第四十三話 山の猛威
レイナは一度前哨基地に戻って物資を補給した後、またケルグ山脈を彷徨っていた。
「なんで魔物がこんないないんだろ……?」
レイナはまさか魔物達に強すぎて警戒されているとは一切考えておらず運が悪いのかと思っていた。
なんならレイナのせいで生態系に若干影響が出ているのだがそのことに気づくことは永遠に無いだろう。
「こうなったら山頂の魔物にでも挑もうかな?」
ロンや前哨基地の人間に山頂の魔物は麓よりも強いと聞いていたのでそちらを倒しに行くことにした。
縄張り持ちの魔物なら逃げたり居なかったりすることもないというのも理由の一つに上げられる。
一度決めたら行動は速く、さっそく手頃な高さの山に登頂し始める。
雪が積もっているため時々滑りそうになりながらもなんとか登りきる。
そこにいたのは真っ白な豹だった。
レイナよりも先に気づいていたのか既に臨戦態勢で不意討ちはできなさそうだ。
レイナも実戦経験を積むために来たので正面からやり合うのは都合がいい。
すぐにレイナも臨戦態勢になる。
豹が鋭い牙をレイナへ突き立てようと飛びかかった。
レイナは鞘から剣を抜きながら加速させ居合で切り捨てた。
小さい山の主とはいえそれでも十分強いはずの豹はレイナの攻撃を視認することすらできずにそのまま絶命した。
「初めてしたけど思ったよりも上手くできたみたい……。」
今使ったのはヴィヨレのいた遺跡にいた巨大蠍との戦いの時に見た謎の剣士の技だ。
実は巨大蠍との戦い以降、定期的に寝ている時にあの謎の剣士が戦っている夢をみるのだ。
謎の剣士がひたすら剣を振っているだけの不思議な夢だ。
ただし見るたびに使う技は変えているのだ。
それを見てまるで師匠が弟子に技を見せて教えてくれているようだと感じたり
謎の剣士の剣は刃が反っていたので直剣で真似できるかが微妙だったし実際、その剣士の技と比べるとかなり遅かったがある程度真似はできていた。
謎の剣士はレイナですら視認できない速さだったのだから。
そしてレイナの剣術は真似であってまだまだ目標には遠い。
ひとまずの目標はあの謎の剣士やロンだった。
その2人が現状レイナが知っている最強の剣士だからだ。
体も技術も極限まで鍛えられており最強の剣士というのをとことん考え、自分なりに見つけてそれを追求している人間だとレイナは感じたのだ。
その2人以外で強いかもしれないのはノワールくらいだろうが残念ながら見たことが無いので見ることができる人間をまずは真似しようと思った。
今は謎の剣士の技を研究していた。
夢でしか見れないのだからいつか見れなくなるかなんて分からない。
もう一生見る機会がないかもしれないのだから見れる内にできる限り研究し尽くそうとしているのだ。
謎の剣士の技は今まで見たことのない剣術だったがなんなのかが少しだけ判明したりもした。
前哨基地にいた傭兵の中にこの剣術を知っている人間がいたのだ。
その傭兵は東の島国の出身の人間でレイナが剣術を練習しているのを見てその国で使われている剣術に酷似していると言ったのだ。
その傭兵自身もその剣術を多少だが使えたため見せてもらった。
それを見たら確かにとても似ていたのだ。
所詮は傭兵なのでそこまですごくはないがそれでも実際に見るのと夢で若干ぼやけているものとではまったく違う。
細かい部分はぼやけていてわからなかったりしたしコツなども教えてもらえてのでとても満足だった。
夢はあくまで景色を見せてくれただけで音は一切なく、何かを教えてくれるわけではないのだ。
しばらく歩き回っていると遠くの空で大きな雲が見えた。
ここらへんに住む村人達によるとケルグ山脈は天候が荒れるとかなり危険だということなのでレイナは仕方なく帰還することにした。
―1時間後―
「や、やばい。凍え死ぬ……。」
ガチガチと歯を鳴らしながら吹雪の中歩いているのはレイナだ。
レイナは既に山脈のかなり奥の方まで探索していたので帰るのに時間がかかってしまい、結果的に帰っている途中で吹雪が襲来してしまったのだ。
思った以上に雲が動くのが早かったということも理由に挙げられるだろう。
「天候が崩れるの早すぎるでしょ!」
1時間前までは晴天だったのに今は吹雪なことにレイナは悲鳴じみた声で抗議する。
もちろん天候がそんなことで良くなるわけがなく吹雪がより一層強くなったような気すらした。
1メートル先すら真っ白でほとんど見えない。
地面すら見失いそうなほどだ。
恐ろしく冷たい水と雪が常に降りそそいでいて目を開けることすら難しい。
「このままだと冗談抜きで死んじゃう。早く風とかをしのげる場所を探さないと……。」
テントを建てれば雪を防げたのかもしれないが風が強すぎて建てようとしたら吹き飛ばされてしまったためテントは持っていない。
さらに最悪なのは真っ白でまわりに何があるかなど分からない。
なのであてもなくひたすら歩き続けるしかなくなる。
しばらく歩いていると段々と体の感覚が無くなってくる。
手足が冷え切っていて指を動かすことすら厳しくなりつつあった。
最早何も考えずにただただ足を前へ前へと動かしていると足が地面につかず、すり抜けた。
どうやら吹雪で見えなかったが崖のようなものがあったのだろう。
普段の状態ならともかく既に気力が尽きかけていたレイナには何もすることができずそのまま崖の下へ滑り落ちていきそのままレイナはゆっくりと目を閉じて眠りに落ちるのだった。




