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後編


 だが、怪物は不死だった。

 心や体がいくら傷ついても、死ねない存在だった。


 するとそこで、連れ合いが口を開く。


「ねぇ、ジェリー(・・・・)。姿は変わっちゃったけど、気づかない?」


 そう彼女が問いかけると、怪物……ジェリーが反応した。


『死ニ……』

「私よ、ジェリー。あなたと同じくらい大切にしてたお人形が、私を助けてくれたのよ」


 それは、正確な言い方ではなかった。

 彼女の持っていた人形は魔導具ではあったが、それに掛かっていた魔術は、呪い。


『死んだ人間の魂を、その中に封じ込める』というものだった。


 ここに訪れる途中に、偶然その魂の呼びかけに気付いて拾わなければ、一生閉じ込められて動けもしないまま転がっていただろう。

 その人形に『אמת』のチョーカー……ゴーレムを動かす呪具を与えて、動けるようにしたのである。


 血塗れの銀髪紫瞳の人形に宿った、魂だけの少女を。


「さようなら、って言ったでしょう? 戻って来ちゃって、悪い子ね」

『フィ……ズ……』

「そうよ、ジェリー。フィズよ♪」


 既に死んでいる少女……フィズが両手を広げると、ジェリーの体から強酸の毒が徐々に収まり、体躯が縮んでいく。

 やがて、胸元に収まる大きさになったジェリーを抱きしめて、フィズがこちらを振り向いた。


「私を案内してくれたことに感謝するわ。〝最強の狩人〟レーヴァン・テイン」

「ついでに出来る仕事だったからな」


 肩を竦めたレーヴァンは、自分の腰に差していた長剣を引き抜く。


「で、フィズ。お前をここまで連れてきた分の、報酬の話なんだが」

「ええ♪ 私達を殺してくれたら(・・・・・・・・・・)、貴方にこの人形の体とジェリーの死体をあげるわ。お金になるんでしょう?」


 フィズはこちらに近づいて来て、ニッコリと笑う。


「―――そういう約束、だったものね♪」

 

※※※


 彼女の笑みを見て、レーヴァンは剣を握るのと逆の手で、頭を掻いた。


「……まぁ、でもやめとこう。別に大した報酬じゃないしな」

「え?」


 レーヴァンは、不思議そうに首を傾げるフィズの胸元に抱かれたジェリーを見てから、言葉を重ねた。


「聞いたところ、そいつが殺したのはお前と両親を殺した領主一家だけだろ。まぁ、クズだし自業自得だ。それにカネよりお前らがそのままの方が、価値がある」


 狩人達がジェリーを見逃したのは、不死で殺せなかった、というのは勿論理由の一つだろう。

 だが、見せられた記憶に関しての情報を口にした者は、一人もいなかった。


 狩人になるような連中は、粗暴な者よりも、天涯孤独な者や、社会に弾き出されて他に食い扶持を稼ぐ方法がなかった者の方が多い。

 暴力で成り上がるのなら、身一つで魔獣を相手にするより兵士になる方が安全だし、はぐれ者になって人相手に暴力を振るう方が楽だからだ。


 多くの『普通の人々』にとって、狩人は使い捨てなのである。


 自分の境遇にジェリーを重ねて、同情した者の方が多かったのだろう。

 だから報告の中には『自分たちには退治できなかった』という証言が多かった。


 不死の怪物はジェリーだけでなく、このくらいの能力であれば、殺せずとも無力化する方法は幾つもあるからだ。


「もし、お前達が良ければだが、狩人にならないか?」


 狩人の中には、魔獣使いがいる。

 故に、魔物と共に生きることに対して、普通の社会よりも理解があるのだ。


「狩人に? ……どういうこと?♪」

「お前とジェリーは、不死のコンビだからな。死なない人材ってのは、俺たちにとってはかなり貴重なんだ。だから……まぁ、お前達に生きる気があるなら、仕事を斡旋するって話だよ」


 正直、レーヴァンだって『大した罪もない一人と一匹を始末』なんてことは、したくないのである。


「どうしても死にたい、なら、やるけどな。不死の特性と怨霊の呪いは強力だが、大聖女レベルなら浄化出来る。元々、無力化してあの女のところに引きずって行くつもりだったんだ」


 本当はレーヴァンの聖剣でも始末できるが、あえてそう告げた。

 狩人ギルドは、聖教会などの国家に縛られない権力者……『七賢人』の出資と合議によって運営されているのである。


「どっちにしたって、ギルド本部に行かないといけないからな。その間に決めてくれてもいい」

「……レーヴァン」


 笑みを強張らせていたフィズは、徐々に悲しそうな表情になっていく。


「私も、お父様も、お母様も、死んだのよ……?」

「お前の魂は、まだ生きてる」

「フィズだって、怪物なのよ……」

「攻撃されなきゃ無害なんだろ。俺たちの常識だと、それは『安全』な生き物だ」


 この少女は、必死で気を張っていたのだろう。

 つい先日まで、ただの貴族のご令嬢だったのだ。


 本当は死にたくない。


 そんなもの、人間なら当たり前の感情である。

 それでも大切な誰かの為なら、そしてジェリーが望むなら、フィズは自分の命でも捧げられるのだ。


 レーヴァンは、そういう奴が好きだった。

 命知らずよりも、命を大切に思いながら大切なものの為に死地に足を踏み入れる、そういう者の方が、好きなのである。


「死ぬの、痛いし怖かっただろ。生きたいなら、無理せずに生きろよ。親は死んじまったが、ジェリーはまだ居るんだから」


 フィズの人形の両目から、涙が溢れた。

 どう見ても生きているようにしか見えない……フィズが新しく得た『ガワ』は、相当性能のいい人形である。



「私も、ジェリーも……生きてて……いいの?」



「いいよ。狩人になるようなヤツは、皆『お前はいらない』って言われて、それでも生きたいと思った奴らの集まりだからな」


 レーヴァンは、ぶら下げていた剣を床に突き立てる。


「狩人ギルドの掟、第一条は『生きる為に足掻け』だ。望むなら、剣に誓え。それだけで、お前は狩人仲間だ」


 最上位の狩人が相手にするのは、国を気まぐれに崩壊させるような力を持つ怪物であることも多い。

 レーヴァン達狩人は、そうした災厄級の存在に対抗する為に飼われ、育てられているのだ。


 フィズには素質がある。

 本当にギリギリのところで、諦めずに足掻く素質が。


「ジェリーと一緒に、これからも生きていけよ、フィズ」

「……!!」


 主人を失った空虚な屋敷の中に、一人の少女の泣き声が響き渡り……それを境に、領主を殺した不死の怪物は姿を消した。


※※※


 やがて一人の狩人の噂が、人々の間で話題になる。


 絶世の美貌を持ち、クラゲのような怪物を使役する少女。

 彼女はやがて、〝最強の狩人〟レーヴァンと並び称される程の狩人へと成長した。


 彼女は、何故かいつも、目立たない風貌の一人の道案内を連れていた。

 彼はある時、『何故、彼女に気に入られているのか』と問われて、ちょっと困ったような表情で、こう答えている。


『逆だ。何故か懐かれて、行く先々について来るんだよ……』

 

 と。


【レーヴァン〜〝最強の狩人〟と不死の少女〜】Fin.

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