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空の色は変化し続ける、ということだけが変化しない。~宵と暁の空~  作者: 来夢創雫
「最終章~群青の継承~宵を超えて暁を待つもの」
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「もう一つの真実」

 高垣翔の私物は、封筒に入った二枚の写真だけだった。


 一枚は、白兎レイラの写真だった。黒髪に強い眼差し。隼斗たちが島を襲撃する以前のものだろう。あのとき、真っ直ぐにこちらを見ていた少女──間違いなく、隼斗の記憶に焼きついている顔だった。


 もう一枚は集合写真だった。

 草の上に並んだ、40人ほどの男女。家族らしい組み合わせで、それぞれの隣には小さい子供たちがいる。笑顔が多く、穏やかな時間が流れていたことがわかる。あの島で暮らしていた人々。あのとき、9軒の家を襲った。写真の中央には、穏やかな笑みを浮かべる老人。

 隼斗は視線を移しながら、一人一人の顔を追った。


 そのとき──彼女の姿を見つけた。レイラだ。幼くもないが、まだ少女の面影が残っている。

 彼女の肩に、ひとりの男が手を置いている。父親だろう。優しい目で、娘を守るように微笑んでいた。隼斗はその男の顔を見て、息を呑んだ。


──この顔を知っている。


 背が高く、肩幅が広い。笑うと左頬に小さく火傷の跡が浮かび、右の口元にはえくぼができる。その笑い方も、姿勢も、見覚えがあった。

 写真を通して、かつて見せられた記憶が蘇る。


「これは……和兄の、父親……?」


 かつて、和大がこぼすように語った言葉がある。


「親父、火傷跡があってな。ちょっと笑うとえくぼができる。あんまり似てないって言われるけど、そこだけは自分でも似てると思うんだ」


──その通りだった。


 あの優しげな男は、和大の父親に違いなかった。和大は『借金の連帯保証人になって失踪した』と言っていた。


 だがその男は、島にいた。

 そして、自分たちはあの日、その島を襲撃した。ただ、そこに住んでいた一人の父親。家族を守るために、娘の傍にいた人間。


──そしてその男を殺したのは、政悟だった。


 レイラの家を襲ったのは、政悟と土宮トウリだ。後にトウリは言っていた。「俺は役に立たなかった。女の子を一人殺しただけ」と。ならば、大人の男女──レイラの両親を殺したのは、政悟。

 隼斗の中で、全てが繋がった瞬間、世界が音を立てて傾いた。

 政悟が、和大の父親を殺した。弟が、兄の──あの兄の、大切な人を殺したのだ。胸の奥で何かが冷たく沈む。政悟は命令に従っただけだ。けれど、それでいいのか? 知らなかった、で済むのか?

和大はいつも政悟を守っていた。自分の命よりも、大切にした。


それなのに──


「……俺は、何を守ってきたんだ」


 思わずこぼれた声が、虚空に溶けた。誰にも聞こえない。聞こえてはいけない。

 正義とは、なんだったのか。任務とは、何を意味していたのか。守るべきだったのは、誰だったのか。

答えはどこにもなかった。

 ただ、残された写真だけが、動かぬ証拠として残っていた。

 

隼斗は写真を封筒に戻し、静かに懐にしまった。

写真はただ深く隼斗の胸の奥、誰にも届かない場所へ沈められた。

彼は忘れないことを選んだ。

この重さを、誰にも渡すつもりはなかった。

悲しみも、怒りも──すべてを己の中に封じる。


そして思った――最後まで見届けよう、この組織の行く末を。

誰の代わりでもなく、自分の意志として。ここで生き続ける者の使命として。

悲しみも憎しみも、語ることなく、叫ぶことなく──ただ、己の中に沈めていく。

それが、自分の選んだ生き方―――自分に科された使命なのだと隼斗は固く誓った。

※和大の父の話はep24「兄の断章」に出ています。『群青と茜色の空』ep29にも少しだけ説明があります。

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