第四十一話 南大陸の闘神教
時は少し遡り1週間前。
ギルが落ち込んで部屋に閉じこもっている時の事。
「俺様があんな奴に負けるはずがないんだ……あんな弱そうな奴に……しかも情までかけられた……。」
ギルは落ち込みながら独り言をずっとブツブツと呟いていた。
それほど負けたことがショックだったのだ。
これには理由があった。
彼は南大陸と中央大陸の間付近の砂漠にある街で産まれて育った。
南大陸といえば魔王と魔王が率いる魔族の住処だ。
中央大陸は人類の中心でありその二つの境目はずっと昔から戦場となっていた。
常に激戦区となっており荒廃した街が各地に点在していた。
そしてその地域に住む人間は先人達のようにならないためにいろいろな対策をしていた。
まず当然防衛戦力の確保だ。
これが無ければすぐに攻め滅ぼされる。
下手すれば魔王がいない時期なのに魔族に攻められる可能性すらあった。
魔王は魔族の中で極稀にでてくる突然変異した個体のようなものであって魔王がいないと魔族もいなくなるというわけではない。
なので魔族の住む場所に近い場所に住む人間は常に魔族の脅威に脅かされることになるのだ。
防衛戦力の確保のために人を集めることになるが誰でも戦いたくなんてないので中々集まらない。
大怪我して体の部位を欠損して不自由な生活を強いられるかもしれないし戦いの中で死ぬかもしれないのだから。
しかも魔族との戦争の最前線の場所で戦うとなるなら死ぬ可能性は格段に上がる。
もし魔族の幹部に出会えば普通の人間では何人いようが抵抗すらできずに死ぬことになる。
だが街の領主などの上層部からすると戦力が集まらないと死活問題だ。
何が何でも集める必要があった。
無理矢理集めても士気が低い兵士だけが集まり、さらに言えば士気が低くやる気のない兵士が生き残れるほど魔族との戦争は甘くない。
なので領主達はそれぞれいろいろな工夫をすることになる。
その中に宗教を利用するという案があった。
戦いに参加することはいいことだというような内容の宗教を流行らせたのだ。
闘神教というマイナーな宗教を無理矢理流行らせた。
結果的に戦いに対する価値観が変わり戦争に参加する兵士が多少なりとも増えたのだ。
ギルも闘神教の考え方について幼い時から聞かされていた。
ギルは別に宗教を信じるような性格ではなかったが影響は少なからずあった。
なので結果的に勝負の勝敗に拘るような性格になったのだ。
元々の負け嫌いな性格も相まって負けたことに強いショックを受けてしまっていた。
するとその時、誰かが部屋の前にやってきた。
「調子はどうだね?」
ドルド将軍だった。
珍しい人間にギルが疑問を持つ。
「あんたか……なんでこんなところに……。」
「君の様子がおかしいと聞いてね。」
「それでわざわざ来たのか……?」
将軍とは軍の最高クラスの階級だ。
そんな立場の人間がたった1人のために足を運ぶなど普通はありえない。
「君は将来有望なのだからそんな人間のために何かをすることは当然だろう?」
「……俺が将来有望? 勇者に何もできずに叩きのめされた俺が?」
「そうとも。確かに君はまだ未熟だ。だがいつかは勇者と同じかそれ以上になれると思っている。」
ドルド将軍に言われてもギルの表情は変わらない。
「俺が今はまだ未熟だということはわかっているんだ。少なくとも上には上がいるだろうとは……。」
「ふむ、ではなぜそこまで落ち込んでいるんだね?」
「……差がありすぎたんだ。」
ギルは相変わらず顔を俯けて暗い表情をしながら言う。
「勇者は俺が思っていた何倍も強かった。あそこまで強いとは思っていなかったんだ。」
ギルは勇者は自分より強いだろうとは思っていたが善戦くらいはできるだろうと思っていたし上手くいけば勝てるかもしれないと思っていた。
「…………。」
ドルド将軍は何も言わずに無言でギルの話を聞く。
「相性によっては勝てるかもと思っていたんだ。」
「…………。」
「だけど圧倒的だった。何もできなかった。抵抗もできなかった。善戦なんて口が裂けても言えないくらい酷かった。」
ギルは今にも泣きそうな表情だ。
一方、ドルド将軍は納得していた。
「君はそれでそこまで追い詰められていたのか。……そういえば君は南大陸出身だったね。それで勝敗に固執しているのか……。」
「……宗教なんて信じてねえけど考え方に影響を与えているのかもな。」
ドルド将軍は声には出さなかったがいろいろなことを考えていた。
(彼は闘神教の考え方に影響されているからこうなっているだけで別に相手の実力と自分の実力の差も見極められずに油断して負けるような愚か者とは違う。それだけ優秀なのだろう。どうやって慰めたものかな。)
そしてふととあることを思い出してそれを使って元気づけれるのではないかと考えついた。
なのですぐに行動に移す。
「闘神教って本来はどんな考え方なのかは知っているかい?」
「…………?」
「闘神教って元々はとある地方の一部の人間にしか広まっていない宗教でね。南大陸の街に広める際に広まりやすいように幾つかの事を変更して発表したんだ。」
「…………。」
聞いたことがないのか呆然としている。
それも当然だろう。
そんなことが知られれば大変なのだから上層部がそんな情報を漏らすわけがないから一般人は知らない。
「変えられてしまったことにはこのようなことがあったらしい。戦いで感じたことを絶対に忘れないようにしろというものだ。戦いで気づいた自分の弱点や敵の攻撃や癖、全てが重要な情報だからそれを忘れるなという考え方があったそうだ。君は勇者と戦ってまったくかなわなかったということを気づいたんだと思えばいい。勇者は敵では無くあくまで味方なのだから勇者にいろいろなことを聞き、いつか超えればいい。」
ギルも幼いころから聞いてきた闘神教のことならば信頼しやすいのだろう。
さらにドルド将軍が信頼できる人間だということも合わさり、話を聞き意外にもあっさりと立ち直るのだった。
その後、ギルはロンにどうしたら強くなれるかを聞いて魔導具の使い方を鍛えることをすすめられたためロンがドン引きするレベルで鍛え続けることになるのはまた別の話。




