第0話②『500年後への恋』
「プレイヤー?」
「はい、これがきみの『プレイヤーの証』だから、大切に扱ってね!無くしたらゲームに参加できないよ〜?」
渡されたのは、大きめの鍵だった。まるい部分には何かの模様が刻まれているが、その意味はよくわからない。
「意味がわからないですわ」
「そう思って今から説明しようと思ってたの〜!もう、英雄様はせっかちなんだから!あ、自己紹介が遅れたね!私は案内人、ゲームをナビゲートするよっ!」
「ゲーム……?」
首を傾げるソーカ。
「そ、ゲーム!最後まで残ったプレイヤーが好きな願いを叶える、す〜〜〜〜っごくすごいゲームなんだから!」
ナビゲーターの言葉に、ソーカはぴくりと反応した。
「あ!きみ、興味あるみたいだね!」
「本当に……本当に願いを叶えてくれるっていう保証はあるの?」
「勝者にならないと願いは叶えてあげられないよ〜!けどねぇ、きみにはもう『能力』が備わってるよ!」
「能力…………」
ソーカには、能力についての心当たりがあった。
炎の能力とハヤブサの能力。ニュンリンがソーカを助けた時の能力だ。
「初めてだから、教えてあげるね!………………おめでとう!きみの能力は、『薄くなれる能力』だって!能力は、念じれば簡単に発動できるからね!」
「わかりましたわ」
あまりに非現実的な言葉を並べられていたが、数多の戦を経験した英雄はここまででおおよそを理解していた。
説明をし終えたナビゲーターは、いつの間にかどこかへ消えていた。
ニュンリンのいない家の前に立つソーカ。
「ものは試しですわ。あの口ぶり的に罠はないでしょう」
ソーカは念じた。すると、自分の体が極薄の紙のようになった。
そこから隙間に入り込み、扉を開けずに家の中に入ることができた。
「本当に使えてる……本当に簡単ですわ。この能力、隠密に使える。それに質量は保存されてるみたいだから切断攻撃にすると…………なるほど、わかりました。ゲームというものに勝って願いを叶える……やってみせますわ!」
天才のソーカは、一瞬である程度の分析を完了した。その顔には、ニュンリンを探し出すという決意が宿っている。
「望みはありますわ」
ソーカが思い出していたのは、ナビゲーターの『最後まで残ったプレイヤーが願いを叶える』というところ。
「あの口ぶりからするに、きっと無駄に血を流さなくて済む方法がある。なぜなら、『生き残った』という言い方をしてないから。殺し合うしか方法がないゲームなら、『生き残ったプレイヤー』と言って、殺し合いを強調したはず。だからもっと何か別のゲームがあるはず」
それを確かめる方法は今はないが、ソーカはその結論に達していた。
それから、ソーカはゲームに参加した。
怪物を退治するゲームや、頭脳戦をするゲームなど。
中には、戦争のように殺し合いをするゲームもあった。奇しくも、それはソーカの最も得意なジャンル。
順調に勝ち進んでいった。
ただの英雄ではなく、特殊能力という未知の存在、未知の概念が英雄にはついていた。そのため、勝ち進むことは難しくなかった。
そして──
「おめでとう!まさか、初参加で優勝しちゃうなんて!さっすが英雄様!」
ソーカは、初参加にもかかわらず優勝を掴み取った。
謎の空間に、ソーカとナビゲーターの2人が立っている。
「それじゃ、ここに願いを書いてね!一応ある程度は汲み取るけど、不安なら詳しく書いた方がいいよ〜?」
渡されたのは、四角い何かとペン。明らかにハイテクで、この時代に存在するはずのないもの。
(これは、一体どんな技術を使えばこんなことが?…………いや、それを言うならこのゲームも同じね)
何をするかも瞬時に理解した。
ペンで、文字を書いていく。そして、書き終わったら四角い板をナビゲーターに渡す。
「ふーん……こんな願いをしたのは、2人目かな?」
「2人目……?」
「そ、2人目」
「誰?教えて!!」
「それはプライバシーだから教えられないよっ」
ナビゲーターは、ソーカにきゅるんとした表情を見せつける。
家で静かに瞑想しているソーカ。
「なんとかなると思ってたのは甘かったですわ。戦争の時のように、人を殺してしまった……」
すこし悲しそうな顔をしてうつむくが、すぐにまた顔を上げた。
「これで準備はできましたわ。ニュンリンを探すため、そして……このクソッタレの人殺しゲームを終わらせるため…………」
ソーカは、あらためて決意をその瞳に宿らせた──