと判断したらしい。
「…………。」
段々と感覚が研ぎ澄まされる。
雰囲気が変わったことにヴィヨレも気づいたのか警戒している。
そしてゆっくりとヴィヨレへと歩き出した。
走り出すもなく、ただ無防備に歩いていることにヴィヨレは困惑しているようだ。
「ナニヲスルツモリダ?」
ヴィヨレは困惑しながらも油断なくレイナへと鎌を振るった。
次の瞬間、レイナはヴィヨレの鎌を切り飛ばしていた。
「チイッ!」
ヴィヨレがもう片方の鎌もレイナへと突き立てる。
するとそちらの鎌も切り飛ばされていた。
「私も数カ月の間ずっと遊びほうけていたわけじゃないからね。」
「…………舐メテイタナ。本気デカカルトシヨウ。」
すると切り飛ばした鎌が一瞬で生えてきた。
さすがにレイナも驚愕の声を上げた。
「ええっ!?」
「スキル『超再生』。コレガアル限リ我ハ死ナンモノト思エ。」
さすがのレイナも絶句している。
「コノスキルノオカゲデ心臓ヲ貫カレルカ首ヲ切リ落トサレナイ限リ死ナン。」
「逆に言えばそうすれば殺せるのね。」
「威勢ノイイコトダ。」
レイナはまたつい先程のように斬りかかる。
だがヴィヨレはリーチの差を活かして腕の鎌と魔法のみを使って少し離れた所から攻撃する。
腕ならば何度切り落とされても大丈夫なので腕を盾にして急所はレイナから距離を取る。
「くっ!」
「クククククク。イツマデモツカナ?」
レイナはヴィヨレの巧みな立ち回りに翻弄され急所へと攻撃ができていなかった。
その時、魔法の矢で体を何箇所か貫かれていたミネは傷の応急処置をしながら考えていた。
(今の所、私はただの足手まとい。しかもスタミナ特化のレイナでも魔物のヴィヨレほどのスタミナでは無いからこのままじゃ疲れた所を殺されてしまう。周りの兵士は他の魔物の相手をしてて余裕も無い。私が何とかしなければ!)
ミネの攻撃力ではスキルを駆使しないと役に立てない。
どうにかしてヴィヨレの背後から攻撃しないといけない。
それ自体は簡単だ。
だがそこから投げナイフなどで離れた所から攻撃した所で防御貫通の効果が付いていようが避けられてしまうから意味が無い。
(一体どうすれば勝てる!? どうすれば…………もしかしたら……こうするしか無い。もう考えてる時間も無い!)
ミネはゆっくりと立ち上がりヴィヨレへと走り始めた。
それを見てレイナは驚く。
(なっ! ミネ! 一体何をするつもり!? 動いたら処置した傷が開いちゃう!)
ヴィヨレも当然ミネの存在に足音で気づいていた。
(馬鹿メ! サッキモ後ロカラ攻撃シテ反撃サレタコトヲモウ忘レタノカ! 死ンデオケ! ソレヨリモコノ黒髪ノ女ヲドウスルカダ。)
そして近づいてきたミネをヴィヨレは見向きもせずに尻尾の針で突き刺した。
「ミネーーー!!」
レイナが悲鳴をあげる。
だがヴィヨレとの戦いの最中で他人を助ける余裕も無い。
どうしようもないことをレイナも理解していた。
その時、ミネは体に針を突き立てられて貫通している状況であるというのにうっすらと笑みを浮かべていた。
レイナはその異変に気づいたがヴィヨレはレイナの相手をしていて背後の致命傷を負った人間のことなど頭の片隅にも置いていなかった。
ミネは愛用している投げナイフをヴィヨレの急所目掛けて投げた。
背後からでありスキル『無情』は発動している。
その投げナイフの風きり音をヴィヨレも認識した。
(ソンナ馬鹿ナ!? 体ヲ貫通シテルンダゾ!? ナゼ動ケル!?)
ほぼゼロ距離からでしかも投げた人間が瀕死とは思えないほどの速さの投げナイフを避けたりできるわけもない。
(イヤ、奴ノ攻撃力デ我ノ殻ヲ貫通デキルワケガ……。)
ヴィヨレの敗因はミネのスキルを知らなかったことだろう。
次の瞬間、投げナイフは見事に命中し、ヴィヨレの殻を容易く貫いて体も貫通した。
ヴィヨレに激痛が走り視界が半分暗くなる。
「グアッ!?」
過去を見てもここまでの深手を負ったことがなく、悲鳴をあげる。
(ナニガ起キタ? 視界ガ半分暗イ。マサカ目ガ片方ヤラレタノカ!? 急所ハハズレタノカ? クソッ! 激痛デ頭ガ回ラナイ!)
レイナはほぼ反射的に状況を判断してヴィヨレ目掛けて走り始めた。
(考えるのは後! ミネの頑張りを犠牲にできない!)
ヴィヨレもレイナが走り始めたことを認識する。
(マズイ! 奴ノ攻撃力デ急所ニ攻撃サレタラ致命傷ニナル!)
「オノレーーー!!」
「やあああぁぁぁーーーーー!!!」
レイナは腰に付けている鞘の剣に手を伸ばし一瞬で抜き放った。
周りの兵士や蠍達も戦闘中にも関わらず思わず動きを止めて目を向ける。
戦場に一瞬の静寂が満ちて全員の動きが止まった。
「ソンナ馬、馬鹿ナ……ゴフッ!」
ヴィヨレの体が切られ、傷跡から血を噴き出しながら倒れた。
あきらかに致命傷だ。
周りの兵士や蠍達が目を見張る。
そしてレイナが剣を掲げた。
それを見て戦場の誰もがいろいろな反応をした。
兵士達は歓声をあげて隣の人間と肩を抱き合って涙を流す。
蠍達は群れの主が殺されたことで完全に怯えきっており周りの兵士も気にせずに逃げ出していた。
一つの戦場の決着が今、ついたのだった。




