第二話 平和な日々と不穏な空気
元勇者の彼は普段はダラダラと家で過ごしているが、用心棒をするのがこの家で住む条件なので今日は村の入り口で見張り台から周りを見ていた。
とはいえ彼はとあるスキルを持ってるから見張り台にいなくても魔物や盗賊くらいすぐ見つけれるのだが。
スキルとはこの世界のありとあらゆる生き物が持っているもので、修行や実戦で得ることができる。
例えば火傷などをよくしていたらスキルの『火耐性』を手に入れることができる。
さらに言えば、この世界ではレベルというものもあり、生き物を殺したり時間経過でレベルが上がる。
より強い生き物を殺したほうがはやくレベルが上がり、レベルが上がればステータスが上がり、スキルポイントというものを貰える。
スキルポイントとはこれを使えばスキルを手に入れることができるポイントだ。
一部のスキルはポイントでしか手に入らないのでかなり重要だ。
ちなみにステータスとは身体能力や魔力、体力、スタミナなどのことだ。
たいていの場合、修行や実戦で手に入ったスキルのほうが強い。
例えば『剣術』というスキルがある。
このスキルは剣をずっと使っていたら手に入る。
もっと詳しく言うと、スキルには一部を除いてスキルレベルがある。
同じスキルならスキルレベルが高いほうが断然強い。
スキルレベルは10が上限で、『剣術lv10』というふうに表される。
そして10になれば上位のスキルに進化する。『火耐性lv10』が進化すれば『火炎耐性lv1』になり、さらに進化すれば『火炎無効』になる。
そして彼は元勇者なのでスキルもレベルも世界最強クラスだ。
一般人のレベルの平均は5だ。
訓練された兵士で20lv。
ベテランの兵士で30lv。
騎士団長クラスで50lv。
70lvならその国で最強と名乗ってもいいくらいだ。
そしてこの元勇者のレベルは94lvだ。
間違いないなく最強クラスだろう。
スキルも凄まじい。
彼は『気配察知lv10』を持っているので見張り台に登らなくても近づいた魔物の数も場所も分かる。
さらに、剣術系のスキルのかなり上位のスキルの『剣聖lv10』も持っているので剣は得意だ。
魔法だって使える。
というわけでこの元勇者がいるだけでこの村が滅ぶなんてことはほぼないと思っていい。
この村は辺境なので魔物や盗賊はしょっちゅう来る。
だから強い者は歓迎されるのだ。
そんなこんなで元勇者が見張っていたらそこに村人が来た。
空き家を借してくれた親切な村人だ。
こいつは元勇者だと唯一知っているのでよく頼み事をしてくる。
そして空き家を借してくれているので断るわけもいかず、仕方な〜く受けているのだ。
「お~い。ロン。どうだ? 異常はあるか?」
とんでもなく今更だが元勇者の名前はロンである。国から逃げ出した身なので基本的には本人も周りの人もほとんど口に出していない。
「全くないよ。平和なもんさ。というか名前で呼ぶな。バレたくはないんだぞ。」
「はいはい。それより魔物がいないならそりゃあよかった。そういえばお願いがあるんだが。」
「またかよ。変な依頼じゃないだろうな。お前は前も変なこと頼んできただろうが。」
「お前は俺のことを何だとおもってんだよ……。まあいいや。近くに山脈があるのは知っているだろ? そこの調査だ。」
「ケルグ山脈だっけ? 何でだ?」
「どうも魔物の様子がおかしいんだよ。本来の生態とは違う行動をしていたりするんだよ。」
「じゃあすぐに行ってみようか……。」
ケルグ山脈とは世界有数の危険地帯だ。
広大な山脈でいろいろな種類のBランクの魔物が当然のようにうろついている。
この世界でははるか昔に魔物にランクというのが付けられている。
GランクからSSSランクまであり、Gランクは子供でも倒せる。
Fランクは大人なら倒せる。
Eランクは大人数人で何とか。
Dランクは一般人ではほぼ無理で、小さい村はDランクの魔物がでたらほぼ壊滅する。
Cランクは軍の小隊くらいで倒せる。
Bランクは軍の中隊クラスでギリギリ倒せるくらいで、街ですら滅んでもおかしくない。
Aランクを超えれば国が討伐隊を組んで挑むほどで、Sランクなら小国が滅んでもおかしくない。
それ以上は全人類が総力を集めて戦うくらいで、SSSランクなんて決められているだけで過去に確認されておらず、神話に出るような化け物くらいだ。
ちなみに魔王はSSランクだ。
それを単独で倒せるこの勇者がどれだけ強いか分かるだろう。
何せ王都では歴代最強の勇者と言われたほどだ。
ということでケルグ山脈は危険な場所であり、その近くにある村などには山脈の魔物は来ないものの、山脈の魔物から逃げてきた麓あたりにいた魔物はよく来るので山脈の様子などは村にとって死活問題である。
だからこそ元勇者のロンに村人は調査依頼をしたのだ。
その時はまだ誰も知らない。
ケルグ山脈にいるとある化け物を。




